第7話 育成失敗の原因
「「ごちそうさまでした」」
「お粗末さまです」
食事を終え、各自食器を流しに運ぶ。我が家のルールだ。
今日は父が残業なので、食事の面子は母と俺、そして
こう表現するとまるで一重と一緒に暮らしているようだが、別にそういうワケではなく、ただ食事を一緒にしているだけである。
一重の両親は、現在母方の実家である北アメリカのなんたらという都市で生活をしている。
今年の春先に、仕事の関係であちらに住むことになったのだ。
その話が決まった時は当然一重もという話になったのだが、一重が頑なに残ると言ったことに加え俺が全力で支援をしたことにより、なんとか彼女を日本に留まらせるのに成功し今に至る。
しかし、当然ながら彼女の一人暮らしを認めるにはいくつかの条件が付けられた。
その内の1つが、食事を我が家で一緒に取ることなのである。
「今日は用意する時間が余りなかったから少し心配したけど……、いつも通りとても美味しかったです」
「ありがとう、ひーちゃん。我が息子のことながら、料理に関しては私に似なくて本当に良かったと思うわ……」
褒められているのだろうが、複雑な気分になる。
はっきり言って、今日の料理は手抜きも良いところだったからだ。
まあ、味については俺も悪くなかったと思う。
その立役者である〇〇の素などの調味料各種は本当に素晴らしい……
こんな物は当然、前世である異世界時代にはなかった。
不毛だとは十分にわかっているのだが、あの頃の俺にこれがあれば……、などとついつい思ってしまう。
まあ、今日のところは手抜きをせざるを得なかったが、普段はもう少し凝ったものを作っている。
料理当番は俺か父であり、父は基本的に帰りが遅いため、土日と水曜日以外は大体俺が担当しているのだ。
ちなみに、母がそこに含まれていないのは、当然料理ができないからである。
何故ああまでできないのか一度考察したことがあったが、その答えは未だに出ていない……
一重については、母ほどできないというワケではないのだが、俺や両親が過保護に育てたせいか火や刃物があまり得意でなく、まだ失敗も多いため当番に組み込まれていない。
本人はやる気があるのだが、現場に出すにはもう少し訓練が必要だと思う。
「さて、良助! 今日も夜の部活動に出ましょう!」
夜の、部活動……
どことなく背徳的な響きである。
もちろん、そんなことは全くないのだが。
「……今日は昼にも暴れただろ? 夜も出るのか?」
「ええ、今日の私は燃えているの。私も、彼らを見習わなくてはいけないわ……」
ああ、そういうことか……
一重がやる気を出している原因、それは恐らく先程まで見ていたアニメにあるのだろう。
俺も料理の合間にチラチラ見ていたが、確かに熱そうな展開だったような気がしないでもない。
先程彼女が慌てて帰ったのは、実は食事のためとかではなく、そのアニメを見るためなのであった。
彼女が持つ正義への憧れ、その根源はアニメや特撮にある。
これこそが、育成計画が失敗した原因の1つだ。
……言い訳になるが、俺はこっちに転生しテレビの存在を知った際、凄まじい衝撃を受けている。
前世の世界ではアーティファクトクラスの代物が、ごく普通の一般家庭にさえ普及しているというのだから、興奮するのも仕方がなかったと言えるだろう。
中でも、煌びやかに映るアニメや特撮の影響は凄まじく、おっさんの魂と幼心が融合した俺の目には、至宝に等しく映ったのだ。
そう、だから俺は良かれと思い一重にもかなりの英才教育を施した。
そして、それが失敗だと気付いた時には、既に手遅れになっていたのだ……
……まあ、そんな悲劇があったわけだが、それは兎も角として今日の活動はやめた方がいいだろうと思っている。
俺も一重も、先程少し魔力を使っているし。なによりメンドクサイ。
「燃えているところ悪いが……」
「あら? また出かけるの? 洗い物くらい母さんがやっておくから、良助はちゃんとひーちゃんのこと守るのよ?」
「大丈夫ですよ、涼香さん! 私、結構強いんですから!」
ぐぬぬ……
俺は行くなんて一言も言っていないのに、空気的に行く流れになってしまったじゃないか……
というか、年頃の娘の夜遊びを許容するのはどうなんだ? 母よ。
現在の時刻は20時ちょっと前。
彼女の就寝時間は23時頃なので、入浴時間も考慮すると活動時間は多くても2時間といったところか。
まあこうなっては仕方がない、とりあえず一重が満足するまで付き合うとしよう……
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