第12話

「美味しい!」


「流石レティ様、毎日料理の勉強をしてた成果が出ていますね」


「蟻人さん達の教え方が上手だったおかげです」


「そう言われると照れるよねー」



「うむ、レティの作る料理は最高だな」


「あ、兄様…」


ロストに褒められたレティは顔を赤くして照れた。


「どうだゼノム、レティの料理の味は?」

「お、美味しいです…」


「そうか! お前もレティの料理が気に入ったか!」


「はい…」


何故ロスト達がレティの料理を食べているのか。


時は1時間前に遡る。














厨房に来たゼノムはレティに二つ目の試練の内容を話した。


「いいか小娘、第二の試練は料理だ」


「料理ですか?」


「そうだ、兄上の妹たる者、兄上のために絶品の手料理を作らなければならない、実際私も幼き頃から兄上に手料理を振る舞っていたからな!」


「思い出した…ゼノム様、昔は毎日のようにロスト様の元に手料理を持って行ってたな…」


「ロスト様は喜んで食べていたけど、食べ過ぎで太った時があったよねー」


「それで奥様がゼノム様に料理を作るのを禁止になされて、我々はロスト様のダイエットに付き合ってたな」


「うむ、それは俺も憶えてるぞ、近くの山を毎日三往復ほど走っていたな」


「ロスト様が痩せるよりも先に私達が痩せていましたけどね…」


「今から料理を作って全員に美味いと言わせれば、この試練は合格とする、分かったな?」


「分かりました!」


「よし、では始めろ!」


ゼノムの言葉を聞いてレティは調理を開始した。










―そして現在。


ゼノムはレティが作った魔野菜のスープを食べ、自分が作る料理よりも美味くてショックを受けていた。


「レティの料理は最高だな、毎日食べたいくらいだ」


「あ、兄様…褒め過ぎですよ…でも嬉しいです」


ロストに褒められてレティが笑顔になる。


畜生が! また兄上に褒められ、撫でられていやがる! 羨ましぃぃぃぃぃ!


そう思いながらゼノムは手に持っていたスプーンを静かにへし曲げた。


「……」


それを隣で見てしまった蟻人は気付かないフリをしてスープを飲んだ。













―20分後。


「小娘、二つの試練をクリアした事は褒めてやろう、次をクリアできればお前を兄上の妹だと仕方なく認めてやる、それでは三つ目の試練は…」


「ゼノム、ちょっといいか?」


ゼノムが三つ目の試練を言おうとした時、ロストがロストに話しかけた。


「何ですか、兄上?」


「さっきから考えていたんだが…この試練とかいうのをやる意味はあるのか?」


「勿論ですよ、これはこの子娘が兄上の傍に居る資格があるかどうかを見極めるための」


「それだよ」


「それ?」


「俺の傍にいるための資格とか、そんなもの必要なくないか?」


「え? それはどういう…」


「レティが俺の傍にいる事に資格なんて必要ない、俺が傍に居て欲しいと思っていればそれでいいんじゃないか? 実際俺はレティにずっと傍に居て欲しいと思っているしな」


「あ、兄様…」


ロストの言葉を聞いて、レティの顔が真っ赤になる。


「だからもうこんな面倒な事をしなくていいんじゃないか?」


「…そ、そうですか、兄上がそう言うのであれば私は何も言いません…試練は中止にします、それでは私は城に帰りますので…」


「え、もう帰るのか? もう少しここに居たらどうだ?」


「いえ、仕事が残っているので…シロ!」


「クルルゥ♪」


ゼノムはシロの背に乗る。


「それでは兄上、私はこれで…小娘! 私はお前の事を認めたわけではないからな! それだけは憶えておけ! シロ、飛べ!」


「クルルルルゥ!」


シロが翼を羽ばたかせ、空を飛んだ。


「…何か嵐のように帰って行きましたね」


「ああ、だが久しぶりに会えて嬉しかったな」


ロストとレティの後ろで蟻人達が集まって話している。


「…見たか? ゼノム様の手」

「見たよー」

「ゼノム様よく我慢したよなあれ」


蟻人達はゼノムが帰る時に、ある事に気付いていた。





―ゼノムの拳が強く握りしめられ過ぎて血が出ていたことに。















「畜生ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


ゼノムはシロの背中で大声で叫んでいた。


「ずっと傍に居て欲しいと思っている…そんなこと私ですら言われたことが無いのに…! 羨ましすぎるだろあの小娘がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


ゼノムはどす黒いオーラを発生させながら魔王城に帰って行った。

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