第32話

「うわ~! とても賑やかですね~♪」





温泉街に着くと、レティは目を輝かせ、辺りを見渡していた。





「商人とか観光客が毎日のようにこの温泉街を訪れるからね~♪ 活気があふれているのは当然だよー♪」





「うふふふ、レティちゃんは無邪気で可愛いらしいなぁ♪ ここを真っ直ぐ行ったら家やさかい、行こかぁ」





ヴィオラの案内で温泉街を進んで行く。





「ここの人達はヴィオラさんに似た恰好の方が多いですね」





「あれは浴衣って言うんだよー、湯治に行く人は大体浴衣を着てるよー」





「温泉……蟻人さん達から話は聞きましたけど……普通のお風呂とは何が違うんですか?」





「全然違うよー! 温泉には色々な効能があるんだよー、肩こりとか腰痛、発育が良くなったりお肌がすべすべになる温泉もあるんだよー」





「成程……そんな効果があるんですね」





「そうそう! レティちんも美容にいい温泉に入ったらー? 今よりもさらに綺麗になったら、ロストちんレティちんに見惚れちゃうかもよー?」





「も、もうラピス様、からかわないでくださいよ……」





「むふふー♪ 真っ赤になってるレティちん可愛いー♪」





ラピスはレティに抱き着き、頬擦りをした。





「うふふふ、二人とも本当に仲良しさんやねぇ……あ、見えてきたわぁ」





ヴィオラが前を指差すと、前方に大きな建物が見えた。





「『竜泉饅頭フォルテ屋』……大きいお家ですねー……」





「それほどでもないよぉ、さぁ入って入って」





ヴィオラは引き戸を開け中へと入る、それに続いてレティとラピスが中へと入る。





「ただいまぁ」





「いらっしゃいませ……あらお嬢様、グレン様の元に行かれたのではなかったのですか?」





「うふふふ、竜泉饅頭を御馳走したい子がいてなぁ、ここに連れてきたんよぉ」





「あらラピス様も一緒に……あちらの方は?」





「うふふふ、あの子はロストはんの妹はんやぁ」





「まぁまぁ! この方が噂の!? 噂通り可愛らしい方ですねぇ」





「あの、噂とは……?」





噂と言う言葉に疑問を持ったレティに、ラピスが答えた。





「いやー、実は私がお父さん達やヴィオラちゃん達にレティちんの事を話したら結構話題になっちゃってー」





「そ、そうなんですか?」





「まぁ、話題になっても当然ってくらい可愛いのは事実だけどね♪」





「は、はぁ……」





「二人とも、そんな所で話しとらんで、早う上がり」





「はーい、おじゃましまーす♪」





「おじゃまします」





レティ達は従業員の女性に部屋まで案内される。





案内された部屋は15畳ほどの和室だった。





「では直ぐに竜泉饅頭をお持ちしますので、くつろいでいて下さいませ」





そう言って従業員の女性は襖を閉めた。





「……」





レティは物珍しそうに辺りを見渡し、畳に触れる。





「どうしたのレティちん?」





「あっいえその……変わった床だなと思いまして……」





「レティはんは畳を知らないんやったなぁ、そのまま座っても大丈夫やでぇ」





「は、はい、では失礼します」





「ははは、レティちん、正座しなくても普通に座ればいいってー」





「い、いえ、この方が落ち着きますので……」





「ふふふ……まぁすぐになれると思うでぇ……ん?」





「おい、見えるか?」


「ああ、だけど後ろ姿しか見えねぇ……」


「ちきしょう、せめて反対側に座ってりゃあなぁ……」


「どんな顔してんだぁ?」





レティの後ろの襖がちょっとだけ開いていて、そこからいくつかの声が聞こえている事にヴィオラは気付いた。





「はぁっ……まったく……」





ヴィオラは立ち上がり、襖を勢いよく開けた!





