第216話 新ダンジョン開店

ダンジョンの前には、すでに長い行列ができていた。やはり、ダンジョンギルドに出していた広告の内容が良かったようである。


「少し早いけど、営業、始めようか」

そう俺が提案すると、リンスたちも同意してくれた。


「みなさん。お待たせしました。ただいまより、ダンジョンの営業を開始ます。十分に宝箱は用意してます、慌てず、走らず、落ち着いて入場してください」


そう注意するけど、城の扉を開けた瞬間、みんな走って中に入っていく。入って数秒で、ゴブリンの槍で殺される初心者冒険者もいたり、なかなか波乱の幕開けである。


営業を開始して、すぐに事務所の方にお客さんがやってきた。

「紋次郎くん! 新しいダンジョンを開くのなら、私に声をかけてくれよ」

それはランティークであった。どうも新ダンジョンのお祝いに駆けつけてくれたようだ。変な男だけど、やっぱりいい奴ではある。


「ランティークさん。わざわざ、ご挨拶にありがとうございます」

「そうだ、紋次郎くん。これはつまるものだけど、お祝いだよ」


そう、手渡してくれたのは小さな彫像であった。どうもランティークがモデルのようで、ポーズも気持ち悪く、正直嬉しくなかった。


「ははははっ、紋次郎くん。私ほどの男のお祝いが、そんな小さな彫像ってのが不思議で仕方ないようだね! 安心したまえ! その彫像の素材に秘密があるんだよ! なんだと思う? ねえ、なんだと思う? 当ててごらん、ほら、オから始まるあれだよ!」

「オリハルコン・・」

俺がそう言うの聞くと、オーバーなアクションでランティークは、こう答える。

「そう! オリハルコンでできてるんだよ。すごいでしょ、初めて見るでしょオリハルコン。高いからね、貴重だからね、まあ、その量でも相当な値段だけど、親友の君になら惜しくはないよ!」


しかし、そこまで言い放ったランティークに、黒服の一人が耳打ちする。

「え? あそこに山のようにある素材がオリハルコンだって? 嘘でしょ、間違いないって。いや・・オリハルコン高いよ・・紋次郎くん、あんなに持ってるの、だったら、あんなちょっとのオリハルコンをお祝いってなんか寒くない? やっぱり寒の? どうするの、もう渡しちゃったよ・・誤魔化せって無理でしょ? なんともならないって、すごいもったいぶってオリハルコンって言ったんだよ・・・オから始まるとかなんとか・・すごいカッコ悪いじゃん・・」


ランティークは紋次郎に向き直ると、こう引きつった笑顔でこう言う。

「それでは、紋次郎くん。私は急用があるのを思い出してね、申し訳ないけど帰るね。それではまた会おう!」


そう言って逃げるように帰っていた。確かにオリハルコンは一杯あるので、アレだけど、気持ちだけでありがたい。


紋次郎たちは、事務所に多数設置している魔法水晶の映像を見て、ダンジョン内の様子を確認していた。ほんとんどのパーティーが、一階層、二階層をウロウロしていたのだけど、一組だけ、三階層のボスにまで迫っていた。


「なかなか優秀なパーティーのようですね」

リンスは言うように、そのパーティーは他と違って、個人技も連携も、一枚上手といった感じである。


三階層のボスは、ウェザー・ナーガという竜女のモンスターで、推定レベルは130と並の冒険者では歯が立たない強敵である。



「グロリア、あれは炎の魔法を使うぞ!」

グロリアと呼ばれたヒューマンの女ビショップは、わかっていると言わんばかりに火炎耐性の魔法を仲間へと付与する。それと同時に、竜女が唸り声を上げる。竜巻のように炎が渦巻き、それがパーティーに襲いかかる。


おそらく火炎耐性の魔法が間に合わなければ、この炎でパーティーは致命的なダメージを受けただろう。


「ダンデ! 今だ、間合いを詰めろ!」

ドワーフにしては大柄な、全身筋肉の戦士が、それを聞いて、竜女に接近する。そして、その体の何倍もある巨大な斧を振りかざして攻撃を繰り出した。


竜女は物理障壁を自分の周りに張り巡らした。障壁と斧が激しