第13話

―数日後、魔王城、廊下。








ロストの家から戻って来たゼノムは執務室に向かって歩いていた。


「ゼノム様ー!」


すると前から側近のロウズが息を切らして走って来た。


「どうしたんですかロウズ、そんなに慌てて…仕事なら出かける前に数日分は済ませていたはずですが?」


「いえ、仕事の話ではなくて、実はゼノム様にお客様が来ておりまして…」


「私に客? 誰ですか?」


「竜王国のグレン王子とラピス姫です」


「…ああ、あの二人ですか」


「お二人は応接室にいていただいております」


「分かりました」


ゼノムは応接室に向かった。








応接室に着いたゼノムが扉を開くと、身長2メートルはある赤い竜人が座っていた。


「ゼノムか、久しぶりだな」


「お久しぶりですグレン殿、半年ぶりですね」


この赤い竜人の名はグレン・ザーク。


竜王国ザークの王子だ。


竜王国とは、魔王城の西にある国で、様々な効能の温泉がある事で有名で、別名温泉王国と呼ばれている国だ。


そして竜王国の現国王とロスト達の父親は親友同士であり、その子供であるロスト達とグレン達は子供の頃から遊んでいた幼馴染なのだ。


更にロストとグレンは互いに実力を認め合ったライバルでもあるのだ。


「話は聞いたぞ、…まさかロストが魔王を辞めるとはな」


「はい、私も最初は驚きましたよ…ロウズ、紅茶を淹れてくれませんか?」


「はい、分かりました」


ゼノムはソファに座り、ロウズが淹れた紅茶を飲む。


「ところでグレン殿、あいつが居ないようですが…」


「ん? ああラピスなら暇だから庭園を飛んでくるとか言って出ていったが…すまないが俺にも一杯頼む」


「かしこまりました」


ロウズが紅茶を淹れていると、何処からか声が聞こえてきた。


「ゼ~ノ~ム~ち~んっ!!」


「おお、噂をすれば…」


その声が聞こえて数秒後、応接室の壁をぶち破って何者かがゼノムに突進してきた!


「ごふぁっ!?」


衝撃でゼノムは吹き飛び、地面に仰向けに倒れる。


そして突進してきた者がゼノムに馬乗りで跨る。


「えへへ~♪ 久しぶりだね~♪」


ゼノムに馬乗りで跨ったのは、青色髪のポニーテール少女だった。


その背には竜の翼と尻尾が生えていて、手足には青色の鱗が生えている。


この少女こそは竜王国の姫ラピス・ザークだ。


竜人は大きく分けて二つのタイプに分けられる。


一つ目はグレンのように竜を人間の形に収めた純粋な竜人型。


二つ目はラピスのように手足や背などの一部分だけに竜の特徴がある半竜人型だ。


「…久しぶりですねラピス…何故壁を壊して突っ込んできたのですか?」


「何でって、ゼノムちんに抱き着くために決まってるじゃ~ん♪」


「いや、だから壁を壊す必要があったんですか?」


「あるに決まってるよ~」


「その理由は何ですか?」


「私のゼノムちんへの愛は壁なんかじゃ遮れないからだよ~♡」


ラピスが頬に手を当てて照れている。


「…理由になってないんですが…取りあえず起き上がるのでどいてください」


ゼノムがラピスをどかして起き上がる。


「もー! 可愛い婚約者に対して冷たすぎるよー!」


「誰が婚約者ですか、貴女と婚約した憶えはないのですが?」


「何言ってるの? 10年前に愛を誓い合ったじゃな~い♡」


「…子供の約束ではないですか、そもそもあれは貴女が一方的に約束してきたのではないですか」


「もう、照れ屋なんだから…でも、そんなゼノムちんも素敵♡」


「はぁ…それで? 貴方達が来た理由は何なのですか?」


「そうだった、これをお前に渡したくてな」


グレンが封筒をゼノムに渡した。


「これは…招待状?」


「ああ、実は式の日取りが決まったのでお前達兄弟に招待状を渡しに来たのだ」


「成程…しかし招待状だったら使者に届けさせれば良かったのでは?」


「大事な物を親しい友に渡すときは直接渡す主義なんだよ」


「相変わらずですね」


「それでここに来た理由はもう一つあってな」


「兄上の居場所を教えて欲しい、でしょ?」


「察しがいいな、親友のロストには一番に渡そうと思っていたんだが、場所が分からなくては渡せないからな…」


「そうそう! ロストちんの名前を聞いて思い出した! ロウズから聞いたよゼノムち~ん?」


「何をです?」


「ロストちんに恋人が出来たんだってねー!」


バキィィンッ!


「熱っちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


ロウズは持っていたティーポッドが割れて、中に入っていた紅茶が身体にかかって転げ回っている。


ゼノムの身体からどす黒いオーラが発生する。


「…恋人じゃなくて妹です」


「あっそうなんだ、間違えちゃった♪」


「まぁその話は良いとして、ゼノム、ロストの居場所はどこなんだ?」


「…それならこの地図に書いています、これを見れば分かるでしょう」


ゼノムはグレンに地図を渡した。


「感謝する、では俺達はロストの元に行く、さらばだゼノム」


「じゃあねーゼノムちん、また来るからねー♡」


グレン達は立ち上がって応接室から出ていった。


「…」


「ゼノム様、替えの紅茶をお持ちしました…ゼノム様?」


「兄上と小娘が恋人同士…そんな事は絶対にありえるわけがない…しかし、もし…もし本当にそうなった時は…私は…私はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


バキィィン!!


「熱ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


替えのティーポッドが割れ再び紅茶が身体にかかったロウズは悲鳴を上げた。
















簡易キャラ紹介




グレン・ザーク


年齢、26歳


竜王国ザークの王子。

ロスト達とは幼馴染でロストとは実力を認め合ったライバル同士。





ラピス・ザーク


年齢、20歳


竜王国ザークの姫でグレンの妹。

ロスト達とは幼馴染で子供の頃からゼノムの事を愛している。

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