第75話 経営戦略会議?
あれから、少し調べてわかったことがある。
どうにも、津田ベーカリーはタチの悪い不動産会社に目を付けられているらしい。
その報告を受けて、俺達は坊ちゃんから借りている部屋に集まっていた。
「津田ベーカリー周辺の過去データを参照すると、以前は他にも店が立ち並んでいたようです」
そう言って、静子は全員にプリントアウトした資料を配る。
資料には、津田ベーカリー周辺の古い地図や、どんな店が存在したかという詳細なデータが解り易く記載されていた。
「……つまり、他の店はその不動産屋に全部立ち退きさせられたってことか?」
確かに、津田ベーカリーは商店街からは少し外れた住宅街に在り、周囲に他の店は見当たらない。
住宅街の店なんてのは大体同じような状態だと思っていたが、このデータを見る限り、どうやら人為的要因があったようだ。
「正確には、宅地建物取引を直接行う本社とは別に、仲介を行っている協力者がいるようです」
「協力者?」
「ええ、巧妙に隠しているようですが、別の地上げ屋が絡んでいるのは間違いないでしょう」
地上げ屋か……
一昔前だと、恐喝だとか暴力団だとか、悪いイメージばかり浮かんでくるが……
「……地上げ屋と言うと、もしかして暴力団とかが関わっていたりするのか?」
「いえ、地上げ自体は合法ですし、これまでの物件に関してそういった情報は一切見つかりませんでした」
「……じゃあ、さっき言ってたタチが悪いっていうのは?」
「やり口が巧妙なのです。現代風に対応しているとも言えます。2ページ目を見てください」
そう言われ、俺達は資料のページをめくる。
そこには、SNSや地方掲示板の過去ログといった細かいデータが、ギッシリと記載されていた。
「……こりゃすげぇな、こんなもん、良くかき集められたな?」
「麗美さんにも手伝って貰いましたし、まあ得意分野ですので」
「得意分野……、俺にはとても真似できねぇぜ……」
尾田君が感心半分、呆れ半分といった様子で呟く。
如月君や坊ちゃんなんかは、静子に尊敬の眼差しを送っているようであった。
「……これは、許せないわ」
そんな中、内容に目を通した一重が、怒りをあらわにしていた。
一重はこういったことに一切耐性が無いので、無理もない反応だろう。
「……情報操作ってことか。確かに、これなら暴力や恐喝にはならないな」
SNSや掲示板の過去ログ……
そこには、過去に存在していた店や、津田ベーカリーに関する悪評や悪口が敷き詰められていた。
軽いものから、暴言に近いものまで、ありとあらゆるデータをかき集めたのだろう。
麗美の手も借りたようだが、流石は静子と言わざるを得ない。
「ご丁寧にIDやアカウントまでしっかり変えていることから、それなりに慎重な輩のようですね。……詰めは甘いようですが」
そう言って静子は次のページをめくる。
それに合わせて全員同じようにページをめくると、そこにはさらに細かいIP情報などが記載されていた。
途端に一重や尾田君の表情が険しくなる。
「少し複雑なデータなので、資料はあくまで参考程度に見て頂ければ良いです。解説しますと、これらのデータは先程のページにまとめた書き込みを行った際に、接続を行ったIP情報、ホスト端末の地域情報になります。全てではありませんが、これらにある程度関連性を見つけることができました」
IPやホスト端末情報は、本来ならシステムの管理者でも無ければ見ることはできない。
部外者でそれが可能な者は、ある程度腕のあるのハッカーや、静子のような術士くらいのものだろう。
「……ようするに、ほとんどが単独犯ってこと?」
状況をある程度理解できたらしい坊ちゃんが、確認するように静子に尋ねる。
「流石に個人ということは無いでしょうが、業者だとしても規模は大きく無いでしょうね」
「ってことは、やっぱり暴力団とかが関わってるのか?」
「可能性は否定できません。ですので、今回の件は少々危険を伴う可能性もあります」
静子は俺に伺うような目線を送ってきた。
その上で、俺がどうするか意見を委ねるということだろう。
(さて、どうしたものかな……)
暴力団が関わっているとなると、俺達が津田ベーカリーの宣伝していると知られれば、厄介事になる可能性がある。
これだけ慎重に行動する者達であれば、表沙汰にならないような脅しや恐喝行為をしてくることも十分にあり得るだろう。
そうでなくとも、津田ベーカリーがされているような悪質な噂を流されるなどされれば、面倒なことになるのは間違いない。
しかし、だからといってこのまま津田ベーカリーを放置するのは、心情的にあり得ない……
となると……
「……例え危険であろうとも、こんな汚いやり方をする輩を放置することはできない」
「良助……!」
俺がそう答えると、一重は嬉しそうに俺に抱き着いてきた。
「こ、こら、抱き着くのはやめなさい!」
俺が慌てて引き剥がすと、一重はハッとなってすぐに小さくなる。
全く……、外ではスキンシップは控えろと言っているのに……
少し胸をドキドキとさせていると、尾田君が胡散臭そうな顔でこちらを見ていた。
「……なんだい? 尾田君」
「あ、いや、なんでもねぇよ。それより、何か対策を練るとして、どうするつもりだ?」
話を逸らされる。
しかし、その方が好都合だし、良しとするか。
「それについては静子のことだ、既に考えているんだろう?」
「……はい」
そう答え、静子は再びプリントアウトした資料を配る。
資料を二つに分けていたのは、俺の決定次第で不要となる可能性を考慮したからだろう。
「実際、やることは実に単純ですよ。我々は、正攻法で臨めば良いのですから」
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