第102話 魔術に関する説明①
学校が終わった後、俺達は校内の部室には寄らず、第二の部室であるアジトに集まっていた。
「それで、今日はなんだってココに集まったんだよ?」
「込み入った話をする為だよ」
「込み入った話?」
「具体的には、魔術に関する話だ」
「っ!」
俺がそう言うと、尾田君は驚いたように目を見開く。
「そいつは……」
「兄者! ついに俺にも魔術の手ほどきをしてくれるんですね!?」
尾田君が何か言おうとしたところに被せるように、興奮気味の如月君が割り込んでくる。
結果的に尾田君は言葉を飲み込んでしまった。
「……まあ、そんなところだよ。シンヤ君にだけということではないけどね」
「っ!? よっしゃーーーーー!」
拳を天に突き立てガッツポーズを決める如月君。
その姿は某世紀末覇者拳王のようであった。
「……なんで今更そんな気になったんだ? お前、その手の話題避けてただろ?」
「おい尾田! 余計なことを言うな! 兄者の気が変わったらどうするつもりだ!」
尾田君のもっともな疑問に対し、如月君が突っかかっていく。
なんだかんだ、もう見慣れた光景である。
「気が変わったりしないから安心してくれ、シンヤ君。今回魔術に関して説明しようと思ったのは、今後のことも考えてのことだからね」
現在の状況については、津田さんの歓迎会の時に説明している。
だからこそ、今の言葉で二人とも俺の真意を察してくれたようだ。
「理由はわかったが、アイツにも聞かせていいのかよ?」
そう言って尾田君が視線を送ったのは、同じ学校の先輩でもある坊ちゃん――本名、
「聞かせるつもりだからこそ、今日ここに呼んだのさ」
俺がそう言うと、坊ちゃんは何故か嫌そうな顔をして部屋を出て行こうとする。
「待ちたまえ。何故逃げようとする」
「……なんか嫌な気配がしたからだよ。厄介事は御免なんだけど」
中々に勘の良い男である。
やはりこの男は、使い方さえ間違えなければ優秀な手駒になりそうだ。
「ふむ。そういう意味ではもう手遅れだと言っておこう。俺達に関わった時点で、君の身は危険にさらされる可能性があるからね」
「な、なんでだよ!?」
「今後俺達は、魔術師と敵対する可能性がある。そうなれば、関係者である君にも被害が及びかねないんだよ」
「お、俺を売るつもりなのか!?」
「そうじゃない。相手が魔術師であれば、俺達が言おうと言うまいと、君に辿り着く可能性があるんだ」
相手が魔術師であれば、俺達の誰かから強制的に情報を抜き出すことも不可能ではない。
極力そんなことにならないよう準備を進めるつもりだが、不測の事態についても予め想定しておくべきだろう。
「……もうワケわかんないよ。魔術って一体なんなの?」
「それをこれから説明するつもりだ」
俺がそう言うと、坊ちゃんは渋々といった様子で部屋の中に戻ってくる。
「それを聞けば、安全なんだろうな?」
「少なくとも、聞かないよりは安全だよ」
坊ちゃんは俺の回答に不満そうな顔をするが、大人しく席に着いた
ひとまず話は聞く、ということなのだろう。
……………………………………
…………………………
………………
「それでは、これより第一回 基礎魔術講座を始めたいと思う。静子、画像の方を頼む」
「わかりました」
俺の指示に従い、静子がスクリーンに人の体を模した絵を映し出す。
「絵で見て貰った方がわかりやすいと思って、こんなものを用意した」
「これは、よく教科書とかで見る人の絵ですね。このお腹の辺りにある炎のようなものは?」
この中で最も魔術に関して精通しているであろう麗美が、一番興味深そうに話を聞いているのは何故だろうか……
少々腑に落ちないが、話しの流れを阻害するワケではなさそうなので好きにさせておくことにする。
「これは所謂、魂のようなものだと思って欲しい」
「魂、ですか」
「あくまで仮定だが、そのようなものだと思って構わない」
