第235話 強大な者たち

旧約悪魔の話は本当であったようで、クロートスが姉の気配に反応する。

「紋次郎さん、近くに姉さんがいます」

「おっ、方向とかわかるかい、クロートス」

「はい、向こうから気配を感じます」


クロートスの感じる方向へ、紋次郎たちは向かった──すると硬い鋼鉄で囲まれた牢獄の前に見張りがいる場所を見つける。

「あそこだな……見張りは二人か……」

「私が気を引きますわ」

そう言ってアスターシアが見張りに向かって飛んでいく。それに気がついた見張りが声をあげた。

「なんだ! 妖精がどうしてこんな所に……」

見張りがアスターシアに気を取られている隙に、紋次郎は門番に接近していた──そして二人とも助けを呼ぶ暇もなく、一瞬で倒す。


「姉さん!」

牢獄の中を見て、クロートスはそう声をあげた。

「クロートス! どうしてこんなところに……」

「姉さんを助けに来たの、良かった無事で……」

「そんな無茶して……あなたに何かあったら私がどう思うか考えないさい」

クロートスはそんな姉の言葉に答えられなかったが、姉の無事を心から喜んでいるようだ」


「牢を壊すからちょっと下がって」

紋次郎がそう言うと、クロートスと姉のラシーティスはその場から少し下がった。


強固な牢に見えたが、紋次郎は容易くそれを破壊する。姉妹を隔てるものは何もなくなり、二人はお互いの無事をその体で直接確かめ合った。


「喜んでばかりは要られませんわ、脱出するまでが救出作戦ですわ」

アスターシアの言葉に頷いた一同はすぐにその場を去ることにした。


「みんなと合流していないのに先に脱出していいのかな」

紋次郎の言葉に、アスターシアが涼しい顔でこう返事する。

「あの連中なら大丈夫でしょ、殺しても死ぬようなのは誰もいませんわ」

紋次郎は複雑な表情するが、確かに仲間たちが倒されるイメージは湧かなかった。


そんな紋次郎たちであったが、仲間の心配をしている場合ではなくなった……広いフロアーに入ったところで、異変が起こった──


「なっ! じ……地面が!」

いきなり、そのフロアーの地面がなくなったのだ。崩れ落ちたでもな、忽然と消失した。


当たり前であるが、地面がなくなれば下に落ちていくのが自然の摂理……紋次郎たちも例外になく、そのまま下へと落下する。

「フライ!」

紋次郎はとっさに浮遊の魔法を唱えた。そしてクロートスとラシーティスを両手に抱える──しかし、フライの魔法で浮遊するはずの体はそのままの勢いで下へと落ちていった。


普段飛んでいるアスターシアもなぜか一緒に落下している……どうやら今のこの状況は自然なことではないようだと紋次郎は思い始めていた。



落下の終着点は巨大なフロアーで、なぜか妙に明るい……そんな広いフロアーに声が響く……


「そうか、お前たちの目的はラシーティスだったのだな」

その声はダンジョンギルドのマスターである、ズオルドであった。

「不当に人を拘束するのはよくないよ、ダンジョンギルドのマスターさん」

そう紋次郎が言うと、ズオルドは怪訝そうにこう言い返した。

「人? それが人だとでも言うのか? それは物だぞ、便利な物だ──決して人などではない」

「人を道具としか見てないのかあんた……」

紋次郎の口調に珍しく怒りが含まれている。

「そうだな……便利であれば道具として見るが、使い物にならん奴はゴミにしか見えん」

それは温厚な紋次郎を怒らせるには十分の言葉であった。

「ふざけるな! 人はどんなに不器用でも、決してゴミなんかじゃない!」


「ふっ……まあ、そんなことはどうでもいい、そろそろ終わりにしようじゃないか……マスター紋次郎……随分と私たちの邪魔をしてくれたようだね……それは死によって償って貰うよ」


ズオルドはそう言うと片手を上にあげた……すると彼の後方からぬぬぬと六つの巨大な影が現れた。


「きゃっ〜〜!」

黒い影の出現で、クロートスとラシーティスが同時に叫び声をあげる……アスターシアも震えて耳を塞いだ。

「どうした、アスターシア。クロートス、君達も何があった?」

一人状況がわからない紋次郎は慌てる。


「君はどうやらかなり鈍感な人間のようだな、紋次郎……ここにいるのは恐怖と死の象徴……圧倒的な力を持つ存在……君の仲間の反応が正しいのだよ」


確かに言い知れぬ力を目の前の六つの影に感じていたが、紋次郎にはそこまでの恐怖は感じていなかった。

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