第18話

―時は遡り、数十分前。


ロストは庭でクロと戯れていた。


「グルルゥ♪」


「こらこら、くすぐったいから顔は舐めるなよクロ」


「グルゥ…」


クロがしょんぼりとする。


「だからこれぐらいで落ち込むなって…」


「ロスト様ー!」


蟻人の一人がロストの元に走って来た。


「どうした? そんなに慌てて…ん? お前ひとりか? レティ達はどうした?」


「そ、それが大変なんですよロスト様ー! レティ様が知らない人間達に攫われちゃったんですよー!」


レティが攫われたと聞いた瞬間、ロストの身体から漆黒のオーラと衝撃波が発せられた。


「うわー!?」


蟻人はロストから発せられた衝撃波を受けて地面に倒れた。


「…レティが攫われたのはどっちだ?」


「あ、あっちです」


ロストは蟻人が指差した方角を見る。


「…分かった、クロ!!」


「グルルゥ!」


ロストがクロの背に乗ると、クロは翼を羽ばたかせ、飛び上がり、猛スピードでレティが攫われた方角へと向かった。














―そして現在。


黒の背に乗ったロストはラック達を睨み、クロもラック達を威嚇していた。


「ろ、ロスト様…」


「ロスト様があのオーラを出してるって事は…」


「ロスト様が怒っている…」


「ま、不味くないか? 確か前にロスト様が怒った時って…」


「ああ…城が全壊した」


前にロストが怒った時の事を思い出し、蟻人達は身体を震わしていた。


そしてロストに睨まれているラック達もロストから発せられる漆黒のオーラを感じ、恐怖していた。


「な、何なの…あいつ」


「あの漆黒のオーラ…間違いなく魔族です…」


「…しかもこの力…恐らくは最上位の魔族…私達じゃ絶対に勝てない…」


「く…」


「あれが…兄様…?」


レティは自分が今まで見たことが無いロストの姿を見て驚いていた。


ロストがクロから降り、ラック達に向かって歩いて行く。


「…お前達がレティを攫った奴らか…俺の大事なレティを攫ったんだ…覚悟は出来ているんだろうな?」


「…な、何が俺の大事なレティだ! レティさんを無理矢理攫った悪党め! レティさんは絶対に渡さないぞ!」


ラックは恐怖の感情を抑え、剣を抜き構えた。


「行くぞ!」


ラックがロストに立ち向かおうとした時、レティがラックを止めた。


「待ってくださいラックさん!」


「レティさん下がっていてくれ! 貴女は俺が絶対にあの魔族から守って見せる!」


「違うんです! あの人は…」


「覚悟しろ! お前は俺がここで倒す! うおおおおおおおお!!!」


ラックがロストに突進する!


ロストはその場から一歩も動かない。


「ラック無茶よ!」


「ラックさん!」


「駄目…殺される…」


「くらえぇぇぇぇぇぇぇ!!」


ラックがロストの首目掛けて剣を振るった!


―しかし、剣がロストの首に当たった瞬間、剣が粉々に砕け散った。


「なっ…!?」


「それで終わりか?」


その言葉と同時にロストの全身のオーラが右拳に集まった。


「レティを攫い、怖い思いをさせた罪…その身で償え!!!」


ロストが右拳でラックの顔面をぶん殴った!


顔面を殴られたラックは、地面に叩き付けられ、ラックを中心に、小規模のクレーターが出来た。


顔面を殴られたラックの顔は滅茶苦茶に歪んでいた。


「…が、ぐ………」


「…まだ生きているのか…ならこれでトドメだ…」


ロストはラックに近づく。


「ら、ラック…」


「いや…ラックさん…」


「…駄目…」


少女たちがラックを助けようと動こうとするが、圧倒的な恐怖の前に身体が立ちすくみ、動けない。


ロストの右拳にオーラが集まり、ラック目掛けて拳を振るおうとしたその時。


「あ、兄様! 待ってください!」


レティがロストを止めた。


「レティ、何故止める、こいつはお前を攫った悪い奴なんだぞ?」


「ち、違うんです兄様…この人達は私が襲われていると勘違いをしていたんです!」


「…勘違い?」


「はい…実は…」


レティは事の経緯をロストに話した。


「…つまり、こいつらはレティが襲われていると思いレティを助けたと?」


「はい、それにこの方たちは私の怪我を治してくれました、この人達は良い人達です」


「…と言う事は、レティは怖い思いをしていないんだな?」


「はい、突然の事に驚いてしまいましたけど、怖い思いは全くしていません」


レティの言葉を聞くと、ロストの漆黒のオーラが一瞬で消え去った。


「…なら良いんだ、レティが無事でなによりだ…しかしあれだ、勘違いだったとは言えレティの怪我を治してくれた奴らの一人を本気で殴ってしまったな…」


ロストは地面に倒れているラックに手をかざした。


「《治れ》」


ロストの言葉と共にラックの全身が光りに包まれ、滅茶苦茶になっていたラックの顔が一瞬で元通りになった。


「ら、ラックさんの顔が…」


「一瞬で治った…」


「これは…」


少女たちは驚いていた。


「うむ、これで良いだろう、…しかし、俺の一撃を受けて生きているとはな…よし決めた、帰るぞレティ」


「え、は、はい」


ロストは気絶しているラックを担ぎ、レティと共にクロの背中に乗った。


「…ま、待って! ラックを何処に連れて行く気なの!?」


「ん? こいつに興味が湧いたから俺の家に連れて行って話を聞くだけだ、お前達も乗れ」


「え? の、乗れって…その黒竜に!?」


「当たり前だ、さっさと来い」


ロストの言葉に少女達は集まって相談し始めた。


「…どうする?」


「ど…どうすると言われましても…」


「逆らったら殺されるかもしれない…ここは従った方が良いと思う」


「…そうね」


少女達は恐る恐るクロに近づき、クロの背に乗った。


「よしクロ、飛べ!」


「グルルルゥ!」


クロが翼を羽ばたかせ、空を飛んだ。


そしてそのままロストの自宅目掛けて飛んで行った。


「…あれ? 私達忘れられてない?」


「ま、待ってくださいロスト様ー!」


蟻人達は急いでロスト達の後を追って走った。

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