第40話
「うん、やはり竜泉饅頭は美味しいな」
「……土産として何個か買っておくか?」
「そうしよう、城の者達の分も用意しなければな」
ダイニングルームで竜泉饅頭を食べながら、土産の話をするグレゴリアとガルド。
「だったら私がヴィオラちゃんのお店に頼んで来ますよー」
「本当かい? ありがとうラピスちゃん、助かるよ」
「えへへー……」
「レティちゃん、竜泉饅頭は美味しいかい?」
グレゴリアが左隣で竜泉饅頭を食べているレティに話しかける。
「はい! 昨日も食べたけど、本当に美味しくて何個でも食べられそうです」
「本当に可愛いなぁレティちゃんは……」
笑顔で答えるレティを見て、グレゴリアは頬を綻ばせる。
「グレゴリア様、顔顔」
「だらしない事になってますよ」
「本当にレティ様の事が気に入ったんですねー」
「当たり前だろう、こんなに可愛い娘を気に入らないなどありえないからな」
「グレゴリア様が相変わらずで私達も安心ですよ」
「……」
グレゴリアと蟻人達のやりとりをレティが見つめる。
「やっぱり皆さん、お母さん達と話している時はとても嬉しそう……そう言えばさっき言っていた命の恩人って言うのはどういう事なんですか?」
「言葉通りの意味ですよ、私達はグレゴリア様とガルド様に救われたんです」
「救われた?」
「ええ……私達蟻人は女王を中心に雌が仕事をする種族なのです、我々雄の蟻人は子孫を残す以外の仕事は無いのです」
「そして冬の季節がやって来ると、我々雄は口減らしとして巣を追い出されてしまうんです」
「そんな……」
「仕方ない事です、何もしない我々など邪魔でしかないですから……」
「そして私達は、生き残るために野盗となり、集落や通りかかった馬車を襲って食料を手に入れたりしながら放浪してたよねー」
「人々には危害を加えたりはしなかったけどねー……でも今思い出しても悪い事をしてたよねー」
「そんなある日のことです……とある村を襲った時、グレゴリア様とガルド様に出会ったのです」
「それでお母さん達に諭されて、悪事から手を引いたんですね」
レティの言葉を聞いた蟻人達が俯いた。
「いえ……ボッコボコに叩きめされました……」
「あの時は本当に死ぬかと思った……」
「今思い出しても身震いするよねー」
それを聞いたグレゴリアが懐かしそうに眼を細めた。
「あの時はハイな時期だったからな、良く暴れたものだ……」
「あ、あはは……」
それを聞いたレティが苦笑いをしていた。
「それで半殺しにされた私達にグレゴリア様が言ったのです……『暇なら城で働かないか?』と」
「こうして私達は城で働き始めました、最初は色々大変でしたが……とても充実した生活でした」
「で一年後、ロスト様が生まれて私達が世話係になったんだよねー」
「グレゴリア様達に出会わなければ今の私達は無かった……私達にとって本当に恩人なんですよ」
「……皆さんも、私が兄様に助けられたように、お母さん達に助けられたんですね……」
「そう言う事です」
「私達はグレゴリア様とガルド様の事を敬愛しています」
蟻人達の言葉を聞いて、グレゴリアが照れくさそうに人差し指で頬を掻いた。
「まったく、そう言われたら照れるではないか……なぁガルド……ガルド?」
「……(もぐもぐ)」
グレゴリアが右隣にいるガルドを見ると、ガルドは口いっぱいになるまで竜泉饅頭を食べていた。
「ガルド!」
「っ!?」
グレゴリアに怒鳴られて驚いたガルドは竜泉饅頭を喉に詰まらせたらしく、右手で胸をドンドンと叩いた後、魔茶を一気に飲み干した。
「いい歳してリスのように口いっぱいに食べ物を頬張るな!」
「……すまない、美味しくてドンドン食べ進めてしまってな……」
「はぁっ……お前と言う奴は昔から……そもそもだな……」
グレゴリアに説教されて、ガルドがしゅんとしていた。
「お、お母さん、そんなに怒らなくてもいいんじゃないですか?」
「そうか? ……まぁレティちゃんに免じてこれぐらいで許してやるが、次からはそう言う食べ方は出来るだけ直しておけよ」
「……分かった」
「小父様は相変わらず小母さまに頭が上がらないねー」
「ははは……そう言えば、お父さんとお母さんはどうやって出会ったのですか?」
レティの言葉に、グレゴリアとガルドが顔を見合わせる。
「私とガルドは城で出会ったんだ、敵同士としてね」
「敵同士……?」
「ああ、今から24年前……私はベルパニアと言う国の1399人目の勇者の仲間だったんだ」
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