第17話 尾田君は絶対に見た目で損している

 



「……お前、何やってんだ?」



 放課後、何か拾うゴミでもないかと教室の隅々をチェックしていると、クラス1の巨漢である尾田君に話しかけられる。



「やあ、尾田君。いやなに、ゴミでもないかとチェックをしていただけだよ」



「ゴミって……、なんでまた?」



 いぶかし気な目で見てくる尾田君。



「それはもちろん、教室を綺麗にするためさ。それにしても、尾田君は優しいね……。男子で俺に話しかけてくる奴なんて、今や尾田君くらいかもしれないよ……」



 そんな視線に、俺は愁いを帯びた表情で応える。

 尾田君はそれを見て何か察したらしく、気まずそうに目を逸らす。

 こんなことで気まずく感じる辺り、尾田君の人の好さがうかがえる。


 ちなみに先程、同じように話しかけてきた委員長の長谷部さんに対し今と全く同じ回答をしたのだが、「ゴミはアナタじゃないの?」と真顔で返された。

 悲しい。実に悲しい……



「あ、ああ、あの件か……。何か大変そうだな……。俺は興味なかったからスルーしてたが、そんなことになってんのか……」



 そういえば、尾田君はあの囲いの中にいなかったな気がする。

 男子であの囲いに参加していなかったのは尾田君と、同様に興味なさそうにしていた清水君、そしてオタク寄りの地味な少数グループくらいだろうか?

 女子にはもう少しいたけど、囲いに参加していなかっただけで俺を見る視線はとても辛辣なものだった。



「まあ、なんつーか、そのうち他の奴らも飽きるだろ? あんまり気にしないでいいんじゃねぇか?」



「……ありがとう、友よ」


「友って……、お前やっぱ少し気持ち悪いとこあるな……」



 そんな! 何故だ! 俺の尾田君への信頼は今まさに最高潮にあるというのに!!!!



「ま、まあいいや……。ところでよ、その、あれから如月兄に呼び出されたりとか、何か言われたりとかしてねぇか?」



 如月兄とは、現在不登校中で部屋に引き籠っているらしい1-Cの生徒、如月真矢の兄のことである。


 一週間以上前のことだが、尾田君は如月兄から屋上に呼び出され上級生数人に取り囲まれるという、不良漫画でありがちな状況に陥っていた。

 如月真矢は尾田君との揉め事が原因で不登校になったらしく、如月兄はその報復で尾田君を呼び出したようである。

 まあ実際のところは、尾田君は適当にあしらっただけで、ほとんど如月真矢の自爆だったみたいだが……



「いや、特には何も……。まあ、彼らも下級生、それも女子にコテンパンにされたなんて広められたくないだろうから、大人しくしてるんじゃないかな?」


「それならいいんだがな……」



 指でポリポリと頬をかきながら目線を逸らす。

 ありがちな仕草に見えるが、リアルでは中々お目にかかれない仕草である。

 それこそ漫画やアニメでしか見ないようなレベルだ。

 尾田君の場合アニメなどには疎そうだし、特に意識しないでやっているんだろうが。



「……それが本題かい? 他に相談事があるのなら力になるけど」


「ああ……、すまん、ちっと言い出し辛くてな……。ここじゃなんだし、少しいいか?」



 そう言って親指で後ろのドアを差す。

 どうやら、ここでは話したくない内容のようだ。

 放課後と言っても終業直後であり、教室には半分近いクラスメイトが残っている。

 内緒話をするには、少々人の耳が多いのは確かだ。

 ……それに、今の俺と一緒にいると変な噂をたてられかねない。

 というか、今も何やらヒソヒソ話をされている気がする。



「……構わないよ。行こうか」



 俺としても、このままここで会話を続けるのは精神的にキツイので、素直に尾田君の案にのる。

 尾田君は俺の返事を聞くとそのまま教室の外に向かったので、とりあえず拾ったゴミを手早く捨ててからそのまま後についていくことにした。





 ◇





 階下の喧騒とは隔離されたような空間、屋上の踊り場である。

 別に静かでも何でもないのだが、日常と隔離されたような不思議な感覚を覚える場所だ。



「……で、なんで転校生や雨宮がいるんだ?」



 俺が聞きたいよ。



「だって、良助が尾田君にひと気のない所に連れ込まれたから……」


「怖そうな人が神山君を連れて行ったので……」



 ああ、そういうことね。

 確かに、見た目的にかなり怖い部類に入る尾田君が、見た目的には真面目な生徒である俺を連れ出したのだ。

 イジメや脅しの類が行われると疑うのも無理はない気がする。

 しかし、一重の言い方は他の誤解を生みそうなのでやめてもらいたい。



「っと、すまん。確かに俺なんかが神山を連れ出したら、何かされると思うよな……」



 誤解なのにわざわざ謝る尾田君。

 こんな見た目なのに、お人好しだなぁ……



「安心しろ一重。俺から相談に乗ったんだよ。それより麗美、お前は目立つんだから、行動には気を付けろよ? ……他の奴らに尾けられたりしていないだろうな?」


「大丈夫です。しっかり気を付けて・・・・・来ましたから」



 まあ、麗美がそう言うのであれば問題はないだろう。

 ニュアンスからして、恐らくなんらかの術を使ったに違いない。

 人払いの術は以前も使っていたし、そのくらいの魔力は麗美の総魔力量であれば大した消費ではないのだろう。



「なら良い。それで尾田君、尾田君の相談事は彼女達が聞いても問題無い内容かな?」


「それは構わねぇが、雨宮はともかく、転校生には関係ない話だぞ?」



「私も神山君や雨宮さんと同じ『正義部』ですよ、尾田君。それと、私は杉田 麗美すぎた れみです。杉田とでもお呼び下さい」



 ニコリと笑顔を作って手を差し出す麗美。

 驚いた表情をしつつも、握手に応じる尾田君。

 恐らく、麗美クラスの美少女に笑顔で手を差し出されて応じない男子高校生はいないのではないだろうか……

 笑顔だけ見れば、完全にどこかのお嬢様だからな。

 俺も中身を知らなきゃ、間違いなく騙されていただろう。



「……それで尾田君。相談事っていうのは?」


「あ、ああ……、その、如月弟のことなんだがよ……」



 尾田君の相談事は、どうやら現在も引き籠り中らしい1-Cの如月真矢についてのようだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る