No.006

 四月二十日。

 午前九時過ぎ。

 リビング。

「……バイク、運転出来るんですね」

「小回りが利くから、移動手段として便利なのよ」

 生徒玄関を出てしばらく待っていると、重低音を響かせる小型バイクの運転手がリリカノさんだった時は、驚いたのなんのって。

 だって……この小さい背丈でバイク運転してるんだもん。

 バイクの免許って確か十六歳で取得出来るはずだから、乗っていても問題は無いけれど。

「あんな小さなバイク、よく見つけましたね……」

 幼女体型(僕もだけど)だからそれに見合うバイクの為、本当にかなりの小型。

「お金さえ積めばどうとでもなるのよ。エンジンも出力を上げてあるから、それなりにお金は掛かったけれど、自転車よりは遥かに速いし、何より自分が疲れる事は無いから持っていて損は無いわ」

 たぶん、ほぼオーダーメイドだろう……いったいいくら掛かったのか……恐いから聞かないでおこう。

 この人、ブルジョアだしさ……。

「ところで、学校には何て言って休みを貰ったんですか?」

 リリカノさんにまかせた事だから、妙に気になっていた事なので聞いてみる。

 絶対……信じられないような理由を告げて来たに違い無い。

「初音さんの顧問へ、彼女、生理痛が辛くて授業が受けられません、と」

「何て余計なお節介っ!」

「でも、休む理由としては妥当だと思うけれど?」

「風邪でいいじゃないですか…………」

 んなもん来ないっての…………いや、このまま女だと来る、のか?

 え、真面目に不安なんだけれど。

「冗談よ。急用が出来たから今日は一日休みます、と言っただけ」

「詳しく理由を聞かれたりしなかったんですか?」

「ええ、何も。勉強さえ出来れば大抵の事はまかり通るものなの。あぁ、そうそう。今日の分の勉強は私が後で見て上げるから、安心なさい」

「……いや、別に見なくてもいいですけど」

 自分のペースでした方が、一番効率的な事を知っているし、それに……リリカノさん、頭良いだろうからむしろ見て貰いたくない……あれこれ言われそうだもん。

「まぁ、いいわ。勉強の事は別問題として後々考えましょう。言っておくけれど、うやむやにはしないからそのつもりでいなさい」

 ナンテコッタ……学校の授業でノート取っていれば何とかなっていたってのに……リリカノさんが相手となると…………厳しそうなんだよなぁ。

 基礎が出来ていない、とか言い出して、どんどん過去の授業内容まで復習し出しそう。

「それじゃあ、昨日、あなたが寝てから今朝、目覚めるまでの間に何があったのか聞かせてくれるかしら?」

「あー、はい」

 リビングのソファーに向かい合って座り、リリカノさんが買って来てくれた食糧をありがたく食べつつ、昨日の出来事を話す事にする。

「あ、その前に一ついいですか? 呪術式に何かが起こったって事、よく分かりましたね?」

「簡単な事よ。文献に記述が増えていたから、あなたが無事乗り越えたって事でしょ。、まぁ、何にしてもとりあえず無事だったから安心した…………何よ、その表情は?」

「あ、いや……まさかリリカノさんから、無事で良かった、なんて言葉を貰えるとは思っても無かったので正直驚い」

 ズビッ!

「ぎゃいいいい、アイがっEyesがぁぁぁぁあああっ!」

「中の人がとても新人声優だとは思えないくらい、迫真の演技ね」

「中の人はいませんしっ、演技じゃなくマジモノっすよっ!」

 次からは余計な事言わないようにしよう…………。

「えと、昨日の出来事ですよね。何が起こるか分からないので、夜、寝ないで朝まで起きていようかって思ったんですけど」

 僕は簡潔に要点をまとめて、僕が経験したあの出来事をリリカノさんへと伝えた。

「……と、言う事なんですよ」

「…………」

「あ、の……リリカノさん」

 すんごいジト目で僕を見ているんですけど?

「と言う事なんですよ、と言われても理解出来ないわよ。あなた、何も話していないじゃない」

「いやいや、ちゃんと話したじゃないですか」

「十行程前まで戻って読み返して御覧なさい。全く話していないじゃないの」

「ちょっ、そこは察してくれる場面ですってっ!」

「何を? ここはあなたの好きな二次元世界じゃないのよ? かくかくしかじかで通用するわけはないでしょう? それとも、何? ここは二次元世界なのかしら?」

「い、いいえ……それは決してありません。ここは僕に取ってリアルの世界ですから……」

「でしょう? それなら、端折らず全てを話してくれないと、理解出来ないわ」

 うぐ……こ、ここはリアルなんだけど、過去の出来事はこう簡単に、ね……を許してくれそうにも無いので話す事にする。

「それじゃあ……最初から、昨日、寝ようとしたんですけど、結局、僕は寝てしまったようで、気付いたらですね」

「ちょっと」

「はい?」

「そこは、かくかくしかじかで終わらせる場面でしょう?」

「今さっきその口がダメだって言ったんですよねぇっ?!」

「さっきのは冗談よ」

「分かり難いんですって!」

「察しなさいな」

「このわがままボディめっ!」

 あの、余談だけどさ、わがままボディって響き……何かヤラシイと思わない?

 わがままボディ……。

 リリカノさんをジッと見る。

 背丈は小さいのに、巨乳持ち…………あれぞ、まさにわがままボディ。

 いや、小さい部分も全面に押し出して言えば、わがままロリボディ。

 なんだ、これは……?

「このわがままロリボディめっ!」

 大事な事だから言い直してみた。

 悪く無い……むしろ、イイッ!

「早く続きをお願い出来るかしら?」

「スルーですかっ?!」

「……」

 その言葉に関与しませんとお澄まし顔で、無言のまま訴えて来る。

 まぁ、いいだろう……今回はこれくらいで止めておくか。

 無言のお澄まし顔がちょっとだけ恐いし……なので、僕は改めてリリカノさんへと、昨夜からの出来事を伝える事にした。

「こんな感じな事が起こりましたけど……」

 リリカノさんは目を瞑って、何かを考えている?

「やっぱりゲームのキャラクターが出て来たのは、僕が向こうの世界へ行く前に、そのゲームをプレイしていた影響ですか?」

「でしょうね。引き摺り込まれた人間それぞれで、追跡者は変化するのでしょうけれど、初音さんの場合はゲームキャラクター、と言う事でしょう。ただ作り物のキャラクターに自我なんて無いでしょうから、考えて行動する事が出来ている辺り、呪術式の影響によるのでは無いかしら」

 レーデンヤの呪術式……強力過ぎるだろ…………異世界に引き摺り込んだり、ゲームキャラクターに自我を与えたり……高瀬の性格を猟奇的に変えたり……僕を幼女にした……あ、これはあれか、リリカノさんの呪術干渉のせいもあるか……何にしても、想像を遥かに超え過ぎだっての……。

「あの……これ以上、おかしな事にはならないですよね?」

 すでに充分おかしな事態になっているのだから、更なる驚くべき追加効果とか、勘弁して欲しい。

「ハッキリ言って、まだ分からない。私が緩和処置をした時間以降の進化は無いでしょうけれど、それ以前に呪術式が進化していたとするならば、まだこの先、何が起こっても不思議では無いわね」

 さすがに対応仕切れ無くなるって……。

「ゲームのキャラクターが出て来たってだけでも信じられないのに、これ以上何か起こるなんて……そんな馬鹿な事って無いですよ……」

 リリカノさんに愚痴を言ったって意味は無い。

 むしろ言われる筋合いはリリカノさんには無いだろう。

 けれど、何かを言わないと……精神が弱ってしまいそうで……いや、弱音を吐いて愚痴ってる時点ですでに弱っているって事か。

「有り得ない事じゃないでしょう? 考えてご覧なさい。あなたのその姿。原因は私にあるけれど、呪術式の呪いの干渉で、そんな馬鹿な事が実際に起こっているのよ?」

「……」

 そ、そうだ……僕に起こった女体化。

 これだって、馬鹿な事の一つに入る……有り得ない事が有り得ている状況じゃないか。

 幼女変化くらい全然大した事無いような気がしてきてしまう……普通に考えれば有り得ない事だってのにさ。

「たぶん、また向こう側……あぁ、もぉ、向こう側とかこっち側とかややこしくて面倒だわ。グジャラト語は理解可能かしら?」

「グ……なんですか……?」

「アゼルバイジャン語は?」

「アゼ…………アゼ?」

 ……何処だよ、それ。

「はぁ、そんな事も知らないのね。あなた、高校卒業する事が出来無いわよ」

「一介の高校生は知らなくても卒業出来ますよっ!」

「仕方無いわね。リアルとアナザーでいいかしら?」

「最初からそうして下さい…………」

 この人、いったい何ヶ国語理解しているんだろうか……?

