No.XXX

 四月十九日。

 午後六時半過ぎ。

 私の部屋。

「……どう言う事なんだろう?」

 授業の復習を終えてから、私は放課後の出来事を思い浮かべる。

 クラスメイトに頼まれて、私はスマートフォンのカメラで知り合いの二人を撮影した。

 それが別段何かあったわけでは無い。

 問題は、カメラ越しにたまたま撮影の範囲に入っていた、教室の中の初音くんの事。

 断り無くカメラに撮影するのも悪いと思って、私は撮影される範囲を少しずらしてから、二人のクラスメイトを撮影した。

 二人の内の一人から借りていたスマートフォンを持ち主に返して、帰宅して行った二人を見送ってから、私も帰ろうと教室の中の荷物を取りに入ろうとしたところで、私はそこに生じた問題に足が止まった。

 だってそこには…………背の小さい女子生徒が一人、窓際に居ただけだったから。

 その場所には初音くんが居たはずなのに…………大して回転の速く無い頭を使い、一つの考えに辿り付く。

 自分のスマートフォンを取り出して、カメラ越しに初音くんを見ると……。

「あれは確かに初音くんだった…………」

 初音くんに断りもせず撮影した画像を、カメラフォルダーから呼び出す。

「……やっぱり初音くん……私が知っている男の子の初音くん、だよね」

 けれど、私自身の目で見た初音くんは……何故か背の小さい女の子の姿。

 カメラを通して見ると男の子。

 自身の目で見ると女の子。

 不思議な事に、どちらの初音くんも、私の頭は私が元から知っているクラスメイトの初音くんとして認識してしまう。

 何が起こっているのだろう?

 夢や幻覚……そんな事は決して無い。

 私には全く検討がつかないけれど、何かが確実に起こっている。

「……」

 そんな初音くんに私の心は凄く……とても……益々……今まで以上…………いや、”異常”に興味を惹かれて行く。

 高校一年生の頃、私は酷いインフルエンザに掛かってしまい、学校を長い事休んだ時があった。

 その時、私の家に学校のプリントと連絡事項を伝えに来てくれたのが初音くん。

 私はあの時の事を思い返す……色々と初音くんに対する噂を耳にしていたから、本当に驚いたっけ…………。

「ごめん……突然。先生に言われてさ、届け物を」

「あ、ううん……気にしないで」

 その日、自宅に私が一人だった家に突然の訪問者。

 インターホンが鳴った事に気付いたけれど、風邪で寝込んでいるから居留守を使おうと思った。

 でも、少しだけ体調も良く感じていた事もあって、外の人物を確認しようと自分の部屋からカーテンを少しだけ開き、家の玄関の誰かさんを確認した私は一瞬だけれど、見間違えなのかと思いながら、不思議な訪問者へ気付けば窓を開けて声を掛けていた。

「風邪、大丈夫?」

「今は、薬のおかげで大分楽、かな…………」

「そっか」

 玄関先でも済む事だったのに、私は同じクラスメイトの初音くんを、リビングに通して暖かいミルクティーを入れて、彼を迎え入れた。

「外、寒かったでしょ?」

「あーまぁ、二月だし……毎年恒例の寒さって感じかな……」

 私の地域は雪国で、豪雪地帯とまでは行かないけれど、一月二月は雪が積もり、そのおかげで相当寒くなる。

 雪国じゃない地域の学生が、防寒着を着ないままこの時期に外出している姿なんてのを見ると、私の地域から見れば無謀な行為にしか見えない程だ。

 寒くて寒くて、とにかく寒いから、外出するにしたって、見た目の姿なんて気にしていられない。

 今だって、ぶくぶくに厚着をして寒さを凌いでいるのだから、もう少し冬将軍様は穏やかになって欲しいものだと常々思う。

「……何枚、着てるわけ?」

「さ、さぁ……私も分からない、かな。ごめんね、オシャレな服装じゃなくて」

「……え、謝るところ、そこ? 普通風邪引いているから今日は帰って、とか言うと思うんだけど?」

 確かに初音くんの言う事は正しいと思う。

 でも、一週間近く学校を休んでいる私に取って、同じ学校のクラスメイトと少しくらい、会話をしたいと思っても悪く無いはず……そんな気持ちから、私は、私から頼んで結構強引に自分の家に上がって貰った。

 噂の絶えない初音くんに興味が沸いたのも、正直な気持ち。

「今更だけど初音くんって、身体丈夫なほう? うつしちゃったら悪いなぁって……」

「……ホント今更だよ……んー、たぶん、そこそこ丈夫だとは思う」

「何か部活、入っていたっけ?」

 運動部にでも入っていたのかな?

