第19話 如月真矢は特撮好き?
「ちょっとーっ! 真矢! お友達が来たわよ!」
『るせぇーっ! そんなモンはいねぇっ! とっとと仕事行きやがれ!』
廊下に出ると、晶子さんがドアをノックしながら中に語りかけているようであった。
どうやら、あの部屋が如月真矢の部屋らしい。
それにしてもこの家、2DKか……
古いマンションとはいえ、そこそこお値段がしそうである。
女手一つ、しかも借金持ちだったという如月家が、賃貸とはいえこんな所に住めるのは少し不思議だ。
ガチャガチャ
「もう、真矢ったら鍵かけてるわ……。個室があるのも考えものね……」
「……あの、晶子さん、このマンションに住み始めたのって、いつ頃からなのですか?」
「ん~、上の拓矢が中学に上がる時だったから、もう5年くらい経つかしら? ここに越してくる前は全員同じ部屋で生活してたんだけど、最近は少しあの頃が恋しいのよねぇ」
「成程……。いえ、この家が中々良い部屋だったもので、少し驚いたんです。……経済的にかなり大変だったのでは?」
ここは別に都会じゃないし、家賃が月々10万かかるなんてことはないと思うが、生活費もあるのだし相当厳しいように思う。
……いや、晶子さんは正直綺麗だし、結構余裕で稼げてしまうのだろうか?
キャバ嬢の月収は、サラリーマンの月収を遥かに上回ると言うしなぁ……
「ふふ……、実はこの部屋なんだけど、私のお客さんが都合してくれてね? 結構格安なの。こう見えて私、モテるのよ?」
そう言って、ウフンとお色気ポーズ的なものを取る晶子さん。
こう見えても何も、普通に美人だと思うけどなぁ……、っといかんいかん。
こんなことを考えてると、また3人に変な目を向けられてしまう。
「じゅ、十分、晶子さんは、その、綺麗だと思うっス」
おお? 攻めるね尾田君。
ひょっとして、惚れてしまったか?
もしそうなら応援したいと思う。
ただ、上手くいったらいったで、如月兄弟が更にグレそうな気はするが。
「あら、ありがと♪ さて、でもあの子の言う通り、私もそろそろ仕事に行かないといけないのよね」
「あ、でしたら俺達も今日のところは帰ります」
「いいのいいの! 折角だし、このままあの子に話しかけてあげて頂戴? はい、鍵渡しておくから。帰るときは新聞受けに放り込んでおいてね」
そう言って、テキパキと準備を始める晶子さん。
特に急いでいるようには見えないのに、瞬く間に準備を整えてしまった。
デキる女という感じがする。
「それじゃ、行ってくるから! 真矢! アンタもちゃんとご飯食べるのよ! それじゃ皆さん、また来てね。行ってきまーす」
バイバイ、と手を振って出ていく晶子さんを見送り、俺達は再び如月真矢の部屋の前へ。
流石に5人もいると手狭だな……
コンコン
「1-Cの如月君? 自分は1-Bの神山です。今日は学校のことでお話があるので伺いました」
『……ああ? 誰だよてめぇ? 俺はてめぇなんぞ知らねぇし、学校のことなんか聞きたくもねぇんだよ。お袋も仕事行ったんだろ? だったらてめぇらもさっさと消えやがれ!』
「まあまあ、そう言わずに、ここを開けてくれませんかね?」
『………………』
返事がない。
どうやら、もう話すことはないと無視を決め込むつもりらしい。
ガチャガチャ
依然として部屋の鍵はかかったままである。
後から取り付けたのか、扉の作りの割には中々しっかりとした鍵だ。
ふむ……
「静子、いけるか?」
そう言うと、静子が鍵を観察し始める。
10秒ほど見たり触ったりしてから、こちらに振り返る。
「いけます。し……神山君」
「そうか。ではやってくれ」
コクリと頷き、ポケットから良くわからない金属を取り出してカチャカチャ始める静子。
「お、おい、お前らまさか……」
「解錠成功です」
「ご苦労様。では、開けるとしよう」
尾田君のツッコミを無視し、速やかに開錠をしてしまう静子。
何故い静子がこんなことができるか……
それはもちろん、ワシが育てたからである。
「失礼するよ如月君」
返事を待たずに扉を開ける。
如月真矢はジャージのようなものを着て、ノートPCで何かの動画を見ている最中のようだ。
ヘッドフォンを付けているので、どうやら本当にこっちの声は聞こえていなかったようである。
しかし、音は聞こえずとも、部屋の扉が開かれたことくらいは気づいたらしい。
こちらを振り返った如月シンヤは、目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。
「て、てめぇら!!! 何勝手に入って……、って、ゲェェッ!? 尾田!?」
「ゲェェッ!? だって尾田君。凄い反応されるね?」
面白おかしい反応をする如月真矢。
その反応を見て、尾田君は気まずそうにポリポリ頬をかくだけであった。
ちなみに、如月真矢は余程驚いたのか、ノートPCを乗せたテーブルごと部屋の隅まで後退していた。
「……さて、面白い反応をしているところ悪いけど、早速自己紹介をさせて貰うよ。俺は1-B、『正義部』所属、
俺の自己紹介に対し、如月真矢は口をパクパクさせ、声にならない音を漏らすだけである。
……うーむ、そんなに驚いたのかな?
もしかして、本当に尾田君のことを恐れている?
『ハッハッハ! 愚かなりゴレンジャイ! 貴様らは罠にかかったのだ!』
ヘッドフォンが抜け、スピーカーに切り替わったノートPCから音が漏れる。
如月真矢が見ていたのは、一重も大好きな特撮であった。
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