第38話

―翌日、ロスト達はダイニングルームで朝食を食べていた。





「兄様、この肉竜まんって食べ物美味しいですね!」


「うむ、中から出てくる肉汁がたまらんな」


「ハハハハハハハ! レティさんに気に入ってもらえてよかったよ!」





ロスト達が食べている肉竜まんは竜王国でよく食べられている料理の一つで、魔小麦粉といくつかの材料をこねて発酵させて作った皮に肉を包んで蒸す料理だ。





バリエーションが豊富で他には餡子を包んだ餡竜まん、魚介を包んだ海竜まんなどがある。





「はふはふ……少し熱いけど、どんどん食べ進んじゃいますね~♪」


「レティ、美味いのは分かるが、食べるのに夢中になり過ぎて口元が汚れてしまっているぞ、ほらこっちを向け」





そう言ってロストはナフキンでレティの口元を拭った。





「あ、ありがとうございます、兄様……」





レティははにかみながらロストにお礼を言った。





「……」





その光景を黒いオーラを漂わせて見つめるゼノム。


その顔はやつれている。





「どうしたのゼノムちん? 寝不足?」


「……ええ、貴女のせいでね……」


「私ー? ……もしかして一晩中私の事が頭に離れずに悶々と……!? もーゼノムちんったらー、言ってくれれば私が……♡」


「……」





額に青筋を浮かべつつ、身体をくねらせているラピスの事を無視して魔茶を飲むゼノムであった。
































朝食後、ロストはグレンとの勝負のために訓練場に向かい、レティと蟻人達は庭園で話をしていた。





「今日、兄様達のお父様とお母様が来られるんですよね……き、緊張してきました……」


「レティ様、そこまで緊張しなくても良いですよ」


「自然体で行けば問題ありませんよ」


「そうそう、リラックスしないとー」





蟻人達がレティを落ち着かせる。





「リラックス……深呼吸して……ありがとうございます、少し楽になりました……」


「それなら良かったです」


「でもやっぱり心配です……兄様のお父様とお母様に気に入られなかったらどうしよう……」


「いやいや、そんなこと絶対あり得ませんって」


「だな、むしろ絶対気に入られて可愛がられるよな」


「奥方様は可愛いものに目が無いからねー」





その言葉に他の蟻人達は全員揃って頷いた。





「皆さん、兄様のお父様とお母様の事を話していると楽しそうですね」





その言葉を聞いた蟻人達は顔を見合わせて笑った。





「楽しそうですか、確かにそうですね」


「あの方達は私達の命の恩人でもありますから……」


「命の恩人? それってどういう……」





「ガルォォォォォォォォォォォ!!」


「キュルォォォォォォォォォォン!!」








レティが首を傾げて質問しようとその時、空から竜の鳴き声が聴こえた。





レティ達が上を見上げると、金色の竜と白銀の竜が一緒に空を飛び、中庭に降りようとしていた。





「あれはキンとギン! と言う事は……」


「ああ、来たようだな」


「来たって……それじゃあ、あの竜達に兄様達のお父様とお母様が!?」


「その通りですよー」


「レティ様、参りましょう」





蟻人達に連れられて、レティは中庭へと向かった。


























中庭に降りた金色の竜と白銀の竜の背中から人が降りてくる。





一人は黒いドレスを着た白銀の三つ編み髪の女性。


もう一人は身長二メートル程の黒髪オールバックの強面の男性だ。





「ご苦労だったなキン、ギン、ゆっくりと休んでくれ」


「ガルゥゥゥゥ♪」


「キュォォォォン♪」





女性に撫でられて喜ぶ二頭の竜。この二匹は夫婦めおと竜のキンとギン、クロとシロの親竜である。





「ガルド様ー、グレゴリア様ー!」





蟻人とレティが中庭に到着し、二人の元に向かう。





「おお、お前達か! 久しぶりだな、元気にしていたか?」


「はい、勿論です」


「お二人も元気そうで何よりです」


「会えて嬉しいですよー♪」


「そうかそうか、私もお前達に会えて嬉しいぞ、ところでロスト達はどこに居る?」


「ロスト様はグレン様と勝負の最中です、ゼノム様は多分自室で休まれているのかと……」


「そうか……ん?」





女性がレティを見た。





「あ、あの、初めまして……私……」


「おお、この子がそうなのか?」


「はい、この方がレティ様です」





蟻人の言葉を聞き、女性がレティに近づく。





「初めましてレティちゃん、私はロストとゼノムの母親でグレゴリア・モナーク、そしてあそこの大男が夫のガルド・モナークだ」





そう言うとグレゴリアは凛々しく微笑んだ。

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