第14話
―ロストの家、厨房。
レティは蟻人達に料理を教わっていた。
「こんな感じで良いですか?」
「バッチリです」
「流石レティ様、一度教えただけで出来るようになるとは」
「レティ様は筋が良いから教える私達も楽しいよな」
「蟻人さん達の教え方が良いんですよ」
「そう言われると照れちゃうねー」
「それじゃあレティ様、仕上げを…」
「グルゥ♪ グルルルルゥ♪」
レティと蟻人達が仕上げの工程に移ろうとした時、庭からクロの声が聞こえてきた。
「クロちゃん? どうかしたのかな…」
レティは気になって窓から庭を覗いた。
すると、クロが知らない人の顔を舐めている光景が見えた。
「レティ様、どうしましたか? あれ、クロが誰かの顔を舐めてますね」
「どれどれ…本当だ」
「こんな所に一体誰が?」
「まさかまたゼノム様とか?」
「いや流石にそれはないだろう…ってちょっと待て、あの方達ってまさか!?」
「あー! グレン様とラピス様だー!」
「グレン様とラピス様?」
「ロスト様のご友人です、何でここに…」
「兄様のご友人? それじゃあご挨拶しないと」
レティ達は庭に向かった。
「グルルルゥ♪」
「はははは、くすぐったいぞクロ」
「見ない内にまた大きくなったねー」
「あの…」
レティの声を聞いてグレンが振り向いた。
「ん? 君は…」
「初めまして、私は兄様の妹のレティと申します」
「おお、君が噂の…初めまして、グレン・ザークだ」
「キャ~♡ 可愛いー♡」
「きゃっ!?」
ラピスがレティに抱き着いて、頬擦りする。
「私はラピス・ザーク! 気軽にラピスお姉ちゃんって呼んでね~♪」
「え、ら、ラピス、お姉ちゃん…?」
「もうレティちん可愛すぎ~♡ ロストちんのじゃなくて私の妹にならない~?」
「ええっ!?」
「ラピス、その子が困っているだろう、離してやれ」
「はーい」
ラピスがレティから離れる。
「すまない、うちの妹が迷惑を掛けてしまって…」
「いえ、迷惑だなんて思ってませんから…」
「本当!? じゃあもう一度…」
「やめんか」
「うげっ!?」
グレンがラピスの頭にチョップを喰らわせた。
「もー! お兄ちゃん何するのー!」
「これぐらいしないとお前は反省せんだろうが」
レティ達が庭で騒いでいると、家からロストが出てきた。
「どうしたレティ? やけに騒がしいが…ん? グレンじゃないか!」
「おお、ロスト!」
ロストとグレンはお互いに近づき、握手を交わした。
「久しぶりだな! 元気だったか?」
「ああ! お前も元気そうで何よりだ!」
「ロストちん久しぶり~♪」
「ラピスか、久しぶりだな、まぁ立ち話も何だ、中に入ってくれ、魔茶を御馳走するぞ」
「すまない、では邪魔する」
「お邪魔するね~♪」
ロスト達が家の中に入って行った。
「ずず…美味いな、この魔茶」
「だろう? いい魔葉が手に入ってな」
「このマフィンも美味しい~♡」
「ありがとうございます、そんなに喜んでもらえて、作った甲斐があります」
「これレティちんが作ったのー!? 凄ーい! レティちんやっぱり私の妹になってよー♡」
「やめんか」
「ぐえっ!?」
グレンがレティに抱き着こうとしたラピスの首根っこを掴んだ。
「もー! 苦しいよお兄ちゃん!」
「お前がレティさんに抱き着こうとするからだろうが、申し訳ない、妹は御覧の通り少々馬鹿でして…」
「い、いえ、別に謝らなくても良いですよ」
「ところでグレン、よくここが分かったな」
「ゼノムに地図を貰って来たんだ」
「成程な、それで何の用だ?」
「これをお前に渡しに来たんだ」
グレンが一枚の封筒をロストに渡した。
「招待状?」
「そうだ、式の日取りが決まったから渡しに来た」
「おお、と言う事は…」
「あ、ああ…来月、結婚するんだ」
グレンは照れ臭そうに頭を掻いた。
その報告を聞いた蟻人達がグレンを祝福する。
「おおー! おめでとうございますグレン様!」
「めでたいですねー」
「交際&婚約10年目にしてようやくですね」
「本当、ようやくだよねー、お兄ちゃん初心だから手を握るのもキスもお義姉ちゃんからだったもんねー?」
「余計な事を言うな!」
「ほげぇっ!?」
グレンは顔を赤くしながらラピスの頭にチョップを喰らわせた。
「…いや、そもそも何故お前がそれを知っている!?」
「えっ!? あ、いやその…」
ラピスが冷や汗をかきながら明後日の方を向いた。
「お前、あの時覗いてたのか…」
「いやー…たまたま近くを歩いてたら偶然見えたと言うか…」
「問答無用!」
「ギャー!? お、お兄ちゃん、尻尾は! 尻尾は引っ張らないでー!?」