 いや、考えるのはよそう……わがままボディのリリカノさんは、常人とは違うどころか、たぶん、天才や秀才とも違う存在。

 僕の稚拙な想像を途方も無く凌駕する頭脳していそうだし、最早この人が神、と思ったほうがいいかもしれない、うん、そうしよう。

「確定的に、初音さんはアナザーへまた引き摺り込まれるでしょうね。その知り合いの彼女の様子を考えれば、まだ終わってはいないもの」

「……ですよね。抗い勝つ事が出来たら、高瀬は元に戻るって思っていいですか?」

「ええ、恐らくは。あなたが取った脱出方法だと、呪術式の定めたルールとは違うから、抗えた事として認められなかったのでしょうね」

 なんなんだよ……そっち、呪術式側は好き勝手な事してるくせに、僕は決められたルールを守らないとダメだって…………ホント、理不尽過ぎる。

 せっかく痛い思いして出て来たのに……あ、そうだ。

「リリカノさん、そう言えばですね、壊した時の破片持って出て来たのに無くなっていたんですよ」

 確かに一欠けらだけ、手で持って出て来たのを覚えている。

 それなのにその破片は何処にも見当たらなった。

 そもそも、リアル側に戻った時、手の中に握られていなかった気がする。

「アナザーからは持ち出せない、と言う事かしら」

「でも、リアルの物は普通にありましたよ? リリカノさんから用意して貰った内履き、下駄箱のロッカーに入っていましたから」

「ふむ……」

 何か、考えている……のだろうか?

 表情がほとんど変わらないから、いまいち読み取れないんだよなぁ……昨日、別れ際に見た笑顔、可愛かったのに……もっと愛想良く出来無いんだろうか?

 もったいない。

「コミュニケーションは、本当に大切よね」

「はい?」

 どう言う事?

 話し合いは大切、って言いたいのだろうか?

「あぁ、気にしなくていいわ。とにかく有用な事を得たから、こちらでも色々出来るかもしれない、と思っただけ。話を戻すけれど、武器とか必要? 今度アナザーへ引き摺り込まれた場合、アリスだったかしら? と、知り合いの高瀬さんを相手にしなければいけないでしょうから」

 う、んー……そう、だなぁ……高瀬はともかく、さすがにゲームキャラのアリスを相手にしなければいけないとなると、やっぱり、何かすらの対策が必要だと考えられる。

「……あの、アリスは何処までゲームに忠実なんでしょうか?」

「さぁ、検討は付かないけれど、ほぼその物を再現しているかもしれないわね。だからこそ、その為の武器の備えがいるかしら、と聞いているの。拳銃でも刀でも、核ミサイルでも何でも揃えて上げる。相手は魔法騎士? なのでしょう?」

「そっそんな物騒なもん、高校生に扱えるわけないでしょうっ!」

 うおおおお、顔が全然笑って無いよっ!

 この人、絶対に今言ったモノ全て揃えられると思うっ!

「さぁ、ほら、欲しいものを言ってごらんなさいな。マグナム? 備前長船? パトリオットミサイル? 何でもいいわよ。あぁ、エクスカリバーも可能だけれど?」

「エクスカリバー用意出来るんですか?!」

「ええ」

 冗談に聞こえないんですけどっ!

 おっかねぇっ、今更だけど、僕、こんな人と一緒にいたわけ?!

 アナザー世界も怖いけど、リアル世界の人間がしれっと言うような言葉じゃないってのっ!

 怖ぇぇぇぇええっ!

「えぇっと、じゃあ、腕……指から肘の部分と、後、足の膝から下を覆える武具みたいなのが欲しいです」

「防御する為の物?」

「防御、攻撃、どちらも含めて、です」

「ふむ、分かったわ。数時間程あれば、調達出来るでしょう」

「……ホントに?」

「言ったでしょう? お金さえあれば、この世界、何だって可能だと」

 やっぱり核もお金を転がす、のかなぁ…………HAHAHAHAHA。

 国の一つや二つ買い取るくらい資産を持ってたりして、まさか、ねぇ…………。

「さてと、それじゃあ、またあの世界へ行くのだから、準備を始めましょうか」

「もう確定なんですか?」

「ええ、確実にまたあなたはあの世界へ引き摺り込まれる。眠る眠らないの問題じゃないのよ。呪術式に寄ってあなたは引き摺り込まれているの。あの世界へ引き摺り込まれた後の脱出方法を教えるから、その後、必要な物を買いなさい。私は私で準備も必要になるでしょうから、個別行動になるけれど、連絡だけは取り合えるようにしましょう」

