第46話
バジュラとの話を終えたヴァルディが、ロスト達の元へ歩いて行く。
「これはロスト様にゼノム様、今日は我が娘の結婚式に参列いただきありがとうございます」
「おはようございますヴァルディ殿」
「今日は良き式になると良いですね」
「はい」
「ヴァル小父さん、おはよー! あ、もうお義父さんだっけー」
「おはようラピスちゃん、まだ少し気が早いんじゃないかな? ん? そちらのお嬢さんは……」
「は、初めまして……レティ・モナークと言います」
「ああ、君が噂のロスト様の……」
ヴァルディは屈んでレティの背の高さに視線を合わせ、右手を差し出し握手した。
「初めまして、ヴァルディ・フォルテです、この前はうちの店に来てくれたんだってね?」
「は、はい、竜泉饅頭とっても美味しかったです!」
「ふふふ……そう言ってくれて嬉しいよ」
「あの、ヴィオラさんのお母様は何処に居られるんでしょうか? ご挨拶をしたいのですが……」
「あー……レティちん、ヴァル小父さんの奥さんは……」
「妻には十年前に先立たれてね」
その言葉を聞いたレティはハッとなり顔を青ざめ、頭を下げた。
「ごめんなさい! 私……」
「気にすることは無い、妻はもういないが、その存在は私の心の中で生き続けているからね」
「心の中で、生き続けている……」
「ヴァルディ様、もうすぐ式が始まりますので、ヴィオラ様と準備を……」
「分かった、それでは皆様、私はこれで……」
ヴァルディがチャペル内に入って行く中、レティは胸に手を当て、何かを考えていた。
「レティ、どうかしたか?」
「! い、いえちょっとぼーっとしていただけです」
「……そうか、じゃあ行くか」
ロストがレティの手を握り、一緒に歩いて行く。
……その光景を抱き着こうとするを片手で押さえながら、羨ましさと殺意半分で睨むゼノムであった。
チャペル内でロスト達や招待された者達が長椅子に座り、式の始まりを待つ。
「皆様、ご静粛に……新郎の入場です」
その言葉と共に入り口の扉が開き、真紅のマントを羽織ったグレンが中央通路を歩いき、司祭の前に立つ。
「続きまして、新婦の入場です」
入り口からヴァルディにエスコートされるヴィオラの姿が現れた。
ヴィオラは普段の着物とは真逆の純白のウェディングドレスを着て、ウェディングブーケを持っていた。
その姿を見た参列客たちが感嘆の息を吐く。
「ヴィオラさん、綺麗……」
「だよねー……流石私のお義姉ちゃん」
ヴァルディとヴィオラは通路を進み、ヴァルディはグレンへヴィオラを引き渡す。
そして司祭が書を朗読ののち、誓いの言葉へと移る。
「汝、グレンよ、ヴィオラを妻とし、病める時も健やかなるときも、死が二人を分かつまで愛し続ける事を誓いますか?」
「誓おう」
「汝、ヴィオラよ、グレンを夫とし、病める時も健やかなるときも、死が二人を分かつまで愛し続ける事を誓いますか?」
「誓います」
「では、誓いの口づけを」
グレンとヴィオラが向き合い近づき、お互いの尻尾を絡ませ合いながら口づけを交わした。
「我らが竜人の父であり母である竜神の名の元に、汝ら二人を夫婦となす」
その言葉の後、参列者たちが二人に祝福の拍手を捧げた。
その後、チャペルから参列客たちが外に出て、新郎新婦が出てくるのを待っていた。
「兄様、参列されていた女性達が集まって何か準備運動をされてますけど……これから何が始まるんですか?」
「ああ、今から花嫁からのブーケトスがあるんだ」
「ブーケトス……申し訳ありません、知識に無くて……」
「結婚式の終わりに花嫁さんがウェディングブーケを投げる事だよー、しかも王族の結婚式のブーケトスを受け取った人たちはみんな必ず幸せになってるんだー♪ だから招待された女性達の内、独身組が気合入っているんだよねー」
「そうなんですね」
「……ん? そう言えばゼノムはどうした?」
ロストが蟻人達に尋ねた。
「それが、さっきからお姿が見えなくて……」
「そう言えば居ないな……」
「どこ行っちゃったんでしょうねー?」
ゼノムを探す中、チャペルからグレンとヴィオラが出て来て、皆が再び拍手を送る。
「それじゃあ、今から投げるさかい、受け取ってなぁ……せぇーのっ!」
『『うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』』
ヴィオラがブーケを天高く投げると同時に、一斉に未婚女性達が翼を広げ、空に飛びあがった!
