終章α:三代リナの作品ノート

【タイトル】

(想出/色)を含む


【作品テーマ】

(歪んだ愛・故人との共同愛)様々な恋慕の形


【超概略】

 20代後半の女主人公が旅先で出会った少年に恋をする。少年の存在性はどこか……現実を越えた不思議な性質を纏っているようだった、みたいな。


【登場人物】

・女主人公 →モチーフは自分

 せめて小説内=存在であるから可愛くさせてやってくれ、とお願いしたいところでるが、実際の容姿は高く見積っても中の下だろう。勘違い地下アイドルにありがちな顔面、みたいな。


・少年 →モチーフはヨシカの弟(ヨシカに弟っていたっけ?)

 女主人公の友人にそっくりな男の子。大人っぽく落ち着いた性格であるが、ストレスを感じると泣き出す一面もある。

 →精神障害などの負い目を追加する常套手段は寒い。《設定》に頼らずとも、少年の不思議な存在性を丁寧に表現すれば問題ない。


・女主人公の友人 →モチーフはヨシカ本人

 取り敢えず物故した。


【プロット】

 出たとこ勝負で。


  ★  ★ 


 自己投影ほど悲しいことはない。拙い創作活動を続けている私は、愚かな夢が現実に叶ってしまうのではないかと慌ててしまうことが屡々しばしばある。

 《五輪の魔法使い》も、苦境に陥る私を救うヨシカの将来を願った結果だった。悲しいかな……空想による現実の補完は不可能なのにさ。


 人間は幸せを求める生き物……言葉を穢くすれば快楽を貪る猿なのだ。全てを解っている振りをして賢そうに見せても、結局は最愛なる人との妄想に入り浸り、自らの性器を粗雑に撫でて果敢無いオーガズムを獲得することに一生懸命である。

 実刑を免れられない被告人のような卑しい顔をした私が手鏡に映っている。卓上には学校以外で開かれることのないノートがあり、新しい空想シナリオの土台を固めようとしていたが、書けば書くほどシナリオの欠片は小さくなっていき、現実という名のカルピスを極限まで薄めた飲料としか思えなかった。


「この話では私とヨシカの投影は難しいかな。少年愛には興味無いし」


 ページ部分を破って捨てようとするのは作家の所作であり、作家の真似事をしている私はやっても滑稽に映るだけ。

 だから、愚行の烙印をずっと残すべく……書き留めたノートを静かに閉じた。


  ★  ★ 


「……と、悟ったような独白で締める私もフィクションの一部だった、みたいな」

 小説の書き方において、私は根本から解っていないのかもしれない。というより、私が書いているのは小説ではなく捻じ曲がった妄想か。

 フィクションを書いているようで、実の処は現実より頂戴した手枷足枷によってノンフィクションを望んでいた。

 極端な話、私とヨシカが×××する物語でも良かったのだ。四六時中×××。暇さえあれば×××。朝も昼も夜も×××。車の中でも×××。ドロッドロに溶けるような×××。だが、私は書かなかった。理由は次元を一つ落とした私が語っていた通りだ。×××が成立しなかったのは、ディルドを弄ぶ痴女のような快楽行為と等しいからだ(ディルドはOKな単語だったか?)。

 そんなことを前々から考察していた私は、試しに通販でディルドを購入した(ま、いっか)。ディルドの先端にシャープペンの芯を突き刺して書くヨシカとの官能小説はどんなテイストになるのかという試みだったが、とにかく書きづらいことが判明した。


 以上の顛末をヨシカに話すと、

「わたしの使っているロングディルドなら柔らかい素材なので、万年筆代わりになりそうですが」

 ハンドバッグに入っていた水筒の中に入っていたロングディルドをすぐさま渡してくれたのだ。相変わらず物分かりの良い奴だなと感心しつつ、私はノートを抽斗にしまってヨシカのロングディルドを本来の使い方で使った。やり過ぎて足腰が死んだ代わりに、間接×××を楽しめたのだった。


  □  □ 


 ーー。《五輪の魔法使い》を不完全なシナリオにしてしまった私は、せめて使の終焉を書いてやろうと決めた結果、三つの世界線が生まれたのだ。

 

 第一の終末では、創作活動を確実に進めようとする私がいる。

 第二の終末では、創作活動を放棄して現実主義に滲透する私がいる。

 第三の終末では……これは何だろう?


 ノートに記したのは誰でもない自分であったが、その自分を軽蔑したいほど酷いストーリーが生まれてしまった。どうしてヨシカの水筒にロングディルドが入ってんだよ。それ以前にロングディルドって何だよ。

「誰にも見せない断片抄だから、何を書いてもいいんだけどさ」

 もうちょっと自重しようぜと私は自嘲し、一生非公開になるであろうノートをゴミ箱に投げ捨てた……のは幻想の鏡に閉じ込められている私であり、吝嗇でつまらない本当の私はアイデアの欠片を再利用したく思った。

「あんたとの想出は何色かな」

 ロマンを秘める胸を撫でて、私は正しい未来の世界を選ぶ。

 少しでも間違えると猥褻物そのものになってしまったり、はたまた薬物中毒者になって頽落するパラレルワールドに乱入してしまったり……みたいな末恐ろしいイマージュが爛々と耀いていたが、どの世界でも美しく可愛いヨシカがいれば安心できる。


 私は幸せ者だ。

 何の根拠もない一文を御守りにして、世の中の端っこを歩き続けよう。

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