第36話
ロストとグレンは、浴衣を着て廊下を歩いていた。
「むぅ……結局今回も引き分けだったな……」
「ああ、ラケットが耐えられずに砕けてしまうとはな……良い勝負だったと言うのに……」
大浴場から出た後、ロストとグレンは魔卓球と言う遊戯で勝負を行った。
ちなみに魔卓球とは木製の板で出来たラケットと玉を使って行われる遊戯で、古来は上流階級の者達の間で行われていたとされている。
「ロスト、必ず結婚するまでには決着を着けるからな!」
「望むところだ!」
「兄様ー」
ロストとグレンが火花を散らしていると、後ろから浴衣姿のレティとラピスが歩いてきた。
「おおレティ、大浴場はどうだった?」
「はい、とても広くて、凄かったです! ……でもラピス様達が、その……」
レティが大浴場での事を思い出して、頬を赤らめて俯いた。
「? どうしたんだレティ?」
「ラピス……お前またレティさんに迷惑を掛けたのか……!」
「あ、アハハー、ちょっとやり過ぎちゃって……で、でも一緒に居たお母さんだってノリノリだったんだよー!」
「母上まで……まったくあの人は……」
グレンは大きなため息を吐いた。
「それにしても……」
ロストがレティを見つめる。
「兄様? 私何か変ですか?」
「いや、浴衣姿だと普段よりも大人びた感じに見えると思ってな……似合っているぞ」
「あ、兄様……ありがとうございます」
ロストに褒められて、レティは顔を赤くしながら笑顔で答えた。
「ヒューヒュー! ロストちんとレティちんラブラブだねー♪」
「茶化すんじゃない」
「お兄ちゃんもあんな風にヴィオラちゃんに自然に言えたらいいのにねー」
「よ、余計な気遣いは無用だ!」
「ほげぇっ!?」
グレンはラピスの頭にチョップを喰らわせた。
「グレン様ラピス様、ここに居られましたか」
ロスト達が話す中、使用人がグレンの元にやって来た。
「お食事の用意が出来ましたのでお呼びに参りました」
「ご苦労、ロスト、レティさん、食事が出来たらしいから行こう」
「分かった」
「竜王国のお食事……一体どんな料理何でしょうか?」
「むふふー♪ レティちん美味し過ぎて頬っぺた落ちるかもしれないよー?」
「そんなに美味しいんですか!? 楽しみです」
ロスト達はダイニングルームへと向かって歩いて行った。
「とっても広いですねー……家のリビングの何倍あるんでしょうか……」
ダイニングルームに着くと、レティはダイニングルームを見渡していた。
広い部屋の真ん中には大きなダイニングテーブルが置かれていて、すでにバジュラ王とルピア王妃、ゼノムとロウズ、蟻人達が座って待っていた
「ハハハハハハハ! 待っていたよ、何処でも好きに座ってくれたまえ」
バジュラ王の言葉を聞き、ロスト達それぞれ椅子に座る。
「レティ、俺の隣に座れ」
「はい」
ロストの隣にレティの隣に蟻人達と言う構成である。
「何だかいつもの座り方の横一列バージョンだな」
「まぁ一番安定しているのポジションではあるな」
「慣れた座り順が一番だよー」
「料理、楽しみだなレティ」
「はい、兄様」
ロストの言葉にレティは笑顔で返す。
そんな光景を妬みながら正面の席で見つめるゼノムであった。
「やっぱり恋人同士は隣同士じゃないとねー♪」
「……兄上と小娘は恋人同士ではないですよ」
隣にいるラピスの言葉を聞き、額に青筋を浮かべるゼノム。
「私達の事を言ってるんだよーゼノムちん♪」
「……私とあなたは恋人ではないですよ」
「ごめんごめーん、婚約者だったよねー♡」
「はぁ……」
ため息を吐くゼノム。
「ハハハハハハハ! 相変わらず仲が良いみたいだな! ゼノム君、君が良ければいつでもラピスを妻にしてもかまわんよ」
「失礼ですがバジュラ王、私はこいつと結婚する気は」
「ありがとーお父さん! 私達絶対幸せになるねー!」