 そう言って、制服のスカートのポケットからスマートフォンを取り出した。

「あなたにあげるわ」

「え? や、貰わなくても僕も持ってますよ」

「これは独自回線で繋がっているから、どんな事があっても外部へ通信が漏れる事は無いし、ハッキングも不可能なの。あなた達が使っているスマートフォンやパソコンなんてのは、常に外部へ情報が漏洩しているから使えたモノじゃないわ」

「…………い、一応、セキュリティは万全だと思いますけど?」

「そんなの、そう信じさせられているだけで、実際は、あなた達が送ったメール、アクセスしたサイト、登録したアドレスや通話内容、全てが漏れているわ。何なら、あなたの調べたサイトでも教えましょうか?」

 リリカノさんは自分のスマートフォンを操り……そして。

「これ、買ったでしょう?」

「な、なん……だと?!」

 それは、アニメーションが凄い萌えゲームのサイトじゃないかっ?!

「ふーん、カレンダー付きの物を選択したのね」

「…………」

 マジかよ。

 完全に筒抜けている。

「もっと調べて教えましょうか?」

「いいいいですっ、それくらいでっ! リリカノさんのスマートフォンを使う事にしますからっ僕の恥ずかしい出来事を調べないでっ!」

 拷問だよっ!

 こんなの公開処刑だよっ!

「使い方は特別変わりは無いから、教えなくても大丈夫でしょう? はい、これ、ヘッドセット。私と離れている時は出来るだけ装着していなさい」

「……了解です」

 通話する時だけでいいじゃないですか、と言いたいけれど、止めておこう。

 また僕の過去を調べられたらたまらないもん。

「今日は一日忙しくなるでしょうから、要点を纏めて伝えておきます。いいですか?」

「はい、お願いします」

「まず、向こうの世界からの脱出方法から…………」

 そう言うなり、リリカノさんは言葉をピタリと止める。

 何だ?

 脱出方法、そんなに難しい事、なのか?

「その、アナザーからの脱出方法ってのは難しいんですか?」

「待って。ここから先はかくかくしかじがで終わらせましょう。それくらい察しなさい」

「あんたがそれを言いますかっ?!」

「尺の問題もあるでしょうし、設定部分をダラダラ話されても詰まらないでしょう?」

「尺も存在しないし、設定も有りませんよっ!」

「初音さん、面倒な性格と良く言われるでしょう?」

「一言も言われた事無いですっ!」

「あぁ、そうね。友達、居ないぼっちだと言って泣きじゃくっていたものね」

「泣きじゃくって無いしっ心の傷を抉らないでっ!」

 くっそぉ~、これで年下なんだもんなぁっ!

 どうせ言い返せば更にキツイ言葉が返って来る事が目に見えているから、ここはグッと我慢しよう…………くぅっでもやっぱり悔しいなぁちくしょーっ!

「あぁ、そうだわ。最後に一つ教えてくれるかしら? あなたがプレイしていたゲームのタイトルを教えて」

「ゲームのタイトル、ですか? えっとMagical Formulaって言いますけど、それが?」

「何が起こるか予想出来ないから、私もそのゲームについてある程度知識を得ておくのよ。何も知らない状態でいるのは、後手後手になって危険でしょうから」

「良ければ貸しましょうか?」

 どうせゲームをするような気分にはならないだろうし。

「何を言っているのよ、あなたもそのゲームの知識を頭に入れておく必要があるの。言ったでしょう? そのキャラクターはゲームの設定をそのまま反映しているかもしれない、と」

「……対策を取っておけって事、ですか?」

「そう言う事。実際引き摺り込まれるのは初音さんなのだから、私もこの後そのゲームをプレイしてみるけれど、ゲームなんてプレイした事が無いから、アリスの対策はあなたに一任するしか無いの」

「けど、ゲームの中とアナザーの世界ではさすがに違って来ると思うんですけど……」

 ゲームシステムだったり、秒間何フレーム、なんて制限は無いだろうし……通常攻撃からキャンセル技が出せるとか、出せないとか、そんなの絶対無いだろう……格闘ゲーム対策を取ったって、アナザー世界はゲームの中じゃないから意味が無いような気がする。

