第107話 尋問



 静子達と合流し、協力して不良4人を津田さんの待つビルへ運び込む。

 つい先ほどは人が通りかかったりもしたので、麗美には人除けの結界を張ってもらった。



「静子はコイツ等のスマホを解析してくれ」


「わかりました」



 俺は回収したスマホを静子に託し、念のため女性にも確認を取る。



「撮られた画像や動画について、俺達は見ないようにしますが、彼女――静子はデータの解析を行うため確認することになります。どこで共有されているか、どこに転送されたかまで確認する必要があるので、ご理解ください」



 たとえ同じ性別であっても、撮られた画像や動画は普通見られたくないだろう。

 しかし、データの所在を探るためには確認せざるを得ない。



「だ、大丈夫です。でも、その、本当にそんなことが、可能なのですか?」



 女性には、撮られた画像や動画は全て回収できると説明している。

 先程は簡単に信じていたが、段々と頭が回るようになり疑いを持ったようだ。



「可能です。ああ見えて静子は一流のハッカーでして、電子戦には滅法強いのですよ。彼女にかかれば、たとえデータが拡散されていたとしても、全て追えます」



 ただし、電子的繋がりのないスタンドアローンな環境にまでは流石に手が出せない。

 それに関しては、これから行う尋問で聞き出す必要がある。



「……あんな若い子が、そんなに凄い子なんて、正直信じられないわ」



 静子は背も低いし童顔だ。

 俺達と同い年だが、私服だと中学生くらいにしか見えない。



「まあ、無理もないでしょうね。ですので、証明してみせます。すいませんが、スマホをお借りしてもよろしいですか?」


「え、ええ、構いませんが」



 そう言って女性はスマホと取り出し、ロックを解除しようとする。



「おっと、ロックはかけたままで結構です」


「え、ほ、ホントに?」



 疑いの表情を浮かべつつも、女性がスマホを差し出してくる。

 俺はそれを受け取り、そのまま静子に手渡す。


 静子は流れるような動作でタブレットPCを取り出し、スマホとコードを繋げる。

 本当はこんなことをする必要すらないのだが、何も接続せずデータを引き出せば逆に疑われることになるだろうから、必要な演技と言える。



「……データを引き出せました。アナタの名前は、篠原 忍しのはら しのぶ、誕生日は5月15日で、年齢は21歳。家族構成は父、母、妹の4人で実家暮らし。月給は手取り25万円。……このくらいで宜しいでしょうか?」


「なっ!? 嘘! どうしてそんな情報が! 私のスマホに、そんなデータ入ってないのに!?」


「このスマホから、アナタの勤め先である「片桐商事」を確認し、ハッキングしてデータを抜きました」


「ホ、ホントに……? ウチって一応商社だし、セキュリティはそれなりに厳しいのよ?」


「厳しいと言っても所詮は市販レベルのセキュリティソフトですので、私にとっては容易いレベルでした。疑わしいのであれば、SNS上の会話なども抜粋しましょうか?」


「い、いいです! 信じます!」



 女性――篠原さんは、少し引いた様子だが本当に信じたようだ。



「静子の技術は信じてくれたようですし、次はコイツ等を尋問しましょうか」



 俺はそう言って、転がしてあるリーダーの腹に蹴りを入れる。



「ぐぇ!」



 ヒキガエルのようなうめき声を上げながら、リーダーが目を覚ます。

 急なことで拘束具も用意できなかったため、麗美が暗示系の魔術で手足を動かなくしている。



「こ、ここは、どこだ? 俺はなんで……」


「おはよう。俺のことは覚えているかな?」


「て、てめぇは、確か、いきなり現れて……!? なんだ!? 手も足も動かねぇ! てめぇ、何しやがった!」


「少し手足が動かなくなるようにしただけだ。骨も折れていないので安心してくれ」



 俺は笑顔でリーダーの脚を踏みつける。



「ぎぃやぁぁぁぁぁ! いてぇぇぇぇぇ!」



 酷く無様で嗜虐心を掻き立てられるが、これ以上は正義の味方のすることではないので我慢する。



「自分の状況が理解できたか? 今お前は、俺達に生殺与奪の権利を握られているということだ。余計なことは言わず、ただ素直に聞かれたことに答えればいい」



 そう言いつつ、俺は思考を曖昧にする暗示をかける。

 消費魔力1で行使できる簡単な魔術だが、自白剤のような効果をもたらすため尋問には最適だ。



「じゃあ、まずは名前と年齢、学校か勤め先を答えてもらおうか」


「し、清水、敏夫……、18歳。学校には、行ってねぇ」


「ふむ、静子」


「嘘はついていません」



 こういった輩は、自分の名前や身分を知られるのを恐れるため、普通なら名乗るようなことはしない。

 とりあえず、暗示にはしっかりとかかっていると思っていいだろう。



「それじゃあ、早速だが――」


「師匠、その前に宜しいでしょうか」



 俺が尋問を再開する直前、割り込むように静子が前にでる。



「なんだ?」


「この男は人間の屑です。尋問などという生易しいことはやめて、拷問にかけましょう。全身の骨をへし折るべきです」



 普段穏やかな静子が、戦士顔負けの殺気を放っている。

 コイツらのスマホには、余程酷いデータがあったようだ。



「気持ちはわかるが、それはダメだ」


「しかし師匠、この男を生かしておけば、いずれまた被害者が――」


「わかっている。俺もコイツ等には相応の罰と制約を与える必要があると考えている。ただ、最終的に判断を下すのは篠原さんだ。コイツ等の処罰に関しては、彼女の方針に従おう」



 俺と静子が同時に篠原さんを見る。



「え? え?」



 篠原さんは急に話を向けられ、よくわからないといった反応をしていた。



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