第10話 俺は戦闘力5のおっさんと思われているようだ
「ふむ……、総魔力25ですか。中々の逸材ですね……。おっと、僕の名前は……、いいか。初めましてお嬢さん。ちょっとお話しをしませんか?」
いきなり現れた少年は、ニコニコ笑いながらそう切り出してきた。
この状況でその笑顔は、逆に警戒心を強めるだけだと思うのだが、わかってやっているのであれば中々に曲者だ。
一重も困惑しているようで、さっきからひっきりなしに俺と少年を交互に見ている。
「警戒させてしまったかな? 心配しなくても敵意はありませんよ。ただ、そろそろ彼らも復活しそうですし、少し場所を変えませんか?」
その問いに対し、どうする? と視線を投げてくる一重。
得体のしれない相手に迂闊に逆らうと危険だ。
俺は警戒しつつも一重に頷き返す。
「い、いいわよ。でも、良助も一緒じゃなきゃ駄目ね!」
「ふむ……。まあ僕としてはお嬢さんにしか用は無いんですが、心情的には仕方ないですかね……。いいですよ。では、付いてきて下さい」
そう言って、背を向けて歩き出す少年。
一見隙だらけだが、あれは恐らく逃がさない自信の表れだろう。
俺達は、罠などを十分に警戒しながらもそれに付いていく。
万が一に備え静子に連絡を取ろうと思ったが、繋がらない。
どうやら、電波妨害までされているらしい。
(一重、気づいているかもしれないが、アイツ魔力を使うぞ。十分に気を付けろ)
(わ、わかったわ)
一重も気づいていたようだが、動揺が隠せていない。
何しろ、俺や静子、研究所の人以外では初めて見る魔力使いなのだ。
正直、動揺するのは無理もないと言える。
しかも、少年は一重を見て、総魔力25と言った。
この数値は俺の想定値とほぼ一致している。
それはつまり、少年にはこちらの魔力を計るなんらかの術があるということを意味している。
魔力の計測は研究所でも未完成の技術であり、機械的な測定は未だ実現していないというのに、だ。
……いや、絶対にそうだとは言い切れないが、少なくとも日本には存在していないだろう。
つまり、少年は科学的ではなく、魔術的な技術で一重の魔力を計測したということだ。
その事実は、俺達にとって不安要素でしかない。
天然の、いわゆる超能力者的な存在であればまだ良いのだが、なんらか組織的なものが背後に存在していると非常に厄介である。
「さて、この辺でいいかな。一応、人避けはしてあるから心配はしないでいいですよ」
「そ、それで、一体何の用かしら?」
少しビビり気味の一重。
状況的には仕方がないと言えるが、実は単純に初対面の人が苦手だからだったりする。
ああ、もちろん俺のせいです。はい。
「突然ですが、お嬢さんには僕の協力者になってもらいたくて。ここ最近、あちこちの地域で魔力を持った人間が目立ち始めているって聞いたことありませんか?」
……なんだそれは? 全然聞いたことないぞ?
そもそも当たり前のように魔力という言葉を出したが、俺の知らないところで魔力ってポピュラーになっていたりするのか?
「聞いたこと、ないわ?」
そんな自信無さそうにこっちを見ないでくれ、一重……
とりあえず首を横に振り、俺も知らないと主張する。
「そうなんですか? SNSのあんな情報に騙されちゃうくらいだから、てっきりそのくらいは知っているかと思いました」
じょ、情報源の存在を知っているだと!?
も、もしかしてアレもポピュラーな存在だったのか!?
「何か驚いているみたいですけど、今時SNSの利用なんて誰でも思いつきますからね?」
そ、そうだったのか……
どうやら生前からの閉鎖的な気質のせいで、視野が狭かったらしい。
いや、前世を知っているからこそ、あの情報の海の有用性に目が眩んでいたのかもしれないな……
「まあ、知らないなら少し教えてあげましょう。
まず、先程言ったように各地域で魔力を持つ人間が増えています。
それで、その魔力持ちを中心に勢力争いみたいなのが発生していましてね……
強い魔力持ちが、他地域を裏で支配するなんてことがあちこちで起きているんです。
知っての通り、魔力は悪用しようと思えばいくらでも悪用できるので、結構えげつないこともやっているみたいでして……。
噂が本当であれば既に死人まで出ているらしく、正直それなりに不味い状況なんです」
少年は芝居がかった仕草で、やれやれと首を振る。
「この地域はまだ手付かずですけど、最悪なことに厄介な連中の支配地域に挟まれていまして、いつ奴らの手が伸びてくるかわからないのです。片方から攻められるだけなら対処法は思いつくのですが、取り合いに巻き込まれたら目も当てられないでしょう? だから、その時に備えてお嬢さんには協力してもらいたいんですよね」
何それ怖っ! そ、そんな状況になっているのか……!?
