【実践練習第2日目】断片から書く

○ルール 実在の文章を用意して、つづきを自己流に執筆する。『2週間で小説を書く!』には実例が掲載されているが、長文なので、今囘はカミュ『異邦人』の冒頭を用意する。


 今日ママンが死んだ。もしかしたら昨日かもしれないがわたしにはわからない。抑ゝ全知全能のママンにめいちようたる昨日今日明日というような時間の概念はえんされない。ママンは神なのだから。ゆゑにこそわたしはいえる。〈今日神は死んだ。もしかしたら昨日かもしれない〉と。貴殿はニーチェの著作をほうふつとするかもしれない。〈神は死んだ〉という文章はいくばくか万人をわくする魅力がある。同時にニーチェにおいては〈神を信仰するものがゆうとなった〉がゆゑに〈神は死んだ〉のだ。ママンは相違する。ママンはたしかに神であった。ママンはあんたんたるくろに存在しめいもうたるつつやみいちこうぼうもたらした。〈光あれ〉と。ようにして天地かいびやくが遂行されたのだ。成程神は男性だと仰有るかもしれない。はんぶんじよくれいの男性主義社会の弊害である。ジェンダーフリーの現代では神は女性でもかまわないのだ。抑ゝである。るいじやくなるにくたいをもってまつえいを誕生せしめるのは綿めんばくたる原始より女性の能力であった。すいより全知全能の神霊といえば男性をイメージするのはわたしたち男性の傲慢にほかならない。いずれにせよママンは神であり神は死んだのだ。死因は元旦の黄粉餅のえんしようがいであった。餅をのどにつまらせたのだ。といえども死因はほど問題ではない。神がほんとうに存在し神がほんとうへいしたとしたら世界は怎麼生そもさんひようへんするのか。ほうはくたる世界各地から〈朕こそが第二の神である〉という老若男女が登場した。ほうはくたる世界各地から〈世界はおわるのだ〉というげんされた。ほうはくたる世界各地にて〈御布施を返還せよ〉というだんほうこう響動とよめいた。結句老若男女は第二の神ではなかったし世界はおわらなかったし御布施は返還されなかった。ならばなにがかわったのか。なにもかわらなかったのだ。単純明快なるはなしである。わたしたち全人類は神というママンから乳離れしたにすぎないのだ。わたしたちには家族がいたりこいびとがいたりえんおうちぎりをかわした伴侶がいたりする。わたしたちは充分にみずからの能力で生存できる。ひとことでいおう。〈わたしたち全人類は自立した〉のだ。最高のかたちでである。わたしたちは神を喪失した。喪に服すべきだろう。といえどもわたしたちはきよする必要もない。ママンは生前よくいっていた。〈あんたら息子娘どもよ小説なんて書いてないで金稼いできな〉と。それだけさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る