第43話
――日も落ち、食事を終えたロストが部屋でゆったりとしていると、扉がノックされ声が聞こえた。
「兄様、私です」
「おお、レティか……開いているから入って良いぞ」
レティが扉を開け部屋に入り、ロストの隣に来た。
「今日も月を見られていたんですか?」
「ああ、今日も月は綺麗だ」
「月のウサギさんたちは今日も元気に餅つきをしてますかね?」
「ああ、きっと楽しくついてるだろうな」
そう言うとロストとレティは向き合って朗らかに笑い合った。
「明日のグレン様達の式、どんな感じなんでしょう? 結婚式の知識はあるんですけど、見るのは初めてで……でも、とても素敵なモノに違いありませんよね!」
「ああそうだ、とても素敵なモノだとも」
「私、凄く楽しみです」
レティが明るい笑みを浮かべると、ロストは左手でレティの頬に触れ、顔を近づけた。
「え……?」
「……やはりレティには、その笑顔が一番似合っているな」
そう言って微笑むロストに対し、レティは徐々に顔が紅潮して行き、頭から湯気が出そうなほど真っ赤になった。
「あ、あに、兄様……」
ドンドンッ! ドンドンッ!
とその時、誰かがロストの部屋の扉を強くノックした!
「ん、誰だ?」
ロストはレティから離れ、扉の前に行く。
「ロスト、起きているか?」
「その声は……グレンか?」
ロストが扉を開けると、グレンが立っていた。
「グレン、こんな夜更けに何の用だ?」
「ああ、お前に話があって……」
話そうとしたグレンが、ロストの後ろで顔を真っ赤にしたまま硬直しているレティの姿を発見し、何かを深読みした。
「す、すまない……何か邪魔したみたいだな……」
「? 別に何の邪魔もしていないが?」
「そ、そうか? なら改めて……」
グレンは咳ばらいをして、真剣な表情で話し始めた。
「一対一で話したいことがある、悪いが付いてきてくれないか?」
「……分かった、レティ」
「は、はひっ!?」
硬直していたレティが動き出し、素っ頓狂な声で返事をした。
「俺はグレンと話があるから部屋を出る、悪いが部屋に戻っていてくれ」
「は、はい……分かりました」
「では行こうか、グレン」
グレンに連れられ、ロストは部屋を出て廊下を歩いて行った。
――ロストとグレンは、竜王城の一角にある訓練場の一つに来ていた。
「―それで? 話したいことって何だ?」
「……」
地面に胡坐を組んで座ったロストがグレンに話しかけると、グレンはその隣に座り、語り始めた。
「俺は明日、ヴィオラと結婚する」
「何当たり前の事を言っているんだ? ……まさか、結婚したくなくなったとか?」
「まさか……ただ、今日が独身最後の夜だと考えたら、眠れなくてな」
「眠れないのは明日の緊張からじゃないか?」
「それもある」
二人は軽口を交わし、お互いに微笑を浮かべる。
「……憶えているか? この場所で俺達の最初の勝負を行ったのを」
「勿論だ、あの時はお互いの母親に叱られて勝負は引き分けになったのもな」
「そう……そしてそれから俺達は会うたびに何度も勝負を行い、今日までずっと引き分けで終わって来た……」
グレンが立ちあがり、訓練場の中心まで歩くと振り返り、右拳を握りしめた。
「だが、ヴィオラと結婚する前に……お前との決着を着けておきたいんだ!」
「グレン……」
「勝負だロスト! 初めての勝負の時と同じ、拳と拳の戦いだ!」
「……良いだろう! その勝負、受けて立つ!」
ロストは勢いよく立ち上がり、上着を脱ぎ捨てグレンと対峙する!
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