「いや、部活は入ってないけど、一応運動っぽい事を日課でしてるからさ」

「へぇ、そうなんだ。何をしているのか聞いても?」

「ちょっとした格闘術を……夜七時くらいから家の外で軽く」

 その話を聞いて、私は初音くんへ直接聞いても良いのか少し躊躇ってから、意を決して聞いてみる事にした。

 初音くんに関わる、色々な余り良く無い噂の事を……。

「ねぇ、初音くん。気分を悪くさせちゃうかもしれないけど……えっと、んー」

 どう言えば柔らかく聞く事が出来るだろう、と私は思案していると。

「聞きたい事って、僕の噂の事?」

「あ……うん、実はその事」

「高瀬さんには言わなかったんだっけ? あれはさ、勝手に噂が大きくなって広まっていっただけなんだよ」

「そう、なの? 入学式のインパクトは今でも忘れていない、かなぁ私」

 顔にあれだけ包帯をぐるぐる巻きにした人なんて、初めて見たから。

「あれはさ、格闘術を習っている時に起こった事故なんだって……確かに傍から見ればヤバそうな姿してたけどさ……広まってる噂だって、あまりにも現実離れしてるだろ?」

「一人で百人相手に喧嘩したとか、だよね?」

 入学式姿のインパクトが強過ぎたから、毎日喧嘩に明け暮れているとか、目が合っただけでも暴力を振るわれるとか、弱者しか狙わないとか、初音くんの噂はそれはもう色々たくさん多種多様に渡っている。

「無理だろ……どう考えても」

 どんなに強いとしても、百人相手をするなんて、さすがに…………あ、でも。

「もしかして、地球外生命体、とか? それなら百人相手でもいける」

「高瀬さんはどうやらインフルエンザの熱で、正常な判断が出来無いようだな。じゃあ、僕はこれで帰るから」

「あ、あっ、わっ、待って待って。今のは冗談だから。熱はあるけど、思考は正常、至って普通」

「……熱があるなら、尚更僕の相手をしている場合じゃないと思う」

「それは分かってるけど、ちょっとだけ、だから、ね。もう少し付き合って、ね? んっと、その誤解、解けばいいんじゃないかな?」

「最初はそうしていたんだって……けどさ、誰も僕の言う事なんて信じてくれていないのが、態度で見え見えでさ。だから面倒だし、もういいやって」

 その事は知らなかった。

 私と接点が無かったから、私の所には初音くんが誤解を解きに来なかったのだろう。

「まぁ、そんなわけで、身体は割りと丈夫な方だから僕の事は気にしないでいいけど、高瀬さんはさ、ちゃんとゆっくり休みなよ」

 初音くんの言うように、体調は万全では無いからゆっくりと休みたい……でも、初音くんとは別件の事で、どうしても気になる事が私にはあって……。

「そう、なんだけどね……月末ってテストがあるでしょ? やっぱり気になっちゃう、かな。ノートも取れてないし」

「そんなに気にしなくてもいいと思うけど……インフルエンザなんだし、先生も大目に見てくれるって」

「そう、かなぁ? じゃあ、初音くんが今の私の立場だったら、どんな気持ち?」

「…………う、ん……確かに、テストは気に……なる」

「でしょ? 休んでいる一週間分は大きい……げほっげほっ」

「やっぱり無茶だって……」

 無茶な事は充分理解している。

 でも、私は頭が良いわけでは無いから、一を知って十を知るような天才とは当然掛け離れている。

 だから出来る努力をしなければ、テストになんて望む事が出来無い。

 テスト期間へ入るまで、後二週間も無くて、インフルエンザはまだ治るような感じもしない……せめて十日くらいはテスト勉強をしっかりとしておきたいけれど、休んだ分のノートを取って、復習して、テスト勉強をして…………はぁ、時間が……足り無い。

「事情があるんだから、少しは怠ける事を考えても僕はいいと思うんだけど?」

「そう言う初音くんは、ちゃんと勉強をしているんでしょ?」

 初音くんはクラスの中でも三本の指に入るくらい、定期テストの点数が良い事を私は記憶している。

「僕の場合は悪い噂があるから、少しでも先生の心象を良くしようって打算的な考えがあって、正直怠けられるなら怠けたい」

 本当にそうなのだろうか?

