第24話

「き、キス!? 私が兄様に!?」


ゼノムの言葉を聞いてレティは顔が真っ赤に染まった。


そんなレティを見てゼノムは勝ち誇ったように笑っている。


「ふん、残念だが小娘、お前が兄上にキスする事はない……なぜなら兄上はこの私のキスによって目覚めるのだからな!」


「……あの、ゼノム様? 何故ゼノム様はそんなに自信満々何ですか?」


蟻人が自身満々のゼノムに質問した。


「ふっ……愚問だな、だが答えてやろう、お前達、私を見て心が安らいでいるか?」


「え? ……そう言えば何か心がいつもより落ち着いている気が……」


「本当だねー」


「どういう事だ? ゼノム様は一体何を……」


「ふふふふ……私は性転換の薬以外にもう一つの薬を飲んできたのだ……私を視認した者は全員癒される効果がある薬をな!」


「な、成程……しかし何故そのような効果の薬を?」


「分からんか? 兄上はあの小娘に何を求めた?」


「求めたモノ? ……癒し、ですか?」


「そう! これで私は兄上の求めていた癒しを手に入れた! さらに女として完璧なこの肉体! そして料理や掃除などの腕前も特訓によって最大限まで磨き上げた! もはやこの小娘に負ける要素は無い!」


「……はぁ、そうですか」


「ゼノム様が壊れた……」


「元からじゃないのー?」


蟻人達が小声で話していると、ゼノムは声高らかに宣言した。


「そして! 私のキスで兄上を目覚めさせた暁には……私は兄上と結婚する!」


『け、結婚!?』


ゼノムの宣言にその場に居たレティと三人娘が驚きの声を上げた。


「ああー……ゼノム様、遂にこのレベルまで来ちゃったかー……」


「薄々分かってはいたけどねー……」


「まっ、待ってください! いくら女性になったとはいえ、兄弟で結婚はできないはずでは?」


レティの言葉を聞いて、蟻人がレティに説明し始めた。


「レティ様、そのですね……ロスト様やゼノム様達の種族は基本異性であれば兄妹でも結婚しても良いのです……」


「実際昔に兄妹同士での結婚があったみたいですよー」


「うわー……」


「ま、魔族って凄いんですね……」


「だね……」


蟻人達の説明を聞いて、三人娘は若干引いていた。


「ははははは! では早速、私の愛のキスで兄上を目覚めさせるとしよう」


そう言ってゼノムは地面で眠っているロストの元へ向かう。


「だ……駄目です!」


レティがロストの元へ向かうゼノムを阻んだ。


「何だ小娘? 私の邪魔をするのか?」


ゼノムは全身からどす黒いオーラを発生させ、レティを威圧した。


「っ……はい! 邪魔します!」


「ほう……ならばお前が兄上にキスをすると言うのか?」


「そ、それは……」


ゼノムの言葉を聞いて、レティの顔が真っ赤になった。


「ふん、兄上とのキスを恥ずかしがるようでは、やはりお前に兄上の妹は荷が重かったようだな……私は違う! 兄上にキスできると考えただけで私は……私はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


興奮しすぎたゼノムの鼻から、大量の鼻血が噴き出した。


「ちょっ、ゼノム様! 鼻血! 鼻血が出てますって!」


「あれって普通に致死量だよな……」


「ゼノム様なら平気なんじゃないー?」


「ふふふ……さぁどけ小娘! そこで私が兄上にキスする所を指をくわえて見ているんだな!」


ゼノムはレティを押しのけ、ロストの身体を起こした。


「兄上、今目を覚まさせてあげますからね……」


ゼノムの顔がロストに近づけ、キスしようとする。


「だ……駄目ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


それを見ていたレティが叫びを上げたその時。


―ゴキャリッ!!


空から何者かがゼノム目掛けて飛来し、ゼノムの頭を蹴った!


直撃を喰らったゼノムの首は曲がってはいけない方向に曲がり、ゼノムはそのまま地面に倒れた。


「……え、え?」


突然の事にレティ唖然としていると、蟻人達と三人娘が声を上げた。


『ら、ラピス様!?』


『だ、誰!?』


そう、飛来してきたのは竜王国ザークの第一王女、ラピス・ザークであった。


ラピスはゼノムの顔を掴み、ゼノムの首を元に戻した。


そして懐から禍々しい色の液体が入った瓶を取り出し、蓋を開けてゼノムの口に流し込むと、ゼノムの身体が発光し始めた。


そして発光が終わると、ゼノムは元の姿に戻っていた。


「もー! ゼノムちんったらー♪ 婚約者の私がいるのに女になってロストちんにキスしようとするなんて駄目だよー♪」


ラピスはいつもと同じで笑顔であったが、ラピスの瞳は笑っていなかった。


「あ、あの……ラピスさん?」


「あ、レティちん、ゼノムちんが迷惑かけちゃってごめんねー♪ 私はこのままゼノムちんを連れて帰るから、レティちんはロストちんを目覚めさせてねー♪」


「め、目覚めさせるってつまり……」


レティはロストにキスする自分の姿を想像して顔を真っ赤に染めた。


「レティちん、ファイトだよ♪」


ラピスは親指をグッと立てた後、ゼノムを抱えて飛んで行った。


「わ、私が兄様を……は、恥ずかしいけど……兄様を起こすためにやらなくちゃ!」


レティはロストの元に行き、キスをするために顔を近づける。


「兄様……」


そして唇と唇が触れ合う数センチに程になったその時。


「……ん?」


「……え?」


ロストの瞼が開き、レティと目が合った。


そして数秒間の静寂の後。


「ひゃあああああああああああああ!?」


レティが素っ頓狂な悲鳴を上げてロストから離れた。


「ううん……あれ? 俺は寝てしまっていたのか?」


「ろ、ロスト様が目覚めた!?」


「何故だ? キスをしないと目覚めないはずなんじゃ……」


「あー! そう言えばロスト様って毒とに強い体質だったよねー?」


「ああ、成程……あの永久の契りも言ってしまえば一種の毒物、毒への耐性が強いロスト様は眠り病を発症せず、ただの睡眠状態にしかできなかったと言う事か?」


「多分ねー」


「無茶苦茶だが……ロスト様ならあり得るな……」


「ん? ゼノムが居なくなっているが……何かあったのか?」


「ええ、色々と……」


「? よく分からんが……寝ていたら小腹が空いたな……レティ、何か食べる物は無いか?」


「え? あ、はい、魔木苺のタルトがあります」


「それは美味そうだな、それじゃあ早速食べに行くとするか、行くぞレティ」


「はい、兄様、皆さんの分もあるので一緒に食べましょう」


「そうですが? ではいただきますね」


「楽しみだねー」


そう言うとロストはレティと共に家に戻り、蟻人達と三人娘も続いた。













―その頃、裏庭では。


「し、師匠……まだですかぁ……腕の感覚が無くなって来たんですけどぉ……」


ラックがずっと岩を持ちあげ続けていたのだが、ロストがその事を思い出すまで3時間程かかった。

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