第41話

「勇者って、お母さんはラックさんみたいな方のお仲間だったんですか?」


「レティちゃん、勇者の一人と知り合いなのかい?」


「はい、兄様の元で岩を持ち上げたり、畑を耕しています」


「……手紙ではレティちゃんの事しか書いていなかったが……ロストめ……」





グレゴリアは額に手を置いてため息を吐いた。





「……まぁその話は後でロストに聞くとして、私は17の頃に勇者の仲間として魔王討伐の命を受けて旅立ったんだ」


「え……どうしてお父さんを倒そうとなされたんですか?」


「あの時の私は魔王を討伐することが世界平和のためだと信じていたからね……」


「だけどその当時の勇者が糞野郎でね……仲間全員女で編成するわ全員に手を出すわ、あまつさえ立ち寄った村の女性にも手を出そうとする好色野郎だったんだよ、そのくせまぁまぁ強いから厄介だったよ」


「ぜ、全員ってことはお母さんにも……?」


「ああ、手を出そうとしてきたから半殺しにしてやったがな……でそんな事ばかりしているせいで魔王城にたどり着くまで二年も掛かってしまったんだ……」





グレゴリアが当時の事を思い出して苦笑していた。





「そして私達は魔王城に突入し、四天王との激闘を繰り広げ何とか勝利し遂に魔王……ガルドと対峙したんだ」


「それがお父さんとお母さんの出会いだったんですね」


「ああ、そして私達はガルドと戦ったのだが……瞬く間に私を除いて他の仲間は全滅、それでも私は最後まで全身全霊で戦い続けた……しかし結局一撃しか喰らわせることが出来ず、私は敗北……死を覚悟したが、この男は私を生かしたのだ……何故だと思う?」





グレゴリアの問いにレティは首を傾げながら考えた。





「……何ででしょうか?」


「『美しかったから』だそうだ」


「美しかったから?」


「ああ、ガルドは私の戦う姿を美しいと感じ、その姿を気に入って私を生かし、傍に置きたいと言うのだ……あの時は『この男は何を言っているんだ?』と思ったよ」





グレゴリアがため息交じりに話していると、ガルドが口を開いた。





「……俺は本当に、君の戦う姿が心から美しいと思ったんだ、見惚れてしまうほどに……」


「見惚れたせいで私の一撃を喰らったと聞かされた時は本当に呆れたんたぞ……」


「見惚れただけではない……そして君の姿を見て今まで感じたことが無い胸の高鳴りを感じたんだ……グレゴリアと一緒に居ればその高鳴りをまた味わえると思ったんだ」


「ふふっ、兄様が私を妹にした時とそっくりですね」


「「「「確かに」」」」





レティの言葉に蟻人達も頷いた。





「ロストちんの突拍子もないところは小父様譲りだよねー♪」


「あまり似てほしくはなかったがな……でその後私はそのまま無理矢理魔王城に住むこととなったんだ、最初は隙をついて逃げるか寝首を掻いてやろうかと思ったんだが……ガルドと生活するうちにそんな気も失せてしまったよ……」





グレゴリアは微笑を浮かべる。





「それから二年後、胸の高鳴りの正体に気づいたガルドが私にプロポーズし、私達は結婚したわけだ」


「めでたしめでたしーって事だねー♪」


「……? プロポーズしてきたのはグレゴリアの方……っ!?」





何か言おうとしたガルドの左手をグレゴリアは強く抓った。





「これで私とガルドの馴れ初めは終わりだ、あまり面白くはなかっただろう?」


「いいえ、お母さんとお父さんの事が知れて面白いお話でした!」


「そうか、それなら良かったよ」





レティの笑顔にグレゴリアは凛々しい笑顔で答えた。





「失礼する」





ダイニングルームの扉が開き、ロストとグレンが入ってきた。





「兄様! 勝負はもう終わったんですか?」


「ああ、今回はかけっこで勝負したんだが、また引き分けになってしまってな……」


「早く決着をつけたいのだがな……」


「ロスト、それにグレン君、久しぶりだな」


「……元気だったか?」


「母上に父上、お久しぶりです、お元気そうで何よりです」


「キンとギンの鳴き声が聞こえたので城の者に聞き、こちらに居ると聞き急いできました」


「そうか、それはいいとして……臭いぞ」


「「え?」」





グレゴリアは鼻をつまんでロスト達を睨んだ。





「汗くさいと言っているんだ! 急いで来るのは良いが運動したのならば汗くらい流して来い!」


「す、すみません……ロスト、水浴びに行くぞ」


「分かった、では母上、すぐに戻るので」





そう言うとロスト達は大浴場へと向かって言った。





「全くロストは相変わらず細かい気配りができないようだな……また教育しなおしてやろうかな……」


「ははは……そうだお母さん、兄様の子供の頃のお話を聞かせてもらえませんか?」


「ロストの子供時代の話?」


「はい、私兄様の事をもっと知りたいんです」


「ふふ、かまわないよ、それじゃあ何歳の時から話そうか……」





レティは楽しそうに微笑みながら、ロストの子供時代の話を聞きづけた。

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