第222話 悪意の中

ダンジョンギルドのギルドマスターであるズオルドは、ラームレブカの郊外にある、廃れた廃墟の城に足を運んでいた。もちろんここに来るまでの道のり、尾行など追跡者を警戒してやっきている。


この廃墟の城の地下には、ダンジョンギルドの暗部である、メキドと呼ばれる組織の本部があった。


「ズオルド様、グランジェ様がおいでになっています」

「そうか・・」

出迎えた部下に、そう報告されて短く返事をする。


自室に行くと、そこに、魔導士風の男が座っていた。

「遅かったなズオルド」

「お前と違って、私は表の顔もある。二倍の人生を送っている忙しさは説明できんよ」


「だったらダンジョンギルドのマスターなんぞ辞めれば良いだろうに」

「それが役に立つこともある。それより、そんなことを言いに来たのかお前は、今日は何の用なのだ」

グランジェは紙を取り出し、それをズオルドに渡しながらこう言った。

「エミロの担当の素材はほとんど見つけた。ただ、一つだけ見つからん素材があってな」

「知っている。お前、マグル紙片を手に入れる為に、東部の貴族の家を襲って、家の者を皆殺しにしただろ。さすがにあれは目立ちすぎだぞ」

「それが俺のやり方だ」

「まあ良い。それで見つからない素材とは何だ」

「腐王の石だ」

「神話級の素材だな」

「お前の所に、どんなものも見つける女がいると聞いている。そいつに腐王の石のありかを聞いてくれ」

「なるほど。だが、話はそう簡単ではないぞ」

「何をもったいぶっている。俺の必要としている物は、お前の必要な物でもあるんだぞ」

「わかっている。だが、その女の力を使うには、多少の条件があってな・・」

「それは何だ?」

「触媒としてメビウス宝石が必要なのだ。丁度切らしていて、どこかで手に入れないとダメだ」

「メビウス宝石か・・そこらへんで売ってる素材では無いな・・わかった、それは俺が手に入れてくる」

「また、大勢殺すのか・・」

「そうなるかもしれんな」


そう言ってグランジェは部屋を出て行った。それを見届けると、ズオルドも部屋を出て、本部内のどこかへ移動する。


ズオルドが、やってきたのは、硬い鋼鉄で囲まれた牢獄であった。その中には、エルフのような風貌の若い女性が座っていた。彼女は、ズオルドの姿を見ると、少し怒った表情でこう言い放つ。

「ズオルド・・私をここから出して・・もう十分、あなたの望みを叶えたでしょ」

「ラシーティス・・それはできない。まだ、お前には利用する価値がある」

「勝手なことを・・・」


ラシーティスの閉じ込められている、牢の周りには、明らかに人間ではない、異様な気配を持った、10人の兵士が見張っていた。厳重な守りの中、閉じ込められているラシーティスは、離れ離れになっている妹のことを思っていた。


「なんだと! ダンジョンギルドが少女を誘拐してるだと!」

「声が大きいよポーズ」


「さすがに、何かの間違いじゃないの、いくら何でもあの、ダンジョンギルドが・・」

「いや、俺は彼女を信じるよ」

「紋次郎様が信じるのなら、ここにいる全員が信じます」

リンスがそう言うと、みんな頷いて同意する。


「それじゃ、救出作戦を考えようぜ」

信じると話が決まったら、ウジウジと考えているのは性に合わないのか、ポーズが積極的に作戦を練り始める。


「まず、どこに捕まっているのか調べないといけないですね」

「そうだな。まさか、ダンジョンギルドの本部に捕まってたりはしないだろうし・・」

「スフィルド。見えるかい?」

そう、俺が目のいい神鳥に聞くと、彼女はどこか遠くを見るように何かを探す。そして、残念そうにこう答えた。

「ダメですね・・多分、何かの結界に守られている可能性があります」

「神の眼も眩ますほどの結界ですか・・やはり厄介な相手ですね」

そんな不穏な感じなんだけど、実際、みんなそんなに悲観的ではなかった。


「それじゃ、まずは情報収集だね」

紋次郎がそう言うと、皆、発言し始める。

「そうですね。何組かで分かれて、情報収集に行きましょうか」

「でも、表立って聞き回れないよ」

「隠れて、コソコソ聞き回って・・何かすげー難しいな」

「ダンジョンギルドの内部に誰か入り込んではどうかな」

「何か、ゲームみたいで楽しいね」


「どうして、ダンジョンギルドに喧嘩売ろうとしているのに、そんなに楽しそうなんですか、あなたたちは・・」

リンスがさすがに呆れてそう言う。

「あれやな、相手が強い奴の方が、喧嘩も楽しいっちゅうやつやな」

「そんなの、あんただけでしょうが」

マゴイットの言葉に、アルティがツッコミを入れる。


紋次郎たちが、自分の姉のことで、必死に動いてくれているのを見て、クロートスは何か複雑な感情でそれを見守っていた。自分でも何かしないといけないと思いながらも、彼らの、家族のような関係に入れず、その様子を見ているしかできなかった。

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