第4話 迷子になりました
方向音痴です。
特に、スマホの乗換案内アプリとの相性が悪いです。
ユーザーミーティング当日に迷子になりました。
憑依体質なので、霊に呼ばれないと着きません(ウソ)。
スマホで小説を書きながら電車に乗っていたら、降りる駅で降りれませんでした。
やはり、乗換案内アプリとの相性が悪かったようです。
降りる時間を勘違いしていました。
時間的にまだ大丈夫と思っていて、嫌な予感がして顔を上げたら、降りる駅が後ろに消えていくところでした。
紙の時刻表だったら、こんなミスは犯さなかったはずです。
でも、普段から紙の時刻表を持ち歩くような生活はしていません。
重いので。
それに持ち歩いたとしてもJRの一番小さな時刻表なので、他の会社のものはちょっとしか載っていません。
急いでアプリで乗換を確認して、目的の駅に着きました。
痛し
ただ、便利ですよね、スマホ。
あんなに小さくて、投稿もできて、電車の乗り換えも調べられて、写真まで撮れるんですから。
音楽はiPodです。
電池ぎれの心配が軽減されます。
目的の駅に着いたので、慌てて外に出ました。
今思うと、これが間違いの元でした。よく確認せずに、反対側の出口に出てしまいました。
『駅から3分』ならどこから出ても間に合うと思っていたら、見事に迷いました。
東京都の駅、甘く見てました。
各駅停車しか停まらない駅なので、小さいだろうとなめてかかってました。
そんなはずがない。
人が多いです。建物も多いです。ゴチャゴチャしてます。
時間がなかったので、手あたり次第に人に道を聞きました。
「すみません……」というと
「間に合ってます」と言われました……。
だから東京もんは嫌だ。
こんな純朴な霊感詐欺師、いるわけがないだろう?
19時過ぎたら受付片付けるってメールに書いてあるんだよ。
あと2分で着かなきゃいけないんだよ。それなのに、自分がどこにいるのか、わからないんだよ。
ただ、そう言われるのは慣れています。
道を聞くと、東京の方はわりとそう言って断ります。
それだけ霊感商法が
私も引っかかったことがあります。
勘違いされてしまった場合、『私はそれではありません。ただ、道を聞きたい迷子です』ということをわかってもらえばいいのです。
間髪入れずにプリントアウトしておいた地図を見せ、
「ここに行きたいんです、教えてください」と、おとなしそうに言いました。
「すみません、わかりません」と、丁寧に言ってくださいました。
きっと、普通の人だったのでしょう。
でも、私は困っています。その方にお礼を言い、
「あの、どなたかこの辺りに詳しい方はいらっしゃいませんか?」
と恥を忍んで言いました。
東京は、人が多いです。
だから、道に迷った時に、聞く人が居ないことはありません。
趣味が旅行なので、よく地方に行って、しかも観光地でもない場所に行くので、道に迷って途方に暮れることがあります。
道を聞こうにも人がいません。
それに比べれば、東京は聞く人がものすごくいます。
普段の生活圏とも違うので、恥をかいても怖くない。
信号前だったので、待っている人がたくさんいました。
小さな声で言っていたのに、
「どこに行きたいの?」と言ってくださるおじさまに教えていただきました。
5分くらいかかると言われました……。
お礼を言って「わからなかったら、また近くで聞きなさい」と言われ、優しいおじさまに頭を下げ、言われた通り、確認しながら会場に向かいました。
到着は、19時5分ごろ。
—— 追い返されるかもしれない。
そんな気持ちになっていました。
でも、建物を見て、どこかで見たような気がしました。
テレビで見たとかではなく、自分がそこに立って見ている覚えがあります。
——
運命的なものを感じ(すぐに感じるタチです)、建物の中に入ると、受付はまだ片付けられていませんでした。
—— 中の景色は見たことがない。ということは、外は見たけど、中は見ていない。
※ 意味:デジャヴじゃないな。
私が感じた運命は、間違いだったのかもしれない。この後、追い返されるのかもしれない。追い返されたら家に帰って小説を書こう、と思いました。
書いている途中の小説を書き上げたかったので。
スマホより、パソコンの方が楽に書けます。
「遅れてすみません。参加者ですが、まだ間に合いますか?」
気弱そうな女の子を装い、受付に座っていた方に言うと、
「大丈夫ですよ」とおっしゃってくださいました。
恐ろしいほど、にこやかな方々でした。
採用試験で1分遅刻して追い返されたことがある私は、その方が神様のように見えました。
—— なんて心が広い人たちなんだ。
カクヨムの方々を見て思ったことです。
そして、名前を伝えました。
ただ、ペンネームの『
パソコンに覚えてもらっているので、書けません……。
滅多に言わないので言えません。
しかも、日本人は苗字を先に言います。
つまり、玄栖の『く』の字が出てこない。
占い師さんに見てもらって決めました。
胡散臭いと思わないでください……。
神秘的なことが大好きです。
だから霊感商法にも引っかかります。
でも、ペンネームを自分の口で言うことは、思っていた以上に恥ずかしいです。
いつか、この名前を堂々と言えるようになりたい……。
「これです、これ」
と、名簿にあった自分を表す名前を指さしました。
やっぱり、戸籍ってすごいかもしれません。
自分を表す名前を、国が管理してくれます。
私と名前をつなげてくれます。
でも、ペンネームは、自分で考えてつけられます。
自称というものになってしまうのでしょうが。
玄栖佳純というWeb小説を書いている人間を、私の顔を見て、そうだと思ってもらえません。
私が玄栖佳純だということは、私しか知らないのです。
パソコンかスマホでパスワード入れて、「ほら、私が書いてるでしょ?」という方法でしか証明することができません。
『IDとパスワードって、大事かも』と、チラッと思いました。
そこで、カクヨムさんのマスコットキャラクターのぬいぐるみさんを見ました。
—— なんだ? この猛烈に愛らしい生き物は……(生きてないです)。
と思いました。
でも、時間がありません。
自分で名前を記入するネームプレートを受け取り、後ろ髪を引かれる思いで受付を済ませると係の方が会場まで案内してくれました。
退社の時間なのでしょうか?
足早に通り過ぎる会社の方々がいました。
ピカピカな建物。暗くてよくわからなかったけれど、きっと高層ビル。
掃除が行き届いた廊下。
そこを何食わぬ顔で通り過ぎる人。
私は一生に一度、来れるか来れないかという気持ちで来ている出版社の社屋。
何の気負いもなく、日常生活の一部として歩いている人。
首からネームプレートを下げています。
私が受け取った、簡単な物ではありません。
—— いいな、出版の仕事で、お給料もらってるんだよね……。
そんなことを思い、ふわふわした足取りで、ニコニコした人に案内され、エレベーターに乗りました。
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