そう言って抱き着こうとするラピスの顔面を手で押さえるゼノム。
そしてその様子を胃を痛くしながら見ているロウズであった。
「お待たせしました、お料理をお持ちしました」
数分後、使用人たちが料理を持って入って来て、一つ一つロスト達のテーブルに置いていく。
「何ですかこれ? 円形の容器?」
テーブルに置かれた容器を見て、レティが首を傾げるのを見て蟻人達が説明する。
「レティ様、これは蒸籠せいろと言って食材を蒸すのに使われる物です」
「これで食材を? そうなんですか……」
「ハハハハハハハ! これが我が竜王国の名物料理、竜泉蒸しだ」
使用人たちが蒸籠を開けると、中には適度な大きさに切られた色彩豊かな野菜と魚介類が入っていた。
「うわ~……美味しそう……」
「この皿にお好きな物を取ってお食べください」
「さぁ、遠慮なく食べてくれたまえ!」
「では、いただきます」
バジュラ王の言葉を聞き、ロスト達が食事を始める。
「ん~♪ このお野菜、甘みがあって美味しいです♪」
「レティちんが気に入ってくれたみたいでなによりだよー♪」
「うむ、いつ食べても美味いな、竜泉蒸しは」
「温泉が湧く地でしか出来ない調理法というのが良いですね」
「本当に美味しいよねー」
時が流れ、皆が料理を食べ終えると、使用人たちがデザートを持ってきた。
「これって、プリンですよね?」
「ただのプリンじゃないよレティちん、これは温泉の蒸気で蒸した竜泉プリンだよー♪」
「竜泉プリン……いただきます」
レティが竜泉プリンをスプーンですくい、口に入れる。
「……!」
するとレティは目を大きく開き、瞳を輝かせた。
「美味しい! すっごく美味しいです! 上のカラメルがほろ苦いけど、それが一層プリンの甘さを際立たせて……ん~……幸せな気分になります~……」
「うむ、いつにも増してレティの笑顔が可愛らしいな……」
ロストがレティの幸せそうな表情と自分のプリンを交互に見る。
「そうだ! レティ、こっちを向け」
「?」
ロストの言葉を聞き、レティがロストの方に顔を向ける。
するとロストは自分のプリンをスプーンですくい、レティの顔の前に出した。
「ほら、あーん」
「あ、兄様!?」
レティはロストのやろうとしていることを理解して、顔を真っ赤にする。
「レティの幸せそうな表情を見たくてな、ほら、口を開けろ」
「で、でもこんな多くの人が見ている場で……はしたないんじゃ……」
レティが周囲の目を気にしていると。
「ハハハハハハハハハハ! 本当に仲が良いみたいだなロスト君たちは! ルピア、私にもプリンを食べさせてくれないか?」
「もー、しょうがないわねバジュラはー……はい、あーん♡」
ロスト達を見て自分達もあーんをして食べさせてもらうバジュラ王。
「父上……」
そんなバジュラ王を見てグレンはため息を吐いた。
「バジュラ王も気にしていないから良いだろう、ほら、あーん」
「あ、あ、あーん……」
レティは顔を真っ赤にしながら口を開き、プリンを食べた。
「美味いか?」
「は、はい……美味しいです」
「そうかそうか、ほらもう一口、あーん」
「あーん……」
レティは嬉し恥ずかしな表情で、ロストにプリンを食べさせてもらい続ける。
兄上にあーんしただけに留まらず、あーんしてもらえるとは……羨ましぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……
……そう思いながらゼノムは下唇を嚙みしめ、周囲にどす黒いオーラを漂わせていた。
「もーゼノムちん羨ましいなら言えばいいのにー、ほら食べさせてあげるよー♪」
「……いらん」
下唇を嚙みしめすぎて血が出始めているゼノムの隣で、ロウズの胃痛が悪化していくのだった。
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