そのあまりの気迫に、レティは怯えていた。
「あわわ……」
「うむ、相変わらず凄いな」
「そうですね……」
「彼女らも年頃ですから」
「中には行き遅れそうな人もいるもんねー」
ブーケに向かって一直線に向かう女性達。
とその真下から一気に跳躍し、竜人女性達を押し払っていく女性の姿が。
「どけどけぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! そのブーケは私のものだぁぁぁぁぁっ!!」
「ゼノム!?」
「ゼノム様!?」
「居ないと思ったら……しかもまた女性になっておられる!」
そう、今ブーケを取ろうとしているのは、性転換の薬を使用して女性になったゼノムであった!
「このブーケを手に入れ……私は兄上との幸せを手に入れるのだごぶはぁっ!?」
ブーケを手にしようしたゼノムの前に突如ラピスが現れ、顔面を踏み台にした!
「ラ……ピスぅぅぅぅぅぅぅ……!」
ゼノムは恨み言を叫びながら落下して行き、ラピスはそのままブーケを掴んだ!
「あー! いけない手が滑っちゃったー♪」
―と思いきや、ラピスは急にブーケを手落とした。
そのままブーケは落下し、真下に居たレティが掴んだ。
「え? えっと……」
「レティちんおめでとー! そのブーケはレティちんの物だよー♪」
着地したラピスがレティに祝福する。
「で、でもこれはラピス様が手にいれた……」
「いやー、あそこで手を滑らせるなんて、私もドジだなー♪」
「ラピス様……」
「大丈夫、私はもう婚約者がいるからね♪ 幸せになるんだよー!」
ラピスが親指を立ててウィンクをする。
「全くあいつは……」
「ふふ、ラピスちゃんらしいわぁ」
「何はともあれ、最後に手にしたのはお前だ、受け取っておけ」
「兄様……分かりました」
こうして、最後に少しだけ波乱はあったものの、グレンとヴィオラの結婚式は滞りなく終わったのであった。
簡易キャラ紹介
グレゴリア・モナーク
年齢、47歳
ロストとゼノムの母親。
かつてはベルパニアと言う王国で勇者と共に魔王討伐に向かったが敗北したが生かされ、その後魔王であったガルドと結婚することになった。
可愛いものに目が無く、レティを溺愛する。
普段は凛々しいが、二人きりの時はガルドに甘える。
ガルド・モナーク
年齢、50歳
ロストとゼノムの父親。
基本寡黙な上に不器用で、さらに言葉足らずな時も多い。
グレゴリアほどではないがレティを溺愛している。
グレゴリアと二人きりの時は結構喋る。
バジュラ・ザーク
年齢、50歳
竜王国ザークの現国王でグレンとラピスの父親。
普段から明るく、笑ってる事が多い。
ガルドとは親友同士でラピスがゼノムに嫁ぐことを容認しているため、ゼノムの悩みの種だったりする。
ルピア・ザーク
年齢、46歳
竜王国の王妃でグレンとラピスの母親。
基本おっとりした性格で、夫バジュラとはグレンが呆れるほどラブラブである。
怒る事はあまり無いが、怒らせたら大変なことになるらしい。
ヴァルディ・フォルテ
年齢、52歳
ヴィオラの父親で、竜泉饅頭フォルテ屋の大旦那。
仁義を重んじ、礼儀を欠かさない人物。
顔にある傷は、実は昔奥さんと喧嘩した際に付けられたモノ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます