第5話

―魔王城、執務室。











「ロウズ、今日の予定は何ですか?」


「はい、今日の予定は…ありません」


「…魔王がこんなに暇だったとは…兄上が魔王を辞めると言った理由が分かりますね」


彼の名はゼノム・モナーク。


ロストの実弟であり、ロストの跡を継ぎ第350代目魔王になった男である。


「いや魔王様の場合優秀過ぎてする事が無くなって暇になったと言う方が正解なんですがね…」


「はぁ…仕事もない、人間も攻め込んでこない、暇すぎますね…」



その時、執務室の扉がノックされた。


「誰ですか?」


「宅配です、ゼノム様にお荷物が届いています」


「荷物? ロウズ、こちらに持ってきなさい」


「はい、只今」


ロウズが荷物を受け取り、机に置いた。


「木箱と…手紙ですね、差出人は…ロスト様!?」


「兄上から!?」


ゼノムはロウズから手紙を受け取り、封筒を開けて手紙を読む。









我が自慢の弟ゼノムよ、元気にしているか? 


俺は元気にやっているぞ。


俺は今蟻人達と一緒に毎日農業をやりながら生活しているのだが、これがまた楽しいのだ。


木箱の中には俺が山で採った木の実と蟻人達が作った菓子が入っているので、食べてくれ。


いつか俺が作った野菜を送るから楽しみにしていてくれ。



ロストより。









手紙を読み、ゼノムが微笑む。



「兄上…楽しそうで何よりです…ん?」


手紙の一番下にこう書かれていた。







PS.妹が出来たぞ。







「…………はっ!?」



今まで一度も狼狽えたことのないゼノムは、最後の一文を見て初めて狼狽えた。

















レティがロストの妹になって早数週間が経過した。


ロストが部屋で本を読んでいると、部屋の扉がノックされた。


「誰だ?」


「私です、兄様(あにさま)」


「レティか、入っていいぞ」


ロストの言葉を聞き、レティが部屋に入って来る。


「レティ、何か用か?」


「えっと、蟻人さん達から昼食が出来たから兄様を呼んで来てほしいと頼まれたんです」


「そうか、では一緒に行くか」


「はい」


ロストとレティが一緒にリビングに向かう。


ちなみに何故レティがロストを兄様と呼ぶのか、それはロストがレティを妹にした日に遡る。













―ロストの家、リビング。



「あの、ロスト様…」


「レティ、今日からお前は俺の妹なのだから、俺を様付けで呼ぶ必要はないぞ」


「あの、それでは何とお呼びすれば…」


「それを今から決めるのだ、まずは…」


ロストが手元の紙を見る。


「俺を『お兄ちゃん』と呼んでみてくれ」


「え?」


「さぁ、言ってみろ」


「え、えっと…お、お兄ちゃん?」


「…うーむ、何かしっくりこないな、じゃあ次は『お兄様』と呼んでみてくれ」


「は、はい、お、お兄様」


「うーむ…良い線は言っている気はするのだが…それじゃあ次は…」


「…ロスト様は何やってるんだ?」


「何でもあの子がロスト様をどう呼ぶのかを決めているらしい」


「…ロスト様って本当に思いついたことを直ぐに実行するよな…」











その後、様々な呼び方を試した結果、最終的に兄様(あにさま)と呼ぶことになったのだ。


「レティ、ここでの生活にはもう慣れたか?」


「はい、最初は少しだけ戸惑いましたけど、もう慣れました」


「そうか、それでどうだ? ここでの生活は楽しいか?」


「はい! とっても楽しいです!」


レティが笑顔で返事をし、楽しそうに話し始めた。


「お庭の花に水をあげたり、畑の野菜を採ったり、クロちゃんのお世話をしたり、蟻人さん達に料理を教えてもらって…今までやったことがない物ばかりで凄く新鮮で、私今がとっても楽しいです!」


「そうか、良かったな」


ロストがレティの頭を撫でる。


「あっ…えへへ…」


ロストに頭を撫でられたレティは嬉しそうに微笑んだ。


「うむ、やはりお前の笑顔は可愛いな」


「あ、兄様…」


レティが顔が赤くなった。


「そ、そう言えば兄様、さっきは何の本を読んでいたんですか?」


「農業の本だ、今度新しい魔野菜でも育てようかと思ってな」


「そうなんですか、…兄様、良ければその本を後で見せてもらっても良いですか?」


「ん? 別に良いが、どうしたんだ急に?」


「私、生っている野菜を採るだけじゃなくて、自分の力で野菜を育ててみたいんです、今までやった事無い事をやってみたいんです!」


「いい心構えだ、やってみると言いぞ、苦労して育てた魔野菜の出来が良いととても嬉しいからな…レティもその気持ちを味わえるように頑張るんだぞ」


「はい! 私頑張ります!」


「うむ、いい返事だ!」


ロストがレティの頭を撫でる。


「えへへ…」


ロストに頭を撫でられてレティが満面の笑みを浮かべた。


「やはりお前の笑顔を見ていると癒されるな、これからもその笑顔で俺を癒してくれよ」

「はい、兄様」






―こうして、今日もロストはレティの笑顔で癒されるのであった。

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