第22話
―翌日、魔王城、執務室。
「……あの、ゼノム様? その瓶は一体……」
ロウズは執務机に置かれている禍々しい色の液体が入っている瓶を見て、若干引いていた。
「これは知り合いの薬師に頼んで調合してもらった薬です」
「薬!? これがですか!? ……私には毒にしか見えないのですが……」
「……ロウズ、私は遂に決心したのですよ」
「……何をですか?」
ロウズはとても嫌な予感を感じていた。
「兄上の元にいる小娘に、誰が一番兄上の事を大事に想い、想われているかを……あの小娘に思い知らしめてやると! だから私は……今の私を捨てる!」
「は、はい? 今の私を捨てるって……ゼノム様!?」
ゼノムは瓶に入った薬を飲み始めた。
「……ぷはぁっ! ……うっ!? ぐぅぅぅぅぅ……!」
ゼノムが薬を飲み干した瞬間、ゼノムの全身が発光し始めた!
「こ、これは一体……!?」
「ふふふふふ……これで私はあの小娘などには絶対に負けん! 待っていてください兄上、貴方のゼノムが今参ります……ふふふふ……はははははははははは!!」
ゼノムの笑い声は城中に響き渡った。
―三日後、ロストの家、庭。
「よし、それじゃあ今日の修行を始めるぞ」
「はい師匠! 今日はどのような修行を行うんですか?」
「今日は筋力を鍛える修行だ、付いて来い」
ロストとラックは家の裏に移動した。
そこには3メートルはある巨大な岩が置かれていた。
「この岩を持ちあげろ」
「分かりました! うおおおおおおおお!!」
ラックは岩を持ちあげようとする。
「おおおおおおおおおおおお!」
―5分後。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
―10分後。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
―30分後。
「はぁっ……はぁっ……師匠、出来ません……」
ラックは全身汗だくで地面に倒れ込んでいた。
「おかしいな……そんなに重い岩ではないのだがな……ほら」
ロストは片手で軽々と岩を持ちあげた。
「す、凄い……流石は師匠……」
「この程度の岩を持ちあげられないとはな……仕方ないな……」
ロストは近くにあった1メートル程の岩を持ってきた。
「これなら持ち上げられるか?」
「やってみます、うおおおおおお!」
ラックは何とか岩を持ちあげる事が出来た。
「で、出来ました! 師匠!」
「よし、それじゃあそのまま1時間ずっと持ちあげていろ」
「一時間!? ……分かりました! 頑張ります!」
「その意気だ」
「……ラック、大丈夫かしら」
「あんな大きい岩を持ちあげて、大丈夫なんですかね……」
「……まぁ、ラックなら何とかなると思う」
リリィ、ティア、シキはラックの修行風景を陰から見守っていた。
「皆さんそんな所で何をしているんですか?」
「あ、レティちゃん、ちょっとラックの事が心配で見守っていたのよ」
「ああ、ラックさん今兄様に何か教わっているんでしたっけ……所で皆さん、今新しいお菓子を作ってみたんですけど……良ければ試食していただけませんか?」
「新しいお菓子!? 喜んで試食させてもらうわ♪」
「どんなお菓子なんでしょう……楽しみです~♪」
「……涎が出てきた」
三人は初めてレティのお菓子を食べて以来、すっかりレティのお菓子の虜になっていたのだった。
レティ達はロストの家のリビングへと移動した。
「お待たせしました、これが新しく作ったお菓子、魔木苺のタルトです」
レティはテーブルに出来立ての魔木苺のタルトを置いた。
「わぁ~! とっても美味しそうね!」
「良い匂いですね~」
「匂いを嗅いだら更に涎が……」
レティは魔木苺のタルトを切り分け、三人に配った。
「さぁ、どうぞ召し上がってください」
「いただきます、……美味しい~♪」
「木苺の甘みが口いっぱいに広がって、とっても幸せな気分になりますね~♪」
「……クリームも絶品……♪」
三人は至福の表情を浮かべた。
「喜んでいただけたなら良かったです、これを出したら兄様、喜んでくれるかな……♪」
レティは自分の作った魔木苺のタルトを食べて喜ぶロストの姿を思い浮かべて、頬を赤らめた。
「……レティちゃんは本当にお兄さんの事が好きなのね」
「そうですね~、見ていて微笑ましいです~♪」
「……お兄さんと相思相愛だね」
「えっ!? そ、相思相愛だなんて……」
レティの顔が真っ赤になる。
「ふふっ……真っ赤になって可愛い♪ ……ん? 何か外から聞こえない?」
「……聞こえますね、何でしょうか……何かが羽ばたいているような……」
「……確認してくる」
シキが窓の外を見ると、眼を見開いて後ろに下がった。
「ど、どうしたのシキ!?」
「……皆、窓の外を見て」
シキに言われてリリィとティアが窓の外を見ると、庭に巨大な白い竜が翼を羽ばたかせて降りて来ていた。
「り、竜!?」
「ま、またですか~!?」
「……あれは白竜……黒竜と同じ最上位の竜種……!」
「皆さんどうしたんですか?」
レティが窓の外を見た。
「あれ? シロちゃん?」
「「「し、シロちゃん?」」」
レティの言葉を聞き、三人が驚く。
「はい、兄様のペットのクロちゃんの弟なんです」
「あの黒竜の!?」
「はい、でも何でここに……? もしかしてあの人がまたここに……」
レティはゼノムの事を思い浮かべ、少し嫌な気分になった。
「クルルルルルルゥ」
シロが地面に着地すると、その背中から人が降りてきた。
「……あれ? あの人じゃない……?」
降りてきたのは女性だった。
均整の取れた顔と身体、艶のある髪は腰まで伸びたとても美しい美女だ。
「何者なの? あの人……」
「分かりりません、けど……綺麗ですね……」
「……同じ女なのに、見ていてちょっとドキドキする……」
三人が見とれている中、レティは家から出て、謎の美女の元に向かった。
「あ、あの……すいません、兄様のお知り合いの方ですか?」
レティがそう聞くと。
「黙れ小娘が」
美女は人が殺せそうな表情でレティを睨んだ。
「ひっ……」
「ふん、この程度で悲鳴を上げるとは……やはりお前に兄上の妹は無理のようだな」
「え? 兄上って……」
「おい、今何か音がしたけど何かあったのか……ん?」
ロストが謎の美女を見ると、謎の美女は猫撫で声を上げてロスト目掛けて走り出した。
「兄上~! お会いしたかったです~♪」
「ゼノム!?」
美女はそのままロストに抱き着いた。
「ぜ、ゼノム? 兄様、その人って……」
「レティ、分からないのか? 俺の弟のゼノムだ」
「え、ええええええええええええええええ!?」
「「「弟ぉぉっ!?」」」
窓を開けて聞いていた三人は素っ頓狂な声を上げて驚いていた。
「しかしゼノム、その姿はどうしたんだ?」
「はい♪ このゼノム、性転換の薬を使い女となり、兄上の正真正銘の妹になりました♪」
謎の美女……女になったゼノムは笑顔でそう言った。
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