「そうだとしても、念の為だと思ってちゃんと情報を得ておきなさいな。よく分からないけれど、そのキャラクターが持っている技、のようなモノはあるのでしょう?」

「まぁ、そう、ですね。キャラ個別にいくつか必殺技は持ってます」

「設定そのものを反映しなかったとしても、呪いと関係無く、プライベートでそのゲームはプレイするつもりなのでしょう? 覚えておいて損はしないと思うけれど? 違うかしら?」

 確かに、あのゲームをプレイするのであれば、各キャラクターの必殺技は覚えておく必要はある。

 知っているのと知っていないのでは、起こせる行動に歴然とした差が生じるから。

「分かりました、年の為でしょうから、僕もちゃんと覚えておくようにします」

「それじゃあ、今から早速行動に移りましょう」

 その後、リリカノさんからアナザーの脱出方法を教えて貰って、言われた通りに僕はゲームを起動して、アリスの使う必殺技を何度もコマンド入力して確認を行った。

「……飛び道具持ってるけど、人間が受け止めて大丈夫、なのか?」

 アリスのキャラクター性能を知れば知るほど、無理ゲー過ぎると認識させられた挙句。

「変身前は飛び道具が一切無いからいいとしても、変身後の能力アップ状態なんてさ、抗えるのか?」

 普通の人間である僕から見れば、ゲームのこんなチートシステムに勝てるわけが無いと理解し、設定だけは反映しないでくれと、ただただ説に願うだけだった。


A Preview

「酷い、としか言いようが無いわね」

「どうしたんですか?」

「心霊ビデオの鑑定依頼が来ているから見ているのだけれど」

「どんな感じなんです?」

「こんなのよ」

「…………うっわ、確かに酷い、ですね」

「素人のあなたが見てもそう思うのだから、相当なものね」

「増えてますよね、明らかに作成された動画ってのが」

「そうね」

「だいたい、こうカメラが一瞬別の場所を映した後、元に戻すと何かすらいるってパターンがとにかく多いかと」

「本当、呆れてモノも言えないわ。こんなふうにカメラを戻したタイミングで出現する霊なんていないわよ」

「しかも、決まって髪の長い女、なんですよね」

「そうね。全く作るのであればもっとマシなモノを作って欲しいものだわ」

「あの、リリカノさん、本物ってのもやっぱり存在するんですか?」

「ええ、あるわよ。例えばこれね。映すから見ていなさいな」

「…………」

「どう、お分かり頂けたかしら?」

「いや、全然全くお分かり頂けないんですけど……」

「あなた、ずっと見ていたのよ?」

「はい? 霊、をですか? そんなまさか。だって、普通に人間が映っていただけじゃないですか……あ、チラッと何処かの陰にいたパターン?」

「何を言っているのよ。ずーっと映っているじゃない、ほら」

「ずっとって……どう見ても人間…………え? もしかして……」

「その通り。あなたが人間だと思って見ている存在。それが霊そのものよ」

「……マジ、ですか? だって、こんなにハッキリと映っているのに」

「撮影者はさぞ戦慄したでしょうね。風景の動画撮影しているはずなのに、そこには自然と人が映っているのだから。ほら、よく見てみなさいな、とてもおかしいでしょう?」

「じ、地面が無いとこに……映ってる?!」

「そろそろかしら、画面に集中して」

「………………えっと、何も起こ」

『死ねぇぇぇっ!』

「おわぁああああっ! こここ、怖ぇぇぇええっ!」

『アハハ、アハハハハハッ』

「リリカノさん、ストップストップー!」

「うるさいわね、驚き過ぎよ」

「だってだって、いきなりアップで死ね、ですよっ?! しかも放り投げたビデオカメラを覗き込んで笑ってるって……怖過ぎるっ!」

「とても凶悪な地縛霊ね。地に縛られ過ぎてそこから動けなかった事が幸いしているわ。もし、年月が短い状態であったら、撮影者は谷底へ引き摺り込まれていたはずよ」

「…………」

「日常であり自然な事が突然壊される事、それこそが本当の恐怖だと私は思うわ。例えば、高校生にもなって友達が一人もいない事実を聞かされた時、とかね」

「リアル過ぎてめちゃ怖ぇぇえええっ! って、僕じゃんっ!」

「ふむ、下手な落ちを付けたところで、また次回」

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