第237話 帰宅から帰宅

紋次郎には懐かしく見慣れた風景だった……事務机の上には使い古されたモニターとデスクトップのパソコン……壁には大きな棚並べられ、そこには沢山の資料が陳列されている……部屋の隅にはいつもお世話になっていたウォーターサーバーが置かれていて、隣には残業の必需品であるコーヒーメーカーいつものように存在した……


「日本に戻ってきた……」

そこは紋次郎の職場であった……窓から外を見ると暗い……壁掛けの時計を見ると針は1時を指していた……おそらく深夜の1時なんだろう……

「そうだ、日付は……」

紋次郎はパソコンを立ち上げ、現在の日付を確認した……驚くことに、あの日、あの世界に転移した日付と同じであった。


今まで長い夢でも見ていたんだろうか……そう一瞬思ったが、自分の姿を見て、あの世界での生活が夢や妄想ではなかったのだと確信する──


う……困ったな……この格好じゃ外にも出れないぞ……そう思ったが、ロッカーに徹夜の時の為にと置いている衣服があるのを思い出す。それに着替え、鎧や剣はバックに入れた──バックに入りきらず、剣の柄が飛び出しているが他に入れる物もないので諦めた。


会社を出て、電車も動いていない時間だったのでタクシーに乗ると帰宅に着く……家の近くのコンビニに立ち寄り、久しぶりに見る日本の商品に興奮して、どんどんカゴに入れていく──


紋次郎は何年振りかに帰宅した──家は紋次郎が転移した日と変わらず迎えてくれる。


家についてソファーに横になると、どっと疲れが押し寄せてくる──目を閉じて休んでいると、深い眠りへと落ちていった────……



もん…………もんじ……ろ……もんじろう…………紋次郎!


「アスターシア!」

妖精王の声で飛び起きた紋次郎は周りを見渡す……自分の部屋の見知った光景だが、強烈な違和感を感じていた……


「違う! 俺はここにいてはダメだ……戻らないと……」


仲間の状況を思い出し、紋次郎はあの場へ戻ることを考えた。しかし、行きはあのダンジョンマスターに運命召喚で呼ばれただけで、自分の意思であの世界に行く方法がわからない。


どうにかできないかと考えるがやはり答えは見つからなかった……

「もう……神頼みしかないな……」

何気なく言った独り言だったが……それで自分が神に頼める事を思い出す。


女神ラミュシャよ……女神ラミュシャよ……聞こえますか……


紋次郎は強く念じた……


「聞こえますよ紋次郎……随分と遠くにいるようですね……」

「元の世界に戻ってきてしまったんです……そちらの世界へ戻りたいのですがお力をお貸しいただけませんか」

「……ごめんなさい……それはできません……私たち天位の神は下界への干渉を制限されているのです……下界へあなたを転移することはできません」

「そうですか……」

全ての望みが絶たれたように感じた……もう手はない……

「でも……下界でない場所へならあなたを呼ぶことはできます……」

ラミュシャの言葉に希望を見た紋次郎は表情を明るくする。

「ど……どこですか、下界じゃない場所って!」

はざまと呼ばれる場所です……そこからなら自力で下界へ行くこともできるでしょう……」


「ならばそこへ俺は転移してください!」

「……いいでしょう……しかし、そこは恐ろしく危険な場所……無数の邪神や魔神が跋扈している地獄です……人間のあなたが行けば生きて帰れる保証はありませんがいいのですか」

「構いません……もうそれしか方法がないようですから……戻って仲間を助けないと……」

「ああ……なんと尊い心ですか……私の寵愛を与えたのは間違いではなかったようですね……わかりました、それでは転移しましょう」

「あっ、ちょっと待ってもらっていいですか」

そう言って紋次郎は鎧や剣を装備する、そして大きめのバックパックにこちらの世界の品を入れるだけ入れて背中に背負った。


「準備OKです、お願いします!」

「はい……それでは転移しましょう……」


目の前がユラユラと揺れ始め……視界がどんどん暗くなっていった──

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迷宮主の憂鬱 RYOMA @RyomaRyoma

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