第9話
魔王城、廊下。
「はぁ…」
ゼノムの側近ロウズはため息を吐きながら廊下を歩いていた。
ため息の原因、それは部下たちが調べたレティと言う少女の観察記録を毎日ゼノムに報告しなければならないからだ。
レティの観察記録を報告するたびにゼノムはとても不機嫌になる。
最初の報告でレティがロストにプリンを食べさせてあげたことを知っただけでゼノムの機嫌は最悪になり、持っていたティーカップが粉々に砕け散った。
もし観察記録にプリンを食べさせてあげた事以上の事が書かれていて、それを報告した場合どうなってしまうのか、ロウズはそれが不安で最近ストレスによる胃痛で悩まされていた。
そんな憂鬱な気分で廊下を歩いていると前からロウズの部下がやって来た。
「ロウズ様、あの少女の観察記録が出来ましたのでお届けに参りました」
来たか、そう思いロウズは一層憂鬱な気分になりながら観察記録を受け取った。
「ご苦労、では引き続き観察を続けなさい」
「分かりました」
部下がいなくなったのを確認したロウズは深いため息を吐きながら執務室に向かった。
執務室の前に着いたロウズはドアをノックする。
「魔王様、入ります」
ドアを開けて執務室に入ると、中には誰もいなかった。
「魔王様? おかしいな…もしや部屋に居られるのか? …ん?」
ロウズは机に一枚の手紙と粉々に砕け散ったティーカップとティーポッドを発見した。
「これは一体…」
ロウズは手紙を手に取り読んだ。
ロウズへ。
数日ほど出かけてきますので、その間魔王城の事を頼みますよ。
仕事は数日分を終わらせてあるので心配なく。
ゼノムより。
「………は?」
素っ頓狂な声を出していると、後ろからロウズの部下が息を切らしてやって来た。
「大変ですロウズ様! 魔王様がどこかに飛び去って行きました!」
その報告を聞いたロウズは胃痛が更に悪化した。
―時は少し遡り30分前、執務室。
ゼノムはとてもイラついていた。
「兄上にあーんしてあげるなんて私でもしたことが無いと言うのに…何て羨ましい…そして何と破廉恥な事を…このままあの小娘を放っておけば兄上に何をするか分かったものじゃない…」
ゼノムの周囲にどす黒いオーラが漂い、新調したティーカップにヒビが入った。
「兄上は小娘を妹として可愛がっているというが…もしも、もしもの事があって小娘が兄上を誘惑し兄上もその気になってしまったら…もしそうなったら私は…私はぁぁぁぁぁっ!」
ゼノムのどす黒いオーラは強さを増し、ティーカップとティーポッドが砕け散った。
「駄目だ! こんな所でじっとして何か居られない! 兄上の元に出向き、私が直接その小娘を見定めてくれる!」
ゼノムが執務室から出ていく。
しかし直ぐに執務室に戻って来た。
「…何も言わずに出ていっては城の者達に迷惑を掛けてしまいますよね、手紙でも残しておきましょう、取りあえずロウズに全て任せるように書いておきますか」
ゼノムは書いた手紙を机に置いて、執務室から出ていき、廊下を歩いて行く。
「おや魔王様、どちらに行かれるのですか?」
「ああ、仕事が済んだので少し気分転換に庭に行こうと思いましてね」
「そうなのですか、ではごゆっくり」
廊下ですれ違う部下たちにそう言ってゼノムは庭へと向かった。
庭に着くと、ゼノムは大声で叫んだ。
「シロ、来なさい!」
そう叫んで数十秒後、空から全長3メートルの巨大な竜が降りた。
この竜はゼノムのペット、白竜(ホワイトドラゴン)のシロである。
「クルルルルゥ♪」
シロがゼノムに近づきゼノムに頬擦りする。
「シロ、久しぶりに空の散歩をしましょうか」
「クルルゥ♪」
シロは嬉しそうに鳴き、地面に座り込む。
ゼノムがシロの背中に乗る。
「では行きますよシロ、飛びなさい!」
「クルルゥ!」
ゼノムの言葉でシロが魔王城から飛び立つ!
「確か兄上の居場所は…シロ、あっちに向かって飛びなさい!」
「クルゥ!」
ゼノムの言葉を聞きシロはロスト達のいる場所に向けて飛んで行く。
「兄上、今会いに行きますね! そして覚悟しておくが良い小娘! もしも兄上に破廉恥な事をしていた時には…殺す!!」
どす黒いオーラを発生させながら、ゼノムはロスト達の元へと向かった。
簡易キャラ紹介
ゼノム・モナーク
年齢、24歳。
ロストの跡を継いで魔王になった男で、極度のブラコン。
本人は周りに隠しているつもりだが、魔王軍全体に知れ渡っているが、何故かロストだけはその事実を知らない。
ロウズ
年齢、30歳。
魔王軍側近。
ロストの代から側近に就いた。
最近はストレスによる胃痛で悩まされている。
シロ
年齢、10歳。
ゼノムのペット。
見た目は怖いが性格はとても優しい。
気に入った相手に頬擦りをする癖がある。
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