【実践練習第9日目】なりすまし文体

○ルール 【実践練習第7日目】で蒐集した人物スケッチの人物になりきって、一人称により、其其の人物の一日を想像してえがく。大事なのは、他人の〈文軆〉をみにつけることである。便宜上【実践練習第7日目】の人物スケッチの文章も引用しますが、内容はおなじです。



◇わらっているあかちゃんのしやしんから


 同性同士の結婚がはんぶんじよくれいの法律的にりようしようされているこつにてAV男優の英吉利いぎりす人二十代男性と精神科医の埃及えじぷと人五十代男性とのはざにiPS細胞の技術をえんして代理出産されたえい。支援者たる嬋媛おそよかな女性の胎内から自然ぶんべんされたが無論遺伝子文字列は男性ふたりから継承しているためにそこはかとなくがんぼうは両親の男性たちに類似している。


 名前 マイケル・イブリース・イスラフェル(命名法はイスラムにしたがう)

 年齢 零歳

 住所 独立埃及えじぷと自治区首都


 ぼくにはおとうさんがふたりいる。こころのびょうきをなおすおとうさんとびでおにでるやくしゃさんのおとうさんだ。ふだんはこころのびょうきをなおすおとうさんがびょういんでしごとをしてやくしゃさんのおとうさんがごはんをつくったりそうじをしたりしてくれる。せんせいはめずらしいことじゃないといった。むかしはめずらしいことだったといった。きょうはようちえんでこどもがどうやってできるのかをおしえてもらった。むかしはおとこのひととおんなのひとがあいしあうとこどもができたらしい。いまはおとこのひととおとこのひとでもおんなのひととおんなのひとでもいでんしもじれつをそうさすることでこどもをつくれるんだ。せんせいは「すばらしいことですね」といっていた。おうちにかえったらやくしゃさんのおとうさんに「すばらしいことですね」といってみた。おとうさんはないた。


◇着物をてんじようさせた老婆の白黒しやしんから


 明治時代大日本ていこくしゆんぷうたいとうたる職業軍人の父親と豪放らいらくなる銃後の母親のもとに誕生する。富国強兵の雰囲気鬱勃たる時代に霊肉をかんようされたことからの日本では異例なることに女性の職業軍人としてていこく陸軍にちゆつちよくされる。きようこう第一次大戦にて大尉として参戦し武勲かくやくにして少佐に昇進。第二次大戦において一個小隊をきようどうして激戦地コヒマへと攻略するが上層部二連隊幕僚のあつれきによりとんざんしんいんひようびようたる玉音放送放送中に割腹自決未遂。きようこう脳病院から脱走。行方不明に。しやしんは失踪中に撮影されたものとおもわれる。


 名前 大岡ちゑこ

 年齢 1889~????(歿ぼつねん不詳)

 住所 大日本ていこく東京府いち生まれ


 わたくしはきようてんなどしてをりません。たしかに昭和二十年天皇陛下のことをたまはりたるにはけつして自決せむとして癲狂院に幽閉されました。いまおもへばざんさんすべきことでせう。自決する必要などなかつたのです。まんいち昭和裕仁天皇陛下の御身に御不幸あればまつしぐらきゆうじゆつしにゆかむといふ決意こそ必須だつたはずです。とまれかくまれあんたんたる癲狂院よりとんざんしたのち神聖ぼうとくすべからざる皇居かいわいしようようかつしてゐたけいに捕縛されのうの向精神薬を掌握してゐたことからせきの脳病院に強制入院せしめられいまにいたるのでございますがまつたき不条理なことこのうへない。今日も往診にきた精神科医にしてやりました。「きようてんしてゐるのは貴方あなたです」と。精神科医はいひました。「おくすりをふやして様子をみませう」と。


禿とくとうで側頭部にほうはつをはやしている中年男性の白黒しやしんより


 戦後造次てんぱいもなく第一次ベビーブームのなか戦争画家の父親としやしん家の母親とのはざに誕生する。百年河清をつ両親ともげいじゆつの世界ではこうをしのげないのでろくしんけんぞくの援助により生活していた。ものごころついた男性は未来を窃視する超能力を発揮して両親をきんじやくやくたらしめる。けいがくよく望にひようされた両親は男性の超能力でとうしゆとんとみを籠絡せんとするが男性みずからはえんする。きようこう超能力をつかうことなく平平凡凡なる〈金の卵〉として独身生活をばくしんする。男性はなにゆゑかいんしやしんを撮影されたりゆう一鬼という人物が自分のしやしんを役立てる〉とげんしたのみできようこう未来を予知することはない。


 名前 こうのいけ次郎(兄太郎が流産でへいしたため)

 年齢 七七歳

 住所 青森県生まれ東京都在住


 おれは三日後にえいする。おれには明日がみえるからだ。ぎようこうにも現在きゆうきようひやくがいかくしやくとしているので急性のまく出血だか脳卒中だかでぽっくりゆけるんだろう。ざんなることにまで精緻に明日はみえない。のうはみえていたはずだがいまはみえない。これもぎようこうなことだ。「死はもっとも意外なかたちでやってくる」というがようなるしゆうえんこそがぎようこうなのだ。すがはやみずからの運命や地球の将来を尋問してくるやからとは疎遠になったがおうはよくきかれたものだ。「ところでぼくはどうやって死ぬんでしょうかしあわせに死ねるんでしょうか」などと。前述のように「死はもっとも意外なかたちでやってくる」からこそぎようこうなのだ。おれはへきえきしてしやはんの尋問にはこたえずにきた。抑ゝ未来をげんすることもしなくなっていった。一日麺麭ぱん一枚と納豆御飯とばんさんだけをぼうしんしようたんした仕事場もない。今日はまた納豆御飯にたまごでもいれてらうだけだ。これでいいんだ。

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