第9話 テクノブレイクLV3
「元々はそっちが悪いんだぜ? 俺らも仲間に手を出されなきゃ、こんなことはしねぇよ」
うーむ……
ということは、彼らは俺達が成敗した不良、その誰かの仲間ということか。
仮に嘘だったとしても、心当たりが沢山あり過ぎて判断が付かない。
「……ちなみに、話し合いで済ますってのは無理かな?」
「お前は、そう言った俺らの仲間に何をした?」
「いや、そんなこと言われた記憶無いんだが……。それに、特に怪我も負わせていないと思うけどな? まあ、気絶はしてもらったかもしれないが……」
少なくとも、俺達が成敗した
彼らは全員自ら手を出してきたし、俺達はそれを返り討ちにしただけである。
しかも、怪我や後遺症が残らないように十分配慮したというのに……
というか待ってくれ。その言い回しじゃまるでコッチが悪者みたいではないか。
そういう言い回しをされると……
「聞き捨てならないわ! 先に悪事を働いたのはアナタ達の仲間の方でしょう!?」
ほらね。一重が反応しないワケがないのだ。
「でも、お前らには関係ねぇことだろ? 他人がしゃしゃり出て振りかざす正義なんて、暴力と変わんねぇだろが」
これはいかん。
反射で言い返そうとする一重を手で制す。
「そうだな。確かに暴力と言ってもいいだろう。でも、実際先に手を出してきたのはそっちからだし、正当防衛とも言えるんじゃないか? 」
「ちょっ!? 良助!?」
「いいから。ひーちゃんは少し黙ってて」
「正当防衛、ねぇ……? それでも、仲間がやられた俺達には報復権があるんじゃねぇか?」
「いや、現在日本において国民の報復権は取り上げられている。常識だろう?」
「常識だろうが何だろうが関係ねぇよ! 俺達の気が済まないんだからな!」
理不尽な話である。
まあそう来るとは思っていたが。
「気持ちはわからなくもないが、いくら報復でもこれは過剰なんじゃないか? どう見ても多勢に無勢だし、世間的にどう判断されるかくらいわかるだろ? しかもコッチには、か弱い女子がいるワケだし。せめて彼女だけでも逃がすくらいは許して欲しいものだが」
「はは、お前馬鹿だろ? 当然口止めさせるに決まってるだろーが? だから女も逃がさない。その方が効果的だからなぁ?」
ニヤニヤしながら答えるリーダーと思しき坊ちゃん。
先程の物言いから、俺達を罠に嵌めたのもこの坊ちゃんなのだろう。
俺達に偽の情報を掴ませ、周到に罠を張り、それなりの会話スキルもある。
中々に小賢しい男だな……
「効果的? それは女の立場の方が弱みを握りやすいってことか? 流石に外道が過ぎると思うが……」
「こっちはそれなりの金使って人動かしてるんだよ。その分の対価ってもんがあるのさ。まあ安心しろって、お前にも見学させてやるからさ!」
ギャハハハ! と坊ちゃんと仲間たちが下品に笑う。
成程な。色々と屁理屈を並べてはいたが、結局は自分たちが楽しみたいというワケだ。
うーむ……
時代やら世界が違っても、同じような輩はいるものだなぁ……
「……随分と悪趣味なんだな今の不良ってヤツは。こう、やっちゃれらとか言う前田太尊みたいな硬派なタイプは絶滅したのかな?」
「あん? なんの話だ?」
「ろくぶるの話だ」
「はぁ?」
「通じないか。どうやらお前達とは本当に分かり合えないらしい」
いや、俺は知って……と隣のノッポが言った気がするが気にしない。
俺の気配が変わるのを感じ取ったらしい一重が、懐からステッキを取り出し、構える。
俺も同時に、身体強化の魔術を行使する。
「一重、テクノブレイクを使え。レベル3でいい」
「レベル3!? いいの!?」
この人数だ。致し方あるまい。