 そう言う初音くんの言葉には、どこか怠けたいと思わせるような気持ちが篭っていないように私は感じる。

「それにその場凌ぎのほぼ暗記するだけの勉強方法だし、後に繋がらない。だから高瀬さんのように、真面目にテストを受けてるような優等生とは違うんだよ」

「私だって、真面目って程でも無い、かな。悪い点数を取りたく無いってだけだもん。勉強が好きってわけじゃないからね」

「ふーん、意外。高瀬さんって真面目に将来を考えて勉強してるような印象だったから」

「あ、初音くん、私を見た目だけで、勉強好きな文系美少女って決め付けてるでしょ?」

「……美少女は言い過ぎなんじゃ?」

「うわぁ、傷付くなぁ」

 や、別に本心じゃないよ?

 冗談だから。

「んー、分かった」

「何が?」

 初音くんの意図する、分かったの意味が分からない。

「風邪で休んでいたとこと、治して通学出来るまでの間のノートは、僕ので良ければコピー取って渡すから、高瀬さんは治す事を優先しなよ」

「え? いいの? それは凄く助かるけど……少しくらいなら無理して学校行くから、休んでたとこだけで充分だよ。初音くんに悪いし」

「遠慮しながらも全部は要らない、とは言わないわけか……」

「そこは、ね。譲れないモノがあるんだよ」

「何に対して譲れないのかサッパリだけど、僕に悪いと思うなら、完治してから学校来る。これがコピーを渡す条件」

「いいのかなぁ? そんなに甘えちゃっても、私、何か見返りを上げられないよ?」

「別に見返りが欲しいわけじゃない。でも、僕に何か困った事があったら高瀬さんの出来る範囲で、助けてくれるって事で」

 そんな事を言っているけれど、きっと初音くんは困った事があっても、私に救いを求めるような事をしないと思う。

 誰かに救いを求めるような人だったら、噂の誤解を解く為の協力を、私じゃなくてもクラスメイトの誰かや、担任の先生に求めていたはずだから。

「んじゃあ、僕はこれで帰るからお大事に」

「もう帰っちゃうの?」

「いくら丈夫だからと言っても、長居すると感染しそうだし……僕が休んでノートが取れないと、高瀬さんにコピーを渡す事が出来無くなる」

「そしたら私は、違う伝手を頼るから大丈夫だよ? 初音くんはゆっくり休んで」

「僕に頼れる友達がいない事を知って、言ってない……?」

「え、そんな事は……ないよ?」

「僕の顔を伺いながら返答しないでよっ! 何気に傷付くでしょっ!」

 私は確信した。

 初音くんに対しての悪い噂は、本当に誤解なんだ、と。

 私に人を見る目があるのか、と言われると自信は無いけれど、それでも、噂の本人と話したからこそ、私には感じ取れた。

「ねぇ、初音くん……もし良かったら、クラスのみんなに誤解だよって私から伝えようか?」

 単純に、何とかしてあげたいと思ったから初音くんに提案した。

 でも初音くんは。

「いや、そんな事はしなくていいよ。少し言い過ぎる事を言うけれど、それは僕に取って余計なお世話、だからさ」

 初音くんの表情を見れば、怒っているわけでも無いし、気分を悪くしたような感じも全く見て取る事は出来無い。

「下手をすると高瀬さんまで、おかしな噂に巻き込まれるかもしれないだろ? 別に高瀬さんの為に言ってるわけじゃない。ただの自己保身。さすがに他人を巻き込むのは気分のいいモノじゃないだろ?」

 たぶん……きっと、間違えてはいない。

 この人は…………初音くんは、とても優しい人……クラスメイトの中の誰よりも、他人を思いやる事が出来る人だ。

「だからさ、今はこうして結構会話をしたけど、学校では僕に話し掛けないようにして」

「それも、自己保身?」

「そう言う事」

「それなら、大丈夫だよ。私は特に目立つ存在じゃないし、誰かから一目置かれるような飛び抜けた能力も無いから、私のする事なんて誰も気に留め無いよ」

「……」

「えっと、何?」

 初音くんがジッと私を見ている。

「…………いや、何でも。そうだとしても、話し掛けるのは薦めない」

「友達、欲しいとは思わないの?」

「僕は二次元の世界が現実の人間だからな。こっちの世界に友達なんて要らないんだよ」

「そっか、ごめんね、本当は欲しいのに……無理矢理強がり言わせちゃって」

「無理矢理じゃないよっ、本心だってっ!」

「んーじゃあ、今回はそう言う事にしておいてあげる」

「これからも、だっ!」

 初音くんにしてみたら、本当に友達が必要無いのかもしれない。

 あまり余計なお節介を焼くのは、良く無い事だって分かっている。

 それでも。

「一人くらいいてもいいと思うけど? と言うわけで、私、でどうかな? まずは呼び捨てで呼んでみるところから」

「……僕の言う事、聞いてた?」

「もちろん」

「ですよねー……それを承知で言っているのだから……んー善処はしてみる」

「善処って便利な言葉だよね。だって、上手く行かなくても頑張ったし、悪気は無いからこれ以上は無理だよ、って意味があるわけでしょ? そうして初音くんは逃げちゃうつもりなんじゃないかなー?」

 少し意地悪な言い方をしているのは、重々承知している。

 でも、この人には、少し強引に言うくらいじゃないと、絶対に受け入れてはくれない……だから私は、多少鬱陶しく感じられても、こっちから歩み寄る事を選んでみた。

「帰る前にこれだけは言わせてくれ……今日来て、一つ僕は賢くなった事があるよ。高瀬さんは、可愛い顔して結構意地悪だって事を学習出来た」

 ……。

 …………。

 ………………。

「ん……あ、れ……私……いつの間にか寝てたみたい」

 身体を起こし、見ていた夢に思いを馳せる。

 私はあの時、あの瞬間から……初音くんの優しさに興味を惹かれていった。

 気付けば初音くんを目で追いかける日々を繰り返して、それは冷める事無く、どんどん思いは膨れ上がり、時折その思いが苦しくも感じてしまう事がある程に。

 誰かが気になり始める事。

 誰かへ興味を惹かれる事。

 誰かに好意を寄せる事。

 誰かを好きになる事。

 それはとても突然で、きっかけなんてちょっとした事で……でも、爆発的に思いは募り始めて行く。

 私は初音くんが好き。

 初音くんの事を考えない日なんてないくらい。

 その彼に起こっている不可思議な事が、彼への興味を更に膨れ上がらせて、私の思いを理性で押さえ付ける事は……不可能に近い。

 毎日、毎日毎日、毎日毎日毎日、私は私自身を彼に思いを馳せながら慰める。

 でも、足り無い。

 とにかく足り無過ぎる。

 気持ちが、そしてカダラが……初音くんを求めている。

 それはもう限界に限り無く近く……。

 初音くんと一緒にいたい。

 初音くんだけ傍にいてくれたらいい。

 他には何も必要無いから、初音くんだけが、私を見てくれればいい。

 二人切りになりたい……二人だけになりたい…………誰もいない、誰の干渉も受けない、誰も必要無い……私と初音くんだけの世界が欲しい……。

 荒唐無稽な考えなはずなのに……今の私にはふと頭の中に、現実的な意味で思い付くモノが存在する事に気付く。

「あれ…………ある、あるじゃない。私と初音くんの二人だけになれる世界が……」

 そんな世界、有る訳が無いのに、どう言うわけなのか今の私には、そんな想像の世界が存在していると言う考えが確信として存在している。

「そっかぁ、あるんだ……別の世界が…………」

 どうしてそんな世界が存在するのか、どうしてその世界へ行く方法が解かるのか、そんな事は全く不思議には思わない。

 だって、これは神様が困っている私を見兼ねてプレゼントしてくれた世界だもの……私の苦しみを分かってくれた神様が与えてくれた……苦しい思いをして来たのだから、これは当然の報い。

