第45話
「グレン、立てるか?」
「痛つつ……ああ、大丈夫だ……」
ロストが倒れているグレンに肩を貸し、起き上がらせる。
「……俺の負けか……」
「ああ、これで俺の552戦一勝、551引き分けだな」
「……今それ言う必要あるか?」
「お前だって勝ってたら言ってただろ?」
「……言ってたな」
ロストはグレンを地面に座らせ、自身も座る。
「なぁロスト……何で最後の手はグーにしたんだ?」
「ん? あー……」
ロストは人差し指で頬を掻いた後、答えた。
「本当はパーかチョキにしようと思ってたんだが……最後の勝負だと思ったら、力んでしまってな……」
「……ぷっ、ふははははははははははははは!」
その答えを聞いたグレンは目を丸くして固まり、その後地面に仰向けで倒れ、大爆笑した。
「な、何故笑うんだ!?」
「いや、ちょっとな……ふふふ……あーあ、負けちまったなー! ……でも負けたのに、何か不思議と清清しい気分だ」
「そうか、お前が負けて落ち込むんじゃないかと心配してたんだが……問題なさそうだな」
「ああ、明日の結婚式も晴れ晴れとした気分で行えそうだ」
「ふ……グレン、改めて結婚おめでとう」
「ああ、ありがとう」
ロストとグレンは笑顔で握手し合う。
「兄様ー!」
「ん? レティ?」
「レティさん? ……ってヴィオラ!? 何でここに!?」
「あら、うちが居ったらあかんの?」
レティがロストに駆け寄り身体に触れた。
「身体に傷が……」
「心配するな、こんな傷一晩すれば消えるさ、それよりレティ、何時からここに?」
「えっと……兄様たちが魔じゃんけんをする前に話されていた辺りから……」
「そうだったのか」
「ご、ごめんなさい! 部屋に戻っていろって言われてたのに……」
「そんなこと気にしなくて良いぞ、命令なんてしてないからな」
そう言ってロストはレティの頭を優しく撫でた。
「ヴィオラ、その……君も最初から?」
「うん、居ったよ?」
「そ、それじゃあ勝負の前に言っていたあの言葉も……?」
「『結婚する前にお前との決着を着けておきたいんだ』の事?」
「聞かれてたかぁ~……!」
グレンは頭を抱えて項垂れる。
「よりにもよって、婚約者にあのこっ恥ずかしい会話を聞かれてたなんて……」
「別に聞かれて減るもんでもないやろ? ふふふ……」
「そう言う問題じゃなくてだな……」
くすくすと笑うヴィオラは、そのままグレンの隣に座り込む。
「なぁグレン、ロストはんに勝っておきたかったのって、本当はうちのあの言葉を引き摺ってるんからなんやろ?」
「……な、何の事だ? 俺は只、ロストとの決着を……」
「子供の頃、うちがグレンに『ろすとはんにかてなかったら、けっこんしてあげない』って言ったら、グレン前以上にロストはんと勝負するように……」
「わあああああああ!? ヴィオラ! その話は人前でしないでくれって言っただろ!?」
「うふふふ……♪」
あわてふためくグレンを見て、ヴィオラは楽しそうに笑う。
「確かに、何か一時期血気盛んに勝負をしようと言われていたが……そういう事だったのか?」
「ち、違う! 俺はそんな邪な気持ちで勝負していたわけでは……!」
「グレン、うちと結婚したいって想いが邪なもんやったん? うち悲しいわぁ……」
「そ、そう言う意味で言ったんじゃ……ああもう、色々と滅茶苦茶だよぉ……」
「うふふふふ♪ ごめんってぇ……でもグレン、さっきの勝負の時とってもかっこよかった……惚れ直したわぁ♡」
「……ありがとう、ヴィオラ」
グレンは優しい笑みを浮かべ、自らの尻尾をヴィオラの尻尾と絡み合わせた。
「何はともあれ、勝負も終わったんだ、明日も早いしもう寝るか、なぁレティ?」
「はい、戻りましょう兄様」
こうしてロスト達は訓練場を後にし、自室へと帰って行くのであった――
――一方そのころ、ゼノムの自室では。
「えへへー♪ ゼーノームーちーん♪」
「はぁっ、はぁっ……」
ラピスが過激な寝間着姿でゼノムに這い寄ろうとしており、ゼノムは殺気を放ち戦闘態勢を取っていた。
「どうして逃げるのー?」
「……それを言うなら、そっちこそこんな夜中に何しに来たんですか?」
ゼノムは青筋を立てて質問すると、ラピスは両手を頬に当て、照れくさそうに喋った。
「明日お兄ちゃんとお義姉ちゃんの結婚式でしょー? ワクワクしすぎて目が覚めちゃって、ゼノムちんの元に行こうかなーって♪」
「……そこはまだ理解はしてあげます、だがその恰好は一体何なんだよ!」
「だって私達って婚約者でしょー♪ 夜に婚約者同士が会ってすること言ったら……ねぇ?」
「無駄だと解ってはいるが、一応言っておくぞ……私とお前は婚約者でもなんでも無いっつってんだろうがぁ!」
「もう、いけずぅ……でもそんなゼノムちんが大好き♡」
「……はぁ……」
ゼノムは額に青筋を立てながらため息を吐いた。
「えへへぇ……ゼノムちぃん……この昂りを、鎮めさせてぇーーーー!!」
ラピスが翼を広げ、ゼノムに襲い掛かる!
「貴様などに奪われてたまるか……! 私の初めては兄上に捧げるんだぁぁぁぁぁぁっ!!」
……ロストとグレンの戦いとは別に、もう一つの戦いが人知れず行われていたのであった。
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