俺が頷くと、一重は少し緊張した面持ちで、胸元を開き始めた。
その行動に、坊ちゃんとその仲間たちが一瞬狼狽える。
「っ!? お前ら狼狽えるな! あれは報告にあった手品か何かだ! 見たら嵌められるぞ!」
これも調査済みか。
まあ、今までの流れからそのくらいは予想していた。
だからこそ、俺は一重にレベル3を使うよう指示したのである。
「行くわよ! テクノォォッ! ブレェェェイク!!!」
その声に合わせるように俺は右手を上げ、指を弾く。
パチン! という音と共に、眩い閃光が辺りを包み込む。
一重の胸からはなんとか視線を逸らしていた彼らだが、これだけの閃光が放たれれば目をつぶらざるを得ない。
「行くぞ一重!」
「ええ!」
閃光が放たれたのはほんの一瞬でのことであったが、一瞬でも視界が塞がれば問題は無い。
「なっ!? 目が開かねぇっ!?」
狼狽えている坊ちゃんの横を通り過ぎ、まずは奥の奴等から始末していく。
「糞が! 何が起きてやがる!?」
テクノブレイクと名付けられたこの魔術は、視点固定の魔術である。
その効果は文字通り視点、視線を固定するもので、効果時間は精々5秒程度が限界だ。
しかし、それはかける条件や魔力によって効果、時間共に変動する。
レベル1は消費魔力2で、邪な感情を持った者の視線を約5秒程固定するというもの。
レベル2は消費魔力4で、約10秒、感情とは関係なく視点を固定する。
今使ったレベル3は消費魔力6、約15秒の間、感情とは関係なく視点、瞼の動きを固定する大技だ。
レベル1は暗示や呪詛の要素が強い関係で魔力消費が少なくて済むが、如何せん女性やシャイボーイには通用しにくいという弱点がある。
そういった状況用に用意したのがレベル2と3なのだが、一部とはいえ人体干渉になるため魔力消費が多いのが難点だ。
しかも、結局視点を固定するにはある程度の工夫が必要となるため、効果的に扱うには俺の協力が不可欠であった。
一重が胸元を開いたのは、カラクリをある程度知っている者の目線をあえて逸らさせる誘導を目的としている。
こういった場合、対峙した相手から目を逸らすワケにもいかないので、大抵の者は顔や脚、胴体を見るのだ。
それだけでも十分に視線誘導の効果はあるのだが、今回の場合ある程度距離が離れているため、それでは足りない可能性があった。
その保険として、俺が合わせ技で閃光を放ったのである。
あんなものでも、なけなしの魔力を2も使うのが悲しいところだが……
効果時間15秒が切れる。
立っているのは、もう坊ちゃん一人だけである。
「う、嘘だろ!? 全員、やられたのか!?」
坊ちゃんを除いた14人が、それぞれ気絶したり、もがき苦しんでいる。
時間がなかったため、悪いが股間などの急所を容赦なく狙わしてもらった。
今後の悪事に対する予防の意味もある。
「見ての通りだ。さて、君はどうしてくれようか?」
俺が凄むのとほぼ同時に、坊ちゃんは脱兎の如く逃げ出す。
あまりにも迷いがない動きだったので、一瞬反応が遅れてしまった。
「逃がすか!」
ここで逃がしては後々面倒になるため、追いかけるしかない。
「ぐぇ!?」
と思った矢先に、坊ちゃんがこちらに吹っ飛んでくる。
何事かと思い坊ちゃんが向かった先に目を凝らすと、帽子を被った少年らしき人物が歩いてくるのが見えた。
「何やら面白いことをやっているから見学していたんだけど、本当に君達、面白いですねぇ?」
う、胡散臭い奴が現れたぞ……
この場面でこんな胡散臭いセリフを吐きながら登場する人物など、面倒な臭いしかしない。
……今日は厄日なのだろうか?
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