第4話 炸裂! テクノブレイク!

 


「てめぇ! 言い訳してんじゃねぇぞ!」



 尾田君に掴みかかる如月兄。相変わらず一重ひとえのことは無視する方針のようだ。



「ってぇな……、兄弟揃って胸倉掴みやがって……、襟が伸びるだろうが……」



 先程まで黙って聞いていた尾田君の目つきが、段々と鋭くなっている。

 くだらない茶番だと思っていたんだろうが、自分に危害が加わるのであればそりゃ当然怒るよな。



「ちょっと待ちなさいアナタ達! とりあえず私を見て!?」


「さっきからピーピーうるせぇ女だなぁ……、俺たちゃ忙しいんだよ? 用がねぇならさっさと消えろ!」



 流石に無視し続けるのも面倒になったのか、如月兄が一重を睨みつける。

 一重は一重で、やっと自分を見てくれたのが嬉しかったのか、満足そうな顔をしている。



「用はあるわ! 私達は、アナタ達のような悪い人達を懲らしめに来たの!」



 私達、ねぇ……

 正直、俺は別にどうでもいいんだがな。

 ただ、一重が傷ついたり変なことを覚えないよう護衛兼、監視役として一緒に来ただけである。



「あん? 懲らしめる? もしかして、お前……、アホなのか……?」


「アホですって!? 良助! アホって言われました!」



 うん、言われたね。言われるよねそりゃ。



「どうみてもアホじゃねぇか……。お前達は関係ねぇんだからよ、アホなこと言ってないでさっさと帰れや。怪我しても知らねぇぞ?」



 尾田君、確かに関係ないけど、それだと俺も含めて一括りでアホってことにならないか?

 いや、それはいいとして一言余計だ。間違いなく火に油だぞ。



「尾田君まで……。もう許せないわ……。喧嘩両成敗ってヤツね……」



 喧嘩はまだ始まってもいないし、そもそも無関係の一重が裁く立場になるのはおかしいんじゃ? と色々ツッコミたくなる。

 しかし、残念ながらこれが一重の平常運転だ。



「なんだ、お前、マジでやる気なのか? 別に俺たちゃ構わねぇが、ナニ・・されても文句は言わせねぇぞ?」



 如月兄の目つきがイヤらしい。

 しかし、その目はよろしくない。

 一重は確かに可愛いし、スタイルも素晴らしい。

 当然、下卑た視線を向けられることもある。

 だが、一重を真っ向から、そんな視線で見据えるのは許されない。

 いくら普段から視線に無頓着な一重でも、真正面からそんな目を向けられれば嫌でも気づいてしまうからである。



「な、何? その目は? 時々、良助もするけど、なんだか気持ち悪いわ……」



 え、え、え!? してた? 俺もしてたの!?

 ……こ、今後からは気を付けるとしよう。



「ひ、一重、これ以上彼らに喋らせるのは色々危険だ! さっさと成敗してしまおう!」



 これ以上の問答は色んな意味で危険なので、早々に片付けてしまおう。



「そ、そうね! 行くわよ! アナタ達!」



 言うと同時に駆け出す一重。

 まさか、いきなり向かって来るとは思っていなかったのか、慌てて構えを取り始める如月兄 + 取り巻き4名。

 しかし、少し遅かった。一番手前にいた不良1が一重のハイキックの餌食になる。



「グッ……!?」



 バタリと倒れる不良1。相変わらず見事なハイキックであった。



「なっ!? おい! ヒデ! てめぇ……、いきなり蹴り入れるとか、頭おかしぃんじゃねぇか!?」


「私は行く、と言ったわ」


「言ったが……、いきなり蹴りはねぇだろ!? しかもスパッツ履いてやがるし……」



 不良のくせに細かいな如月兄……。それに、スパッツを気にしている場合だろうか?



「いつも部活動の際は着用しているの。良助の指示でね!」


「チッ……」



 まさかその舌打ちは、俺がスパッツを履くように指示したことに対してじゃないよな?



「おい、囲め! なんか格闘技やっているみたいだが、女なんざ囲んで捕まえりゃ無力だ!」


「お、応!」



 応じて一重を取り囲むように回り込む不良2、3、4。



「おい、待てや……、喧嘩する相手を間違っちゃいねぇか?」



 それに対し、割り込んで止めようとする尾田君。

 俺はそれを止めるべく、彼の進行方向に割って入る。



「まあまあ、尾田君、ここは彼女に任せて下さい」



「あ? 任せるも何も、お前達関係ねぇだろ? っつか、お前あのアホ女の男か? 男なら止めるだろ普通!? 自分の女が傷付くかもしんねぇんだぞ? わかってんのか!?」



 わかってますとも。ヤバそうなら当然俺も助太刀に入る。

 しかし、このくらいなら恐らく俺の出番はないだろう。



「一重! レベル1で十分だ、使え!」


「ええ、良助! はぁぁぁぁっっ!! テクノォォッ! ブレェェイク!!!」




 その瞬間、比喩的な意味で世界が凍り付いた。


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