魂という概念は、前世でも今世でもあまり差異がない。その存在の曖昧さも含めてだ。
色々な説はあるが、共通しているのは体とは別の霊的な存在というイメージだろう。
この世界では一般的に、肉体や精神の活動をつかさどる人格的な存在という風に解釈されている。
「この魂が持つエネルギーこそが、俺達が魔術に用いる魔力の正体だ」
「……それは生命エネルギーみたいなものですか?」
麗美に対抗心を燃やしたのか、如月君も質問を投げてくる。
「解釈としては異なるね。生命エネルギーは、どちらかというと体力とか肉体的なエネルギーを指す。それに対して魔力の場合は、気力とかやる気とか、精神的なエネルギーに近いと言えるだろう」
「成程。でも、魂って誰にでもあるものですよね? それなら、俺にもあるってことですか?」
「もちろんだ。ただ、如月君の場合は、まだ魔力門が開いていないから、魔術を使ったりはできないがね」
「魔力門?」
「図で説明しよう」
俺の指示に従い、静子が映し出されたスライドを変更する。
「通常、魂に蓄積されている魔力は、この図のようにダムでせき止められた状態になっている。この状態では魔力が体を巡らず、魔術を行使することはできない」
「……つまり俺の魂は、その魔力門っていうのにせき止められてて、ダムみたいな状態になっているんですね?」
「そうだ。そして以前尾田君に行ったのが、この魔力門の開放だ」
「っ! あの時のか」
以前、如月君の母である晶子さんと、兄のタクヤが攫われるという事件があった。
その際、主犯である不和という男が不完全な身体強化を使い狂戦士化して襲ってきたのだが、それに対抗する手段として、尾田君に『魔力起こし』を施している。
アレこそが、魔力門の開放である。
「あれは『魔力起こし』という技術で、閉じている魔力門を少し強引にこじ開ける方法だ」
「じゃ、じゃあ俺にもそれをしてもらえばいいんですね!」
「いや、『魔力起こし』には副作用があるので、如月君には使用しないつもりだよ」
「そんな!?」
「いや如月、アレはマジでオススメしねぇぞ」
『魔力起こし』には副作用がある。
それは、魔力門が解放されることで、普段通っていない所に魔力が巡り、全身が一種の興奮状態になってしまうことだ。
この状態は全身がハイになったようなもので、一時的に身体能力の向上といった恩恵を受けられる。
それを利用して、以前尾田君に無理やり身体強化を行ったのだ。
しかしながら、当然リスクは存在している。
「尾田君は体験しているからわかると思うが、『魔力起こし』で一気に魔力を開放すると、一時的に身体能力の向上などの恩恵を受けることができる。ただ、それは全身が一種の興奮状態になることで引き起こされる副作用であり、その反動は後から来ることになる。尾田君はあの時、二日ほど地獄を見たんじゃないかな?」
「ああ……、あれは正直思い出したくもねぇ……。痛風は風が当たるだけで痛いって聞くが、全身まさにそんな感じだったぜ……」
「マ、マジかよ……」
あの尾田君が顔色を悪くしているのを見て、如月君も流石に少しビビったようだ。
と同時に、情けない顔でコッチを見てくる。
「そんな顔をしないでも、他に方法はあるから安心してくれ。少し時間はかかるが、安全に魔力門を開放することができる」
「本当ですか!?」
喜色満面といった感じで喜びが表情に出まくる如月君。
君、そんなに表情豊かだったんだな……
普段はムッツリした表情をしているから、気づかなかったよ。
「早速説明……と言いたいところだが、その前に魔術について説明をしたい。如月君には悪いが、魔力門の開放についてはもう少し待っていてくれ」
俺がそう言うと、如月君は見るからに意気消沈し、しょんぼりとした顔になる。
百面相のようで面白いが、このまま弄り続けても可哀そうなので、さっさと魔術の説明を開始することにした。
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