「おわぁ!?」


「ちょっ、バランスが……」


「うわわわわ!?」


「ぐへぇ!?」





すると灰色の鱗の厳つい竜人の男達が部屋になだれ込んできた。





「きゃあっ!?」





「なになにー!?」





「あんたら……うちらの部屋を覗き見とか何しとるんやぁ……」





「お、お嬢っ!?」





「こ、これは違うんです!」





「やましい思いは決してなくて……その……」





「……(にこっ♪)」





ヴィオラは笑顔で微笑むが、その身体からとてつもない威圧感が発せられていた。





「「「「も、申し訳ございやせんでした!」」」」





4人の竜人達が土下座をしてヴィオラに謝った。





「まったくもう、何でこんなことしたん?」





「いや、それがさっきロストさんの妹さんがここに居ると聞いて……」





「それで噂通りの方なのかどうかを……」





「確かめたくて……」





「襖の隙間から妹さんを見ていました」





「はぁっ……だそうやでレティちゃん? こいつらの処分どうする?」





「ええっ!? しょっ、処分って……そんな私は別に気にしてないですから……許してあげてください」





「……ふふっ、レティちゃんは優しい子やなぁ……だそうやで?」





「「「「レティさん、ありがとうございやす!」」」」





「いえいえ……それよりも皆さん、頭を上げてください」





レティの言葉を聞き、竜人達は頭を上げると、全員が硬直した。





「? どうかしたんですか?」





「な、なんて可愛らしい方なんだ!」





「噂通り、いや噂以上だ!」





「ええ!?」





竜人達の言葉を聞いて、レティが頬を赤くする。





「こんな可愛らしい方が妹なんて、ロストさんは幸せ者だな!」





「ああ、全くだ!」





「そ、そんな……い、言い過ぎですよぉ……」





褒め千切られ、レティは照れて顔を隠した。





「お待たせしました、竜泉饅頭です……って何があったんですか?」





竜泉饅頭を持ってきた従業員が部屋の状況に困惑している。





「ちょっとあってねーそんな事よりもレティちん! 竜泉饅頭が来たよー! 早く食べよー♪」





「あ、はいわかりました……そうだ、良ければ皆さんも一緒に食べませんか? 皆で食べた方が美味しいですよ」





「い、いいんですかい?」





「何て優しい方だ……」





「俺達を罰するどころか、一緒に竜泉饅頭を食べようだなんて……」





「天使だ……」





竜人の言葉を聞いたレティの動きが一瞬止まった。





「レティちん? どうかした?」





「? 何がですか? さぁ皆さん早く食べましょう」





しかし直ぐにいつものように笑顔になり、皆で竜泉饅頭を食べ始めた。





「ん~♪ ふっくらとして美味しいですね~♪」





「ふふふふ♪ 気に入ってくれて何よりやわぁ」





レティは至福の表情で竜泉饅頭を食べて行く。





「食べる姿も可愛らしい……」





「ああ……」





「見てるだけで癒されるな……」





「俺、惚れちまったよ……」





「言っとくけど、レティちんに手を出したらロストちんに殺されると思うけどその覚悟はあるのー?」





「「「「そ、それはちょっと……」」」」





「本当に美味しい……兄様と一緒に食べたいなぁ……」





そう思いながらレティは竜泉饅頭を食べ進めて行った。


















































―一方その頃、竜王城、中庭の一角にある建物。





その中の土俵にロストとグレンが褌姿で対峙し、そ真ん中に行司の格好をした蟻人がいた。





そして土俵の周囲には無数の兵士達が観戦していた。





その中には国王バジュラ・ザークの姿もあった。





「今日こそ勝たせてもらうぞ、ロスト!」





「いや、俺が勝たせてもらう!」





「では行きますよー……はっきょい……残った!」





「おらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」





「どっせいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」





「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」





ロストとグレンがぶつかり合うと同時に、衝撃波が発生! 蟻人は土俵から吹き飛ばされ、壁に叩き付けられた。





ロストとグレンの相撲を見て、兵士達が歓声を上げる。





「凄い! 流石はグレン様とロスト様だ!」





「頑張れグレン様ー!」





「ロスト様ー! 頑張ってくださいー!」





『グレン! グレン! グレン! グレン! グレン!』





『ロスト! ロスト! ロスト! ロスト! ロスト!』





グレンコールとロストコールが建物内に響き渡る。





「はははははははははははは! 二人とも素晴らしい戦いだ!」





二人の相撲を見てバジュラ・ザークは楽しそうに笑っていた。





「見事だグレン! だが……」





「流石だなロスト! しかし……」





「「勝つのは、この俺だ!!」」





グレンとロストの戦いは、一時間経っても決着が着かなかったと言う……

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