「ご結婚されるんですね、おめでとうございます」
「ありがとう、レティさんも是非式に出席してくれ」
「分かりました」
「所でグレンよ、一ついいか?」
魔茶とマフィンを食べ終わったロストがグレンに話しかけた
「何だ?」
「こうして久しぶりに会ったんだ、一勝負するか?」
「ふっ…良いだろう、外に出るか」
ロストとグレンが立ち上がる。
「あ、兄様、喧嘩なさるんですか?」
レティが心配そうに言うと、ラピスがレティの傍に移動した。
「安心しなよレティちん、勝負っていっても別に殴り合うわけじゃないから~」
「え?」
「見れば分かるから、私達も外に行こうか~」
ロスト達は庭に移動した。
「それで勝負方法は何にする?」
「そうだな…今回は魔腕相撲でどうだ?」
「良いだろう、台を用意するから待っていろ」
ロストが裏庭の方に向かった。
魔腕相撲とは、台の上に右ひじを着き相手の手を握り合い、相手の手の甲を台に押し付けた方が勝ちと言う遊戯だ。
そのルーツは古代文明の決闘だったなど、様々な説があるが詳しい事は分かっていない。
「待たせたな」
ロストが円柱型の台を担いで戻って来た。
「近くに頑丈な岩があったんでな、加工してきた」
「成程、それなら俺達の力にも耐えられるだろうな…では始めるか」
「ああ、すまないが誰か合図を言ってくれないか?」
「分かりました、今行きます」
蟻人の一人がロスト達の元に向かう。
「それでは、両者準備は良いですね?」
「良いぞ」
「勿論だ」
「それでは…始め!」
「はああああああああああああああっ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「ぎゃあああああああああああああっ!?」
開始と同時にロストとグレンの周りを衝撃波が発生し、蟻人が吹っ飛ばされた!
「ぬううううううううう!」
「はあああああああああ!」
ロストとグレンの力はほぼ互角で、お互いの手は一向に動かない。
「ね? 大丈夫だったでしょ? 勝負って言っても要するに遊んでいるだけだから~」
「そ、そうなんですか? 兄様とグレン様、全然遊んでいるように見えないんですけど…」
「二人とも、たとえ遊びだとしても絶対に負けたくないんだよ、所でレティちん、ちょっと聞きたいんだけどー」
「? 何でしょうか?」
「ロストちんの事好きー?」
「えっ!?」
ラピスの質問を聞いたレティが顔を真っ赤にした。
「す、好きってあの、妹として、ですか?」
「違う違う、女の子として、ロストちんのどこが好きになったのー?」
「な、何でそんな事を聞くんですか? も、もしかしてラピス様も兄様の事を…」
「あ、それは絶対ないから、普通にレティちんがロストちんのどんなところが好きなのかを聞きたいだけだから」
「そ、そうですか…」
レティは安堵の息を吐いた。
「で、どこが好きなのー?」
「え、えっと…それは…」
「それは?」
「ぜ…全部です…」
「…全部?」
「はい、兄様の優しいところも、少しだけ抜けているところも、そして力強いところも全部好きです…兄様のどんなところが好きではなく、兄様の全部が好きなんです」
レティは照れながらも、嬉しそうに語った。
「…レティちんは心からロストちんの事が好きなんだね」
「はい…」
レティが顔を真っ赤にして頷いた。
「分かる! その気持ちよ~く分かるよー!」
「と言う事は、ラピス様も好きな人が?」
「そうだよー! その人と私は相思相愛なんだけどー、彼ツンデレだから私に会うといっつもツーンとして本心を言ってくれないんだー」
「ツンデレ?」
―同時刻、魔王城執務室。
「…へくしっ!」
バキィィン!
「熱っちゃあああああああああ!?」
ゼノムがくしゃみすると同時にロウズが持っていたティーポッドが砕け散った。
「…誰か私の噂でもしているのか?」
「…何でいつもこうなるの…?」
「でも、そう言う所も大好きなんだー♡」
「それじゃあラピス様もその方の全部が好きなんですね」
「うん! レティちん、ロストちんは結構鈍い所もあるけど、頑張ってロストちんを落としてね!」
「私、兄様を崖から落としたりしませんよ?」
「もう、そう言う意味じゃないよー♪」
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「はああああああああああああああ!!!」
…ロストとグレンの魔腕相撲対決は夜中になるまで続いたとか。
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