それは最早、
なにせ、うちの地域には四天王の一角がいるということもないワケで、防衛力が何もない。
まさか、植民地みたいなことになったりしないよな……
いや、待て。しかし、そんな魔力持ちの勢力争いになど、最初から関わらなければいいんじゃないか?
俺達はこんな活動こそしてこそいるが不良でも何でもないし、一般人の枠に収まっていると言っていいだろう。
そんな状況になっているのであれば、『正義部』の活動を控えたっていいワケだしな……
一重は納得しないだろうが、俺が譲らなきゃ渋々納得してくれるハズだ。
「言っておきますが、関わらないようにすれば問題無いなんて思わない方が良いですよ? アイツらは一般人に対しても、洗脳やレイプまがいのことを平気でやっているみたいですからね。お嬢さんのような綺麗な女の子は、真っ先に狙われると思います」
なんてこったい。それでは文字通り逃げ場がないではないか。
というか、そいつらはどんだけゲスなんだ? あれか、暴走族とかよりも暴風族に近いのか?
俺の知らないところで、まさかそんなヤバい状況になっているとは……
「そんなこと……、許さないわ!!」
そしてそれを聞いて、案の定闘志を燃やす一重。
これはいかん。このままヒートアップすれば一重は何を言い出すかわからない。
少し下がってもらおうか……
「アン!?」
一重を手で制し、下がらせる際におっぱいに触れてしまう。
失礼。ワザとではないんだ……
「協力と言うが、具体的に何を望んでいるんだ?」
「そうですね……。まずは僕の言う通りに魔術を学んでもらう。それからウチの学校に転校してもらって……」
「待った! 転校?」
「ええ、なるべく直近でね。やっぱり近くにいないと何かと不便ですし、個別に攻撃されても困りますからね」
合理的に考えればそうかもしれないが、いきなり転校させるとか、俺が言うのもなんだが常識ないんじゃないか?
そもそも俺も一重も1年生。入学して大して間もないこの時期に、いきなり転校なんてしたら何を噂されるか……
「無理に決まっているだろう」
「あ、アナタはどうでもいいので、そっちのお嬢さんだけでも。お金や手続きに関してはなんとかします」
「そういう問題じゃない! それに、ウチは中心高校だぞ? 一重じゃ編入試験も厳しいだろうし、学業に付いていけるとも思えない」
都立中央誠心高校。我が校ははっきり言って、地域の中でも最低クラスの偏差値を誇るお馬鹿学校である。
一重の頭では残念ながらココにしか入れなかったのだ……
ちなみに、俺も静子もそれに合わせて学校を選んだが、学力は上位だったため、教師には猛反対された。
「中心って……、あの……? ま、まあ、それは何とかしますよ。とりあえず来週までに答えをだしてくれればいいので。はい、これ連絡先。紙で悪いんですが、今は通信機能を使えなくしているから勘弁してください」
そう言って、俺を無視するように一重に紙を手渡そうとする少年。
しかし、一重はその手を払った。
「お断りするわ! 私は転校なんてする気はないし、するにしても良助とじゃなきゃ絶対に行かない! それにさっきからアナタ、良助に対して失礼よ! 凄く、腹立たしい……」
少年は振り払われた手を見て、ため息をつく。
「……悪いんですが、協力してくれないなら強制するしかないんですよね。できれば催眠とかは使いたくなかったんですが、致し方ありませんか……」
急速に膨れ上がる不穏な気配に、一重を掴んで飛び退く。
「おや? いい、反応ですね。でも総魔力……、たったの5ですか……、やっぱりゴミじゃないですか。アナタは、やはりいらないですね」
一重の表情が強張る。
感知能力の低い一重も、ここまで威圧感があれば流石に察したらしい。
「りょー君! 下がって!」
瞬間的に身体強化を上乗せした一重の腕力に付き飛ばされる。
既に強化済みだった状態からさらに強化を上乗せした関係でかなり力が上がっており、俺はその場から3メートル近く吹っ飛ぶ。
「ひーちゃん!」
「巻き込まないように彼氏を突き飛ばすとは、涙ぐましいですね……。けど、正直少しイラっきました。まあ、彼のことはすぐに忘れてもらいますよ」
ステッキを構える一重。
俺も体勢を立て直すが、戦力的に見れば一重の方が強いのは間違いない。
しかし、一重は放課後に3、先程の強化の上乗せを含め今夜だけで9も魔力を使っている。
つまり、残り魔力はおよそ13しかないということだ。
その状態でこの相手とまともに戦えるのかは、正直不安である。
なにせ相手の総魔力は恐らく……
「ほう、見た目に騙されましたが、しっかりとした魔杖のようですね? 面白い……。ですが、残念ながら私の総魔力は50、つまりお嬢さんの倍なのです。どこまでやれるか、見ものですね?」
予想通りの数値に戦慄を覚える。
これは、マズいかもしれないな……
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