第223話 敵の姿
「いい、ダンジョンギルドに表立って喧嘩売るのは最終手段だから。できるだけ気づかれずに、クロートスのお姉さんを救出するように心がけて」
情報収集に出かける仲間たちに、言い聞かせるようにそうリンスが言った。
俺たちは、ダンジョンギルドを探る為に、ダンジョンギルドの本部がある、都市ラームレブカへとやってきていた。もちろんダンジョンの営業もあるので、全員でくるわけにもいかなく、なんとなく情報収集に適しているだろう少数でやってきていた。
メンバーは、リンス、クロートス、スフィルド、ポーズ、アルティ、マゴイット、アスターシアの七人である。
まずは噂話レベルでいいので、なるべく多くの情報を得るために、二手に分かれて酒場をめぐることになった。
俺は、リンスとクロートス、スフィルドと一緒に、なかなか繁盛している一軒の酒場を訪ねた。そこで、何気なくダンジョンギルドの話を聞いてみた。
「何、ダンジョンギルドの評判だと・・そんなの悪いに決まってるじゃねえか、あいつらはな、このラームレブカが自分たちの力で大きくなったと思ってるんだよ。人を上から見やがって・・そもそもこの都市はキュエール族が作ったもんで・・」
「ダンジョンギルド? 中央にある、あの大きな建物のところよね。特に何も思ったことないけど・・職員はここに飲みにはくるけどね・・」
「ダンジョンギルドについて聞きたいだと・・俺はそこの職員だけど・・」
何人か話を聞いていると、ダンジョンギルドの職員を見つけた。なるべく変な刺激を与えなように、情報を聞き出すことにした。
「そうだな。ダンジョンギルドの運営は、ほとんど評議会が決めてるからな、個人で変な不正はできないと思うぞ」
「それはダンジョンギルドのマスターにも言えますか」
「何、ズオルドさんのことを言ってるのか・・・確かに、マスターであれば多少の無理は出来ると思うが・・あの清廉潔白な御仁が悪事を働くとは思えないな・・」
ダンジョンギルドのマスターであるズオルドの評判はかなり良い。この後に何人かに話を聞いたけど、悪い噂は聞かない。クロートスのお姉さんの件は、ズオルドは関係ないかもしれないな・・
そんなダンジョンギルドの話を聞いている紋次郎たちを、少し遠目で見ている人間がいた。それは二人組で、顔を半分フードで隠している。紋次郎たちの話の内容や、その容姿、人数などを確認すると、酒場を後にしていた。
その二人組のことは、スフィルドが気がついていて、後で紋次郎に伝えてきた。
「ダンジョンギルドの話を聞いている俺たちを見てたんだ。何者だろ、そいつら」
しかし、その話を聞いていたリンスは何やら思いついたようにこう話す。
「それは良い機会かもしれないですね」
「え、どういう意味?」
「ダンジョンギルドの話を聞いていて、気にする連中なんて決まってるじゃないですか」
「あっ・・なるほど・・」
こうして、俺たちは、酒場で宴会をすることにした。なかなか派手に飲み食いをいして、目立った後に、酔ってフラフラの状態で、夜道を宿へ向かって歩き出した。それは闇討ちに会うにはまたとない隙を、どこかで俺たちを見ている連中に与える。
案の定、複数の気配が周りに現れる。それはかなりの殺気を纏っていて、確実に命を狙っていると思われた。
目の前に現れたのはアサシンスタイルの黒ずくめの者たちであった。人数は五人。さらに後ろにも複数の気配を感じる。多分十人以上の手練れが、俺たちの命を取りに来たみたいだ。
彼らの不運は、それが完全な罠であり、自分の力量に見合った仕事ではないという現実を知らないことであった。
目の前に立ちふさがった者に、ダメ元で話しかける。
「多分答えてくれないと思うけど、何者?」
「貴様たちは、調べてはいけないことを調べているようだな・・それは命を失う残念なことだ」
そう言うと、短刀を抜き構える。一瞬、彼らの周りに閃光が走ったと思った瞬間、目の前の五人は崩れ落ちる。崩れ落ちた背後には、腕をポキポキと鳴らしているマゴイットが立っていた。
「弱っちいやつやな。そんなんでウチらを襲うって百年早いで」
そして、さらに周りの敵の気配がどんどん無くなっていく。周りの敵を片付けた、ポーズやアルティが、潜んでいた敵をポイポイ放り投げて、一箇所に山積みにした。
ピクピク動いている一人の男の目を覚まして、改めて、何者か尋ねる。
「それでお前たちは何者なんだ? 言わないと死より怖い目に会うけど・・」
「ふっ・・なんだそれは・・それで脅しているつもりか?」
アルティのネクロマンシーには、精神に直接作用するテラーと言う状態異常魔法がある。それは訓練して恐怖を克服している者にも有効なもので、並の精神では耐えることもできない。
テラーを受けた襲撃者は、目を見開いて恐怖に震える。一時的にテラーを解いて、もう一度話を聞いた。
「で、何か思い出したかな?」
「な・・・何でも言う・・・何でも言うから勘弁してくれ・・・」
「お前たちは何者だ?」
「俺たちはメキド所属のアサシンだ・・・」
「メキドとは何だ」
「メキドは、ウルボォール教の実行組織だ・・・」
「ウルボォール教って・・」
俺がその聞きなれない言葉を繰り返すと、リンスが説明してくれた。
「ウルボォール教は一時、大陸全土に広まったカルトな宗教です。まだ残ってたんですね・・」
「それで、どうして俺たちを襲ったんだ」
「・・・それは・・・」
「言わないともう一度・・・」
「わ・・わかった・・言うから・・それはダンジョンギルドのことを探っていたからだ」
「話がわからないな、なぜお前たちが、ダンジョンギルドのことで動く必要がある」
「それは・・・ダンジョンギルドのマスターが、メキドの総帥だからだ・・」
「えええ!!」
さすがに驚いた。まさかそんな展開になるとは考えもしていなかった。しかし、そうなると話はつながる。普段は善人面しているが、ダンジョンギルドのマスターであるズオルドが、クロートスの姉を誘拐している黒幕ということで間違いなさそうであった。
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