第109話 超常現象研究所





 ――正義部第二部室『アジト』





「篠原さん、大丈夫ですかねぇ……」


「薬の毒素自体は解毒したが、禁断症状については早急に快復が見込める症状ではない。色々な療法を試しながら、経過を見るしかないだろう」



 篠原さんのケアについては、研究所の医療チームに任せることにした。

 普通の医療機関に任せると、薬のことで問題になると判断したからだ。

 あそこの医者は薬や精神系統に強いので、恐らくは問題ないだろう。



「前々から思ってたんだが、その研究所っていうのはどういう所なんだ?」


「あ、それ、自分も気になってました。お袋も世話になりましたし」



 真矢君の母君である晶子さんが拉致された事件の際も、研究所に後始末を頼んでいる。

 負傷した晶子さんや不破の治療を行ったのも、研究所の医療チームだ。



「研究所は、正式名称を『超常現象研究所』という。その名前の通り、超常現象について研究している施設だ」


「……滅茶苦茶胡散臭いんだが、大丈夫なのか?」


「ちゃんとした実績のある研究機関だよ。その実績を認められ、国からの援助も受けているそうだ。俺も一重も静子も、子どもの頃から世話になっている」



 何故研究所と俺達が繋がりを持てたかというと、小学生の頃、小遣い稼ぎのために動画サイトでちょっとした手品を披露していたことがあり、それを見た研究員が接触してきたという経緯がある。

 一歩間違えばモルモット扱いを受けていた可能性があったため危うかったのだが、結果的に研究所と繋がれたことは俺にとって好都合だった。

 研究所で前世と今世の常識の差異を学べたからこそ、今の俺があると言っても過言ではないだろう。



「っていうことは、魔術についても知られているんですね」


「全てを伝えたワケではないが、概ね理解はされているよ」



 現代科学では、まだ魔力をエネルギーとして観測できていないが、確実に存在していることは理解されている。

 一部の研究員には、実際に魔力門の解放を行った。

 身体強化の術しか教えていないが、自力で電力を発現した者もいる(魔力が少ないので一瞬だけだが)。



「まあ、信用できるのなら問題ねぇよ」


「何事にも絶対の信頼はないものだが、彼らのこれまでの実績は信用に足るものだと俺は思っている。一先ずは安心してもいいだろう」


「……引っかかる言い方だが、自信満々に信頼しろって言われるよりかは信用できるかもな」



 絶対の信頼などというものは、前世にも今世にも存在しない。

 何事も、自分の中で許容できるラインの信頼で納得するしかないのである。



「それで、これからどうするんだ?」


「静子は引き続き、データが拡散されていないかの確認と、別の被害者の割り出しを頼む」


「わかりました」


「尾田君と麗美、真矢君は、現時点でわかっている清水達の交流関係を当たってくれ。基本的には監視がメインで、接触は緊急時のみにするように」


「おう」「承知いたしました」「了解です!」



 一応注意しておかないと、この三人はやり過ぎるからな。特に麗美。



「俺と一重は、清水達をそそのかした大人がいるというクラブに行ってみる。津田さんは、今回は自宅待機ということで」


「っ! 久しぶりに良助と行動できるのね!」



 確かに、遊園地のデートを除けば、一重と二人で行動するのは久しぶりだ。

 中学生の頃は常に二人で行動していたと言っても過言ではなかったのに、高校に入って何故ここまで変わったのか。

 理由は仲間が増えたというのが大きいと思うが、関わる案件の危険度が増したというのも大きい。


 麗美と出会って(再会して)からというもの、ロクな目にあってない気がする。

 決して麗美のせいではないのだが、タイミング的に麗美が不幸を運んできたようなイメージが強い。

 本当に不幸を呼ぶ女じゃないだろうな……?



「あはは……、悪の総本部みたいなところに行くんじゃ、私足手まといだもんね……」


「足手まといという言い方は好きじゃないが、今回は津田さんの件とは別の危険があるから避けた方が良いと思っている。仲間外れにするようで悪いが……」



 津田さんは、『淫魔の角』の調査をするとき以外は、自宅にいてもらうのが最も安全である。

 単純に外に出なければ淫魔の転生者との接触は避けられるし、津田ベーカリーには魔除けの結界も張ってあるからだ。

 また、あんなことがあったため、店自体の防犯対策もしっかりされている(〇コムとも契約したようだ)。



「あ、そういうのは全然気にしないから大丈夫! 私は、とりあえず魔術の自主練でもしてるね!」



 津田さんは明るく笑ってそう言うが、やはり気にはしているだろう。

 全てを上手く調整することはできないが、なるべく彼女のこともケアしていきたいところだ。



「そう言ってくれると助かるよ。それじゃあ、俺達は津田さんを家まで送ってから、現場に向かう」



 クラブに制服で向かうワケにはいかないので、一度家に帰って私服に着替える必要がある。

 しかし、クラブ向けの服なんてあっただろうか……

 場合によっては、俺も一重も服を買うところから始めなければならない。



「一応確認なんだが、この中でクラブに行ったことがある人はいるか?」



 俺が尋ねると、津田さんだけが手を上げる。



「友達との付き合いで、何度か……」



 津田さんは少し恥ずかしそうにしているが、コチラとしては非常に助かる。



「それは助かる。俺と一重の服装について相談したいんだ。帰りながら、色々と教えてくれないか?」


「いいけど、私もそんなに詳しくないよ?」



 そうは言っても、やはりナマの経験が一番参考になるものである。

 女子目線でコーディネートしてもらったほうが、ウケも良いに違いない。


 ……って、俺は何を考えているのだろうか。

 ウケは関係ない。より自然に溶け込めるかどうかが重要だ。


 しかし、何事も初めての経験はソワソワするものである。

 案の定、一重も少しウキウキした様子だ。

 なんだか、少し心配になってきた……


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