「うん、きっとそう……間違いないよね」

 だから私は直ぐにでも行動を起こす事にする。

 その世界へ行く方法として、別に初音くんの所へ行く必要は無いけれど、やっぱり常に一緒にいたいから…………。

「初音くんの所へ行こう……くすくす」

 この時間なら、もう少しすると彼は外へ出る。

 日課のトレーニングをする為に……。

「初音くん、今行くから、待っててねぇ……くすくすくす」

 そして私は机から離れ、制服姿まま、自宅を後にする……初音くんの家へ、初音くんには内緒で侵入する為に。


A Preview

「リリカノさん、何をしているんですか?」

「仕事よ」

「タブレット使って? 報告書、とか?」

「違うわ。除霊しているところ」

「へ? タブレット……で、ですか?」

「ええ、今はインターネットさえ出来れば、わざわざ現地へ行く必要も無いのよ。余りにも強力な場合は別だけれど」

「神様とか仏様とか、信仰心の欠片も無いんですね……」

「そんな存在しないものに頼って除霊出来ていたら、霊に悩まされる人間なんていないでしょう?」

「確かに、そう、ですね……念仏とか呪文とかは?」

「別に必要無いわ」

「お神酒とか聖水なんかも?」

「今ここで用意しろと言われたらするけれど」

「わーわーっ、ちょっと、何スカートの中に手突っ込んでいるんですかぁっ?!」

「聖水でしょう? 出そうと思って」

「意味合いが違いますってぇっ!」

「まったくややこしい事を言わないでくれるかしら?」

「……ややこしくしたのはリリカノさんだと思います」

「ちょうど良いから教えて上げるけれど、徐霊に使っている時によく目にする聖水。あんなのは、ただの水よ」

「へ?」

「水道水ですもの」

「マジ、ですか……?」

「ええ、サイダーでもいいわ」

「そんなベタベタしそうな聖水を掛けられるのは、絶対嫌です……」

「こっちの聖水ならいいのでしょう?」

「あははは、いったい何処を見て言っているんですかねぇっ! 僕には理解出来ませんっ!」

「まぁいいわ。徐霊の続き。少しカメラを左側へ向けて。あぁ、止めて。そこにいるわね。西洋の甲冑姿をした落ち武者が」

「落ち武者が西洋の鎧っておかしいでしょっ?!」

「カメラはそのままで。それで、くたばり底無いの癖に成仏もせず生者へ嫌がらせをするのは、どう言う了見なのかしら?」

「……く、くたばり底無い」

「ふむ、要約すると、魔法少女エグゼキューティッドと言うスマートフォンのゲームを歩きながらプレイしていたら、川に落ちて西洋の甲冑の重さにより水没死した、と言う事ね」

「ツッコミどころあり過ぎでしょっ!! どこを突っ込んでいいのか分からねぇっ!」

「まったく、救いようのない大馬鹿者ね。そのくせ平安時代からよくもまぁ、そんな事くらいで地縛霊を今の今までしているだなんて……呆れてモノが言えないわ」

「平安時代にスマートフォン?!」

「あぁ、もう、初音さんはうるさいわね。静かにしなさい」

「ぎゃいいいっ、目がぁぁっ! お目めがぁぁぁっ!」

「今すぐあの世へ送ってあげるから、現世から去りなさい。え? 後生だから、最後に一つお願い? 面倒くさい。どうして私があなたの願いなんて聞いてあげる必要があるのかしら? それ相応の対価を払える? 払えないのなら、え? 私じゃなくて、そこでゴロゴロしている子?」

「リリカノさんっ目潰し禁止っすよっ!」

「初音さん、あなた魔法少女の変身ポーズを取りなさい」

「どうして僕が?!」

「つべこべ言わずに取ってくれたら、私の胸を三分間好きにしてもいいけれど?」

「やりましょうっ!」

「話が早くて助かるわ」

「で、どんなポーズを?」

「ちょっと耳を貸して…………」

「かっ、かわいくっ?! どうやって?!」

「それくらい自分で考えなさいな。嫌ならそれでいいけれど、今の話は無かった事に」

「二次元好きの真骨頂、お見せしましょうっ!」

「ふむ、語尾に”にゅ”と付けて欲しいらしいけれど? それも出来るのかしら?」

「当たり前ですっ!」

「それじゃあ、頼む……少し落ち着けないのかしら? 鬱陶しい」

「……僕、ですか?」

「いいえ、歩きスマフォで死んだ大馬鹿者の霊の事よ。そのゲームの魔法少女にあなたが似ているらしくて、さっきからうるさいのよ」

「僕には何も聞こえませんけれど?」

「波長が合わないのでしょう。私は元々見える側だから、波長うんぬんお構いなしに聞こえ……本当にうるさいわね。初音さん、さっさと変身ポーズを取って、この土左衛門を成仏させて頂戴」

「……もう少し優しくして上げてもいいような」

「生きている人間に迷惑を掛けているのだから、優しくする意味なんて無いのよ。ほら、早く」

「りょ、了解です。では……行きますっ! 魔法少女に……マジカルぅ~トラン」

「あぁっ、鬱陶しい。もういいから成仏しなさいな」

「スだにゅっ! ってえええええ! 成仏させっちゃったんですか?!」

「ええ」

「酷いですよおおっ! じゃあ三分間の極楽タイムはっ?」

「当然無いわ」

「頑張ったのにぃ!」

「素晴らしかったわよ? とてもじゃないけれど、あんなに素敵な笑顔と可愛らしいポーズは、高校生にもなって出来たモノじゃない、”にゅ”」

「いやぁぁっ! 止めてーっ! 忘れてくださいぃっ!」

「一生忘れられないかもしれない、”にゅ”」

「い、一生の……辱めを受けたにゅ」

「それでもその語尾を続けるだなんて、少しだけその根性を見直して上げるわ」

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