第236話 消された紋次郎

紋次郎は戦闘態勢をとって前に出る。妖精王のアスターシアですら恐怖で震える相手に戦うつもりであった。


「その勇気だけは褒めてやろう……しかし、無謀な覚悟だ……この影たちの正体を教えてやろう……彼らは六門……創造神ドルツラティスの腹心にして三級神の邪神たちだ」

その名を聞いて、紋次郎が反応するより先にクロートスがそう叫ぶ。

「紋次郎さん! その者たちと戦ってはダメ! 人の勝てる相手ではありません!」

しかし、紋次郎はすでに戦うことを決めていた──それは戦わずに逃げることは不可能だと見抜いていたからである。


「いいよ、誰が相手でも戦わないといけない時もある……今がその時じゃないかな」

「紋次郎さん! 六門はそんな生易しい存在じゃ……」

「大丈夫、負けはしないよ」


そう言うと紋次郎は前に進んだ。それを見た六門の一人が前に出る──

「ほほう……人が我々と戦うか……それは面白い……よい、よいぞ人間……ならばこの六門が一柱、ジアスが相手をしよう……」


紋次郎はターボを発動する──紋次郎の体の周りに緑のオーラが纏う……

「紋次郎! 行ってはダメですわ!」

そんなアスターシアの叫びを聞いても、紋次郎の決断は揺るがなかった……足を踏み込み、六門の一人、ジアスへと向かって飛んだ。


「ほう……人にしては早い……」

ジアスは4本の腕の一つを軽く振るう──加速していた紋次郎は、強烈な波動をまともに受けて吹き飛ばされる。


紋次郎は地面に足を踏ん張りジアスの攻撃を耐えると、ジアスに向かって跳躍した。

「天地破壊斬!」

一本の光の柱がジアスに直撃する──ジアスは体を丸めて防御態勢をとった。今まで、いかなる敵にも完全な破壊をもたらしたこの必殺技であったが、ジアスには決定的なダメージを与えることができなかったようだ、光の柱が消えたその場所には五体満足のジアスが立っている。


平然と立つ敵を見て、さすがの紋次郎も焦りの表情を浮かべる。

「まったく効いてない……」

「ふっ……いや……十分の威力だったぞ……人にしては驚異的な攻撃力だ……」

今ので効果がないのなら倒すすべがない……次の一手が思いつかない紋次郎はその場に立ち尽くす……


「ヒロイック・ブースト!」

紋次郎の後方から魔法を発動する声が聞こえる──信頼する仲間の声に紋次郎は振り向いて声をあげた。

「アスターシア!」

アスターシアは恐怖で震えながらも笑顔でそれに答えた。

「紋次郎! 絶対に死んでわいけませんわ!」

「わかってる!」


英雄強化により全てのステータスが上昇する……これならいけると紋次郎は確信していた。


「ほう……素晴らしい力だな……それなら四級神くらいなら倒せるかもしれぬな……」


「行くぞ!」

紋次郎は高く跳躍する……全ての力を集中して、攻撃を繰り出そうとした……しかし、ターゲットの六門ジアスは不敵に微笑む。

「神とて苦痛は好まぬ……悪いがその攻撃を受けてやるわけにはいかないな……」

そう言うとジアスは4本の腕のうち二つを前に出した──そして赤いサークルのような光を作り出し、それを紋次郎に投げた。


「紋次郎! 避けて!」

アスターシアの言葉に、紋次郎は攻撃体制から回避運動に変更した……飛んでくる赤いサークルを紙一重で避ける──だが、避けたはずの赤いサークルはくるりと軌道を変更して、意識を持っているように紋次郎へと向かっていった。


「くっ……」

脅威的なスピードと意識を持ったような動きに、さすがの紋次郎も逃げることができなかった……赤いサークルは紋次郎を輪投げの景品のように上から被さる……赤いサークルが通過すると、その場所に紋次郎の姿はなくなっていた──


「いやあ〜〜!! 紋次郎!!!」

アスターシアは叫びながら紋次郎の消えた場所へと飛んでいく……そして周辺を飛び回って泣き叫んだ──完全に紋次郎の気配が無くなっている……その現実にアスターシアは気が狂うほどに感情が噴き出していった──




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