第42話
「――それでその時のロストときたらな……」
「ふふっ、兄様らしいですね」
「だろう? 後10歳の時の誕生日の話なんだがこれがまた……」
かれこれ数十分、グレゴリアとレティが談笑していると、扉がノックされ、侍女が入ってきた。
「失礼します、国王様、王妃様、ヴァルディ・フォルテ様とヴィオラ・フォルテ様達が参られました」
「おお、もうそんな時間か……すまないガルド、グレゴリア、これからヴァルディ達と明日の段取りの確認をしなくてはならないんだ」
「そうか……それなら仕方あるまい、グレンとヴィオラちゃんの式、楽しみにしているぞ」
「……良い式になるといいな」
「ああ、それでは失礼するよ」
「グレゴリア、また後でねー♪」
そう言ってバジュラ王とルピア王妃はダイニングルームから退出した。
「お母さん、ヴァルディ様と言う方はもしかして……」
「ん? ああ、ヴィオラちゃんの父親だ」
「やっぱりそうなんですね、昨日ヴィオラさんのお家に行ったんですけど、ヴィオラさんのお父様には会えなかったんです……どういう人なんですか?」
「どんなか……そうだな……『仁義』を重んじる男だな」
「仁義?」
「仁とは、広く人や物を愛することだ」
扉の方から声が聞こえ、レティが振り返ると、ロストがいた。
「兄様!」
「義は物事のよろしきを得て正しい筋道にかなうこと……まぁ簡単に言えば他人に対する礼儀などの事だな」
「へー……そうなんですね……」
「ああ、そう言えばグレンが急いで何処かに行ってしまったんだが……何かあったのか?」
「ロスト様、実は……」
蟻人がヴィオラ達が来たことをロストに話した。
「成程ヴァルディ殿が……後で挨拶に伺わなければな……所でレティ、母上と何を話していたんだ?」
「はい、兄様の子供の頃のお話を聞いていたんです」
「俺の?」
「そうだ、レティちゃんがお前の事をもっともっと知りたいと言ってな……愛されているなお前は」
「あ、愛しているって……」
グレゴリアの言葉に、レティが頬を染めた。
「ふふ、照れているレティちゃんも可愛いな」
「お、お母さん! からかわないでくださいよ~……」
「からかってなどいないさ、事実可愛いからな」
「うんうん! レティちんは超可愛いよね~♪」
「母上とラピスの言う通りだ、レティは可愛いぞ」
「あ、兄様……うぅ~……」
三人から可愛いと連呼されたレティは嬉しさと恥ずかしさ半分半分で顔を真っ赤にして俯いた。
「そうだロスト、お前からあの時の事をレティちゃんに話してやったらどうだ?」
「あの時?」
「お前の10歳の誕生日での出来事だ」
「ああ……その話をしてたんですか」
落ち着きを取り戻したレティが顔を上げる。
「まだ聞く前に侍女さん達が来て中断してたんです、そんなに面白い事なんですか?」
「面白いかどうかは分からんが……確かゼノムの奴が誕生日の三日ぐらい前に誕生日ケーキは自分が用意すると言ってな……で当日ゼノムが用意したのは3メートルのケーキだったんだ」
「3メートル!? 凄いですね……」
「ああ、それで皆で分けて食べようとしたら『僕のケーキを食べていいのは兄上だけだ、他の奴は食べるな!』とゼノムが叫んだんだ」
ロストの話を聞いて蟻人達が懐かしそうに天井を見上げた。
「そうでしたね……」
「ゼノム様、あの時期が一番こじらせてたよねー」
「ああ、本当にな……今もそんなに変わらんけど」
「いくら俺の誕生日とは言え、俺一人で食べるわけにもいかないからな……それで父上と母上が説得して納得させたんだが、今度はラピスがケーキの半分を奪って喰い始め、それを見たゼノムが激怒してな」
「だってゼノムちんの愛が詰まったケーキだもん、他の人よりゼノムちんの愛を味わいたかったんだよ~♡」
ラピスが両手を頬に当て、身体を揺らした。
「ああー……あの時は大変だったよな……」
「ゼノム様マジギレだったからなアレ……」
「グレゴリア様がお二人を止めなかったら、誕生日会が無茶苦茶になるところだったよねー」
「お母さんが止めたんですか?」
「ああ、グーパンでな」
そう言うとグレゴリアは右手で握りこぶしを作り掲げると、ラピスが両手で頭を摩った。
「うう……あの時の事を思い出したら頭が痛くなってきたよー……」
「あ、あはは……でも、楽しい思い出ですね」
「うむ、今となっては懐かしくも楽しい思い出だ……そうだ、その来年の誕生日ではな……」
「ええーっ!?」
ロストの話を聞いてレティが驚いたり、楽しそうに笑ったりしながら、時間が過ぎて行った。
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