第25話

ゼノムの来訪から三週間が過ぎようとしていた。


お昼過ぎのロストの家の裏庭では、ラックが二メートルはある大岩の前に立っていた。


「行きます……うおおおおおおおおおおおおお!!」


ラックは気合いを入れ、裏庭に置かれていた二メートルはある大岩を持ちあげた。


「し、師匠! 持ち上げられました!」


「うむ、良い調子だ、これならあと少しで最初の日に持ち上げられなかったあの岩も持ち上げられるようになるだろう」


「ほ、本当ですか!?」


「本当だ、それではいつも通り一時間持ち上げ続けていろ、いいな?」


「分かりました!」


この三週間、ロストの修行によってラックは毎日一メートルの大岩を持ちあげ続けていた。


その結果、一メートルの岩を軽々と持ち上げられる筋力を手に入れたのである。


そして今日、ロストはラックに今までの倍の岩を持ちあげさせるように言い、ラックは見事に大岩を持ちあげることに成功したのであった。


「くっ、やはり重い……だが俺なら出来るはずだ! この修行をやり遂げて、俺は師匠に近づくんだぁぁぁぁっ!!」


自らを鼓舞し、岩を持ち続けるラックを、リリィ、ティア、シキが遠くから見守っていた。


「ラック、今日も頑張ってるわね」


「ですね、でも……」


「……本来の目的、絶対忘れている……」


「そうね……」


「ですよね……」


リリィ達はため息を吐いた。


ラック達の目的、それは魔王を倒す事である。


しかしロストの弟子になり、修行を続けている内にラックは最初から尊敬していたロストの事を更に尊敬するようになった。


前にリリィがラックに本来の目的の事を聞いた時は、「当たり前だろ! 俺達は魔王話倒すためにここまで来たんんじゃないか!」と言っていたが、最近では、「もっと心身共に鍛えて、師匠に近づくんだ!」と言うようになった。


「ロストさんに近づくとか言ってたけど……あの人の強さに近づくのに何年かかるのかしらね……」


「ですね……あとこの調子で鍛え続けたらラックさん、どうなっちゃうんでしょうね?」


「……筋骨隆々になるのは間違いない……」


三人はムキムキマッチョになったラックの姿を想像した。


「な、何か考えたらちょっと悪寒がしてきました……」


「……私も……」


「……やだ、ちょっとタイプかも」


「「えっ」」


ムキムキマッチョになったラックを想像して頬を染めるリリィに若干引き気味のティアとシキであった。












「兄様、魔茶です」


「すまない……うむ、美味い! やはりレティの淹れた魔茶は最高だな」


「ふふっ、ありがとうございます兄様」


ロストとレティはいつものように庭で日向ぼっこをしながら、魔茶とお菓子を食べていた。


「ラックさん、とても頑張っているみたいですね」


「ああ、あいつは中々筋が良いからな、この調子なら一月もすれば5メートルの岩ぐらいは持ち上げられるだろうな」


「ふふっ……」


「? どうしたレティ、急に笑って?」


「いえ、兄様、ラックさん達がここに来てからより笑顔になる事が多くなったから……」


「そうか? まぁ確かに面白い事が増えたとは思っていたがな……だがなレティ、俺を一番笑顔にさせることが出来、癒すことが出来るのはお前だぞ?」


「あ、兄様……ありがとうございます」


ロストの言葉に、レティは顔を赤くして微笑んだ。


「うむ、やはりレティの笑顔を見ると癒されるな……うむ、この煎餅も美味い!」




―こうして、今日もロストはレティの笑顔を見て癒されるのであった。

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