第104話 周辺地域の調査①



 魔術の訓練を始めてから1週間が経った。

 如月君と坊ちゃんは相変わらず「魔力の存在を感じとる」という段階ではあるが、少しずつだが成果が見え始めている。

 二人ともぼんやりとだが、魔力の片鱗を感じ取れているようであり、この分だとあと三日もすれば次の段階に移れそうだ。


 魔力を感じ取ることのできている津田さんに関しては、既に次の段階に進んでいる。

 具体的に言うと、「体内に魔力を循環させる」トレーニングだ。

 このトレーニングは文字通り魔力を体中に巡らせ循環させるトレーニングだが、これに関しても津田さんは既にマスターしつつあった。

 彼女には呪いの再封印をする過程で魔力の循環を行っているので、感覚を体で覚えているのだろう。

 この分だと、『身体強化』に関してもすぐにマスターしてしまうかもしれない。

 不幸中の幸い、といってところだろうか。

 呪われさえしなければこんな事態にはならなかっただろうから、なんとも複雑な話であるが……





「……で、今日はなんの集まりなんだ?」


「当然、部活動のためだよ」



 月曜日の放課後、『正義部』のメンバーには部室に集まってもらった。

 アジトではなく校内の部室に集まってもらったのは、純粋に部活動を行うためである。

 ちなみに坊ちゃんは正式な部員ではないため、今日は参加していない。



「純粋にって、そりゃあのボランティアみたいな活動のことか?」


「それとは少し違うかな。あれはイメージ戦略のようなものだったので、本来の活動とは異なるよ」



 尾田君が言うボランティアみたいな活動とは、以前俺達がやっていたゴミ拾いなどの活動のことだろう。

 あれは校内でボロクソになりつつあった俺達(主に俺)の評価を少しでも良くするための苦肉の策であり、本来の『正義部』の活動ではなかった。



「本来の活動って、この前説明された正義に関する……てやつ?」



 津田さんが恐る恐るという感じで質問してきた。

 意外にも活動に積極的なようで、少しだけ安心する。



「そうだ。と言っても、今日は別に不良と戦ったりとか、そういう荒事ではないから安心してくれ」


「……っていうと?」


「以前静子から少し説明があったと思うが、俺や一重、静子は、特に事件のない日は周辺地域の見回りなどをやっているんだ。その見回りを、今日はみんなにもやってもらおうと思っている」



 そう言って俺はスマホを取り出し、予め用意していたメールを全員に送信する。



「今、各自のスマホにメールを送信した。それを開いてみてくれ」



 俺に言われた通り、各自スマホを取り出しメールアプリを開く。

 SNSで共有しても良かったのだが、万が一電子的介入をされた場合一気に情報が漏洩することになるため、個人メールを使用している。



「これは、地図?」


「ああ。その地図に記した場所が、今回見回りを行う場所だ」


「……これ、もしかして一人一人違う場所?」



 麗美のスマホを覗き込んでいた津田さんが、いち早く地図の違いに気づく。



「正確には一人一人ではない。少なくとも二人には共通の地図を送っている。まあつまり、ペアを組んで見回りをしてもらうつもりだ」


「ペア……? 一人余るんじゃねぇか?」


「一重には静子と真矢君を任せるつもりだ。尾田君は麗美とで、俺は津田さんと一緒のペアで回る」


「……あの、良助? 何故、その組み合わせなのですか?」



 一重がやや不満そうな顔で尋ねてくる。

 一重から不満が上がるのは予測済だったし、回答は用意してある。



「一重と静子を組ませるのは、一重が突っ走るのを防止するためだ」



 一重は昔から、悪いモノを見かけると一々しゃしゃり出る悪癖がある。

 ストッパーがいないと、次から次に問題を発生させてしまうのだ。



「本当は俺とペアを組むのが理想なんだが、俺はなるべく津田さんと一緒にいた方がいいからな。かと言って、それに一重を加えた三人となると、戦力的にバランスが悪くなる。これが一番バランスの良い組み合わせなんだ。理解してくれ」


「うう……、わかりました」



 一重はまだ納得していなさそうであったが、自分の悪癖については承知しているようで、食い下がってはこなかった。



「でも、見回りって、具体的に何を見て回るの?」


「不良達の動向だ。地図に記したポイントはそういった輩がたむろしやすい場所になる」


「不良って……、大丈夫なの?」



 不良と聞いて、津田さんが不安そうな声をあげる。



「監視ポイントの安全は確認している。既に人除けの結界も設置済だ。不測の事態にも、俺や麗美、静子であれば十分対処できるだろう」



 なんらかのアクシデントで人除けの結界が機能しなかった場合は、静子と麗美がフォローする手筈になっている。



「そういう方面は専門外だから任せるが、不良なんかの動向探ってどうするんだよ?」


「確認したいのは、他所の地域の不良が侵攻して来ていないかと、何らかの魔術的な影響が出ていないかだ」


「そりゃ……、見てわかるモンなのか?」


「判断については麗美に任せてくれていい。尾田君には麗美の護衛を任せたい」


「……そういうことなら、わかりやすいな」



 そう言って尾田君は指をポキポキと鳴らす。

 ここのところの彼は以前にも増して血の気が多い気がするので、少し注意した方が良いかもしれない。

 麗美にはその辺のコントロールも頼んでおくとしよう。



「同様に、一重も静子の護衛を頼む。真矢君は二人の補佐だ。それと、もし静子が一重を抑えきれなかった場合、体を張って止めてくれ」


「わ、わかりました!」



 如月君には中々に酷なことを頼むことになるが、ここは我慢してもらおう。



「よし、それじゃあ早速だが、現地に向かおうか。各位、くれぐれも無理はしないように」



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