第37話

―夕食後、ロスト達は魔茶を飲みながら世間話をしていた。





「そういえばゼノム君、父君と母君はまだ来ていないようだが、何か問題でもあったのかね?」


「いえ、問題と言う程ではありませんが……」


「確かに、てっきりお前と共に来ると思っていたが……父上達は何をしているんだ?」





ロストが聞くと、ゼノムがため息交じりに話し始めた。





「式に出席するときのドレスを父上と選んでいたのですが、またいつものようにイチャつき始めて選ぶのが遅れているそうです……まぁ明日には到着すると思いますよ」


「ハハハハハハハ! 相変わらずのようでなによりだよ」


「兄様とゼノム様のお父様とお母様……一体どんな方達なんですか?」





レティがロストに聞く。





「ん? どんなと言われてもな……どこにでもいるような普通の親だぞ?」


「いやいやロスト様、全然普通じゃないですって」


「あの方たちが普通なら世界中の親は化け物だらけになってしまいますよ」


「まぁ、あの方達の子共であるロスト様から見れば普通なんだろうけどねー」


「普通……普通の親……?」


「レティ? どうしたんだ、何処か具合が悪いのか?」





レティが下を向いて小さい声で呟く姿を見て心配するロスト。





「あっ兄様、大丈夫です、ちょっと考えてただけです」





そう言うとレティはロストに笑顔を見せた。





「……」


「さて、私達はそろそろ部屋に戻るとするよ、ロスト君たちも部屋でゆっくりと休んでくれ」


「皆さん、おやすみなさいねー」





バジュラ王とルピア王妃はダイニングルームから出ていく。





「俺もそろそろ戻るとするか……ロスト、明日こそ決着をつけるからな」


「ああ、望むところだ」





ロストの返事を聞いて笑みを浮かべた後、部屋を出る。





「それじゃあゼノムちん、私達も行こうかー♪」


「は? 何故私が貴女と一緒に行かなければならないんですか?」


「私の部屋で恋人同士のお話をしたりイチャつくためだよー」





ラピスは両手を頬に当て、身体をくねらせる。





「お断りです、私はこれから兄上と兄弟水入らずの語らいをぐほぅ!?」





ラピスがゼノムの首根っこを掴んだ。





「も~照れ屋なんだから~でも素直になれないゼノムちんもス・テ・キ♡」


「手、手を離せこの……わ、私は兄上と……兄上と……」





ラピスはそのままゼノムを引きづりながら出ていった。





「兄上ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……………」





ゼノムの叫びが廊下に響き渡っていた。





「ゼノム様、大丈夫か?」


「まぁ大丈夫なんじゃないか?」


「いつものことだしねー」


「うむ、あの二人は相変わらず仲が良いな」





そう言いながら、ロストは魔茶をすすった。









































―一時間後、ロストは部屋でソファに座りながら、くつろいでいると、誰かがドアをノックした。





「誰だ?」


「私です、兄様」


「レティか、開いているから入っていいぞ」





ドアを開けて寝間着姿のレティが部屋に入って来た。





「こんな夜中にどうしたんだ? まぁとりあえずこっちに来て座れ」


「はい、兄様」





ロストに手招きされたレティは、ロストの隣に座った。





「あ、兄様は何をされてたんですか?」


「ん? ちょっと月を見ていたんだ、ほら」





ロストは夜空に浮かぶ満月を指差した。





「とても綺麗な満月ですね」


「だろ? 何も考えずに月を眺めるのも、たまには良いと思ってな……」





ロストとレティは静かに月を眺める。





「知っているかレティ、月にはウサギが居るらしいぞ」


「ウサギがですか!?」


「ああ、ウサギ達は月でいつも餅つきをしたり、一緒に遊んだりして毎日楽しく暮らしていると、子共の頃に母上から良く教えられたものだ」


「お母様から……そうなんですか……」


「……」





ロストがレティを見つめる。





「あ、兄様?」


「レティ、お前今日何かあったのか?」


「え?」


「いつもと少しだけ違うと言うか……夕食後の時の笑顔も何かおかしかったと言うか……ううむ何と言ったらいいのか」


「……」





悩むロストの姿を見て、レティは俯きながら話し始めた。





「あの時、兄様は言いましたよね? 自分のお父様とお母様の事をどこにでもいる普通の親だって」


「ああ、それがどうしたのか?」


「私には、父親も母親もいませんでした」





レティの言葉を聞いて、ロストは目を細めた。





「父親や母親と言うモノについての知識はあったんですけど、親がいない私には分からなかったんです、普通の親と言うモノが……」


「……そうか」


「それと今日、ヴィオラさんの家にも行った時、ヴィオラさんの家で働いている方達と会ったんです」


「あいつらか、気の良い奴らだったろ」


「はい、とても元気で面白い方達でした、ですけど……」





レティの表情が暗くなる。





「あの方たちの一人が私を見て言ったんです、天使みたいだって……」


「ほお、あいつらも見る目があるな、レティは本当に可愛いからな」


「……そうですかね」


「レティ?」


「……私みたいなのがそんな素晴らしいモノのなわけがありません、私は……あまりにも穢れているんだから……」


「……」





レティの手が震え、瞳から光が消えて行く。





「こんな……こんな私なんて……本来ならあの時死んで」





「この大馬鹿者っ!!」





ロストが大声で怒鳴り、レティはビクッと身体を震わせた。





「こんな自分がだと? では聞くがお前は誰だ!」


「え、あ、わ、私は……」


「お前は俺の妹、レティ・モナークだ! そうだろう!」


「は、はい! 私は兄様の妹です!」





レティがそう叫ぶと、ロストは微笑を浮かべレティの背中に手を回して、自分の傍に抱き寄せた。





「そうだ、お前は俺の妹だ」


「あ……」


「過去に何かあったのか俺は聞いていないし、今更聞く気も無い、俺にとってお前の過去なんてどうでもいいんだ」


「兄、様……」


「俺にとってお前は俺を笑顔で癒してくれる大事な妹、レティ・モナークなんだから……」





ロストはレティの頭を優しく撫でると、レティの瞳に光が戻り、涙を流した。





「兄様……兄様ぁ……」


「さっきは怒鳴ってすまなかったな、怖かっただろう」


「大丈夫……大丈夫です……」





レティは両手で涙を拭う。





「兄様……私、兄様と出会えたことを本当に感謝しています……」


「俺もだよレティ、お前と出会えて良かった……これからも何者でもない、ただの俺の妹としてその笑顔で俺を癒してくれよ」


「はい、兄様!」





ロストの言葉にレティはその日一番の笑顔で答えた。

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