第26話 正義の味方達①
「正義の……、味方……? ……ああ! 君はあのとき如月達に絡まれていた……。じゃあ、もしかして後ろの金髪の女の子があのときの? ……これは驚いたな、遠目からでも綺麗な娘かなとは思ってたけど、ここまで上物とはね……」
まるで品定めでもするかのようなイヤらしい視線を受け、一重が少しビクつく。
その視線を遮るように、俺は一重の前に立つ。
「あまりウチの一重を変な目で見ないでくれるかな?
俺が名前を呼ぶと、イヤらしい視線は引っ込み、代わりに鋭い視線を俺に向けてくる。
「……何故、俺の名前を?」
「そんなの、調べたからに決まっているでしょう?」
自分の名が知られているのが、そんなに意外だったのだろうか?
別に、こっちは大した調査はしていないんだが……
だってコイツ……、如月拓矢の隣のクラスだからな。
「……フン、まあいい。お前達もいずれ、俺の配下に加える予定だったんだ。こっちの計画が遅れた分、お前達を前倒しで配下にするのもアリかもな」
それを聞いて、尾田君がペッ、と唾を吐き捨てる。
「こんだけクソみてぇなことしておいて、配下だ? 笑わせんじゃねぇぞ……?」
……あの、尾田君? 悪態をつきたくなる君の気持ちはわかるけど、ここで唾を吐くのはやめてくれないかな?
乱戦になるとこっちが踏む可能性もあるし、最悪、手や体に……、いや、考えないでおこう……
「尾田君? 汚いので唾を吐かないでくれませんか?」
麗美も同じことを考えたのか、嫌悪感丸出しの顔で尾田君の行動を
「す、すまん……」
尾田君は慌てて靴底で吐いた唾を消そうとするが、コンクリートの地面ではそれが引き伸ばされるだけであった。
……きちゃないね。
「緊張感のない人達だねぇ……? 今の状況、わかってる?」
そう言って男、不破卓は懐からナイフを取り出し、晶子さんの頬にペシペシと当てる。
緊張感の走る場面なのだろうが、晶子さんの白くて豊満な胸がさらけ出されているため、若干目のやり場に困る。
「てめぇ……」
「実はさ、これから俺達は彼女が屈服するまで
…………ふむ。
中々の悪党だな、不破卓。
チラリと尾田君を見てみると、悔しさと怒りから顔を真っ赤に染めていた。
少なくとも、彼のやり方は尾田君のような人間には効果
ただ、火に油を注ぐやり方はあまりお勧めできない。
こういうやり口は悪党の中でも3流……
少なくとも、プロなら絶対にやらないやり方である。
「み、みんな、こんなオバさんのことは放っておいていいから、逃げなさい?」
晶子さんが細々とした声を、振り絞るようにして俺達に声をかける。
この状況で未だに人を気遣えるなんて、本当に晶子さんは大したものだと思う。
「アナタは黙っていればいいんです、よ!」
「っ……!」
不破が晶子さんの腹に蹴りを入れる。
……ああ、いかんな。
これは、もう駄目だ……
理性で押さえつけていた怒りの感情が、溢れ出して徐々に俺の心を満たしていく。
こんなに腹立たしいのは久しぶりだ……、コイツには、地獄を見てもらうことにしよう……
「マスター!」
「……ああ、晶子さんの状態がかなり悪い。早々に決めるぞ、麗美」
晶子さんの唇が、青紫色に変色している。
恐らくはチアノーゼ……
しかもその症状は、今不破に蹴られる前から出ていた。
恐らくだが、腹部への攻撃は一度目じゃないのかもしれない。
下手をすれば、内臓に障害が出ている可能性がある。
「ん? 何? 何かやる気かな? 言っておくけど、あのテクノブレイクってふざけた名前の技は効かないと思うよ? 一応対策として、全員にお守りを持たせているからね」
テクノブレイクが知られていること自体に驚きはない。
何らかの対策が練られていることも、織り込み済みである。
「知っているよ。お前達が少し魔術かじっていることも、悪趣味な儀式で非道なことをやっているのも、全部知っているさ」
「何っ!?」
「一重!!」
こうなることは想定済だ。
だから、あらかじめ合図は取り決めてあった。
俺が指さす方向、不破に向かって、一重は一気に駆け出す。
その速度は尋常ではなく、不破は呆けた様子でそれを見ていた。
「へっ?」
不破が間抜けな声を上げた瞬間、一重のつま先が奴の腹に突き刺さっていた。
「ぐぺっ!?」
良くわからない声を上げながら吹っ飛ぶ不破。
持っていたナイフが吹き飛び、如月真矢の頬をかすめる。
あぶな!? 麗美の奴、ちゃんとフォローしてるんだろうな!?
確認している暇はない。俺達は各自、既に行動を開始している。
尾田君は晶子さん、麗美は如月真矢、そして俺は如月拓矢の確保に成功する。
一重のあまりの速さに驚いたのか、周りの男たちは俺達の行動に全く反応できていなかった。
「よし、とりあえず人質の確保は完了。一重! 10秒以内に可能な限り倒してくれ!」
「任せて!」
一重は応えると同時に、再び凄まじい速度で加速。
取り囲んでいた男達を次々に倒していく。
「う、嘘だろ!? 速過ぎゃっ!?」
放心状態から立ち直った者の中には、一重の速度になんとか反応してみせる者もいた。
しかし、今の一重は、時速にして100キロ近いスピードで駆け回っているのである。
人間サイズのモノがそんな速度で迫ってくれば、反応できたとしても迂闊に手を出せるワケもなく……
「グハッ!」
一重の蹴りの餌食となるのであった。
「ハァ……、ハァ……、ご、めんなさい良助、もう、限界……」
10人以上いた男達の約半分を倒しきったところで、一重の加速が止まる。
加速できるのは大体7秒弱、か……
実戦では、このくらいが限界なのかもしれない。
「いや、良くやった一重。一重のお陰でほぼ決着はついたよ」
男たちは、まだ半数ほど残っている。
しかし、一重の速度に恐れをなしたのか、全員不破が転がっている辺りまで逃げ出していた。
「そう、良かった……」
グラリと倒れそうになる一重を、駆け寄ってギリギリで抱きとめる。
俺はそのまま一重を抱えて、尾田君と麗美に合流する。
如月拓矢は無事だが、弟の方と晶子さんは結構ダメージが深そうだ。
すぐにでも治療を……
「っざっけんじゃねぇぞぉ!!!! てめぇらぁぁぁぁ!!!!?」
おいおい……
加減をしたとはいえ、100キロ近い速度からの蹴り喰らったんだぞ?
何故立てる……
フロアの奥、仲間の手も借りずに立ち上がった不破は、よだれをまき散らしながら叫ぶ。
その口調には先程までの余裕ぶった様子は一切なく、瞳は憎悪の色に染まっていた。
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