第8話 ピンチ

 


 夜、それは魔物達の跋扈する危険な時間――

 だったのは前世の話。

 この世界の夜はなんと平和なことか。


 一応だが、この世界にも魔や闇に類するものは存在している。

 しかし、そもそも彼らは本質的に光を嫌うのである。

 これ程眩しい光を放つ建物や照明の数々は、闇の住人にとっては致命的と言っていいだろう。

 ゆえに、彼らは住む所を奪われ、山中などの人里離れた場所でひっそりと暮らしているようである。


 さて、そんな中我々『正義部』が何をしているのかというと、あるときは人助けだったり、またあるときは無法者を成敗したりといった活動をしていたりする。

 『正義部』の活動範囲は主に学校内となるのだが、週に2~3回は今日のように夜の街で見回りのようなこともしているのだ。


 見回りは大体、特に目的もなくブラブラとするだけのだが、一応今夜は目的地が存在している。

 情報源は明かせないが、とある月極駐車場にて若者達がたむろし、迷惑行為を行っているという情報を入手したのだ。



「……人数は5~6人といったところかしら。情報通りですね」



 情報によると、彼らは大体5~6人程度で、毎日深夜過ぎまで騒いだり踊ったりといった行為をして近所迷惑になっているらしい。

 近所迷惑という割には周りに何もないような気がするが、夜の喧騒は結構遠くまで響くものだし、駐車場の利用者にとっては騒音以上に迷惑な行為だろう。



「ああ、あの規模なら揉めても問題は無さそうだな。……一応、静子のバックアップ体制が完了してから接触することにしよう」



 静子とは我々『正義部』の同士であり、貴重な後方支援を得意とするサポーターである。

 彼女とは小学生時代からの付き合いであり、俺が一重に近づくことを許した稀有な存在でもあった。



「でも、さっきから応答がないの……。多分、ごはん中だと思うわ。……良助、あの人数なら大したことないし、私達だけで行っちゃいましょう?」



 そう提案してくる一重。

 しかし、このパターンはあまり良くないな……

 正直、これで何度か痛い目を見ている俺は、その提案を受け入れるつもりはなかった。


 ……ただ、静子を待つにしてもこの場に留まるのは得策ではない気もする。

 何しろ、一重の容姿は異様に目立つ。

 今もホラ、一重の容姿に惹かれて振り返るサラリーマンが……



「……ここは一旦退こう。静子が食事を終えてから改めて……、ってオイッ!」



 俺が思考を整理しつつサラリーマンを目でけん制していると、いつの間にか一重が駐車場に向けて歩き始めていた。

 考え事をしていると注意力が散漫になるのは、前世からの悪い癖だ……


 制止しようにも、残念ながら一重の姿はたむろする彼らの視界に入ってしまっている。

 痛恨のミスである。

 一応、一重の言う通り大した人数ではないから、なんとかなるとは思うが……



「おお? マジか。本当に来やがったぜ?」


「だから言ったろ? コイツら、行動パターンが単純臭いって」



 俺も覚悟を決めて一重に追い付くと、そんな台詞が彼らから聞こえてきた。

 ……マズイなこれ、駄目なパターンじゃないか?



「アナタ達! ここでたむろするのを止めなさい! ご近所で迷惑している人達がいるのよ!?」



 そんな状況に気付きもせず、注意を始める一重。

 半分以上俺のせいだが、彼女は空気を読むのが物凄く苦手であった。



「はぁ……、一重、静子に連絡を取れ。これ多分、嵌められたっぽいぞ……」


「え? え?」


「いいから早く!」



 俺に強く言われて、慌てて連絡を取り始める一重。

 そしてそれを見ながらニヤつく少年達。



「しっかし本当に馬鹿だな、お前ら? こんな辺鄙な場所にノコノコ誘い出されてよぉ? 少しも疑わなかったのか?」


「………………」



 疑わなかったワケではない。

 ただ、静子のバックアップもあることから、少し気軽には考えてはいた。



「この駐車場は親の会社が提供している月極駐車場なんだが、基本的に社員しか使ってないんだよ。んで、会社の就業時間もとっくに終わってる。つまり、もう誰も来ねぇってことだ」



 先頭に立った少年が、ご丁寧に状況の説明をしてくれる。

 確かに、あまり状況は良くないようだ。

 警察を呼ぼうにも、現時点じゃ私有地に踏み入ったのは俺達の方であり、最悪こちらが注意される羽目になる。

 しかし親の会社って……、しかも就業時間が終わってるから誰も来ないって……、優良企業か!

 さてはこいつ、結構なお坊ちゃんだな?



「あ、静子? ごはん終わった……って良助!? まだ私の話が……」



 俺は有無を言わさず一重のスマホを奪い取る。



「静子、今の状況は把握しているか?」


「……ごめんなさい、師匠。囲まれてます。多分、10人くらいです」


「……そうか。引き続き、バックアップを頼む。一応通報の準備もしておいてくれ」



 その人数であれば問題は無いだろうが、念には念を入れておく。

 タイミングを間違えなければ、俺達が被害者だと主張できるハズだ。



「……了解しました。お気をつけて」



 通話を切る。

 さて、囲んでいるのが10人ってことは、目の前のこいつらを合わせて15人くらいか……



「……おい、無視してんじゃねぇぞ?」


「……すまないね。見事に嵌められたもんで少し焦っていた。……ところで、他にもお仲間がいるんだろ? 別に逃げたりしないから、呼んだらどうだ?」


「その割には余裕そうじゃねぇか……。おい! バレてるみたいだし、全員出てこい!」



 掛け声に従うように、ゾロゾロと少年達が集まってくる。

 全員、中学生から高校生といったところか?

 もしかしたら、ウチの学校の生徒もいるかもしれない。



 さてさて、どう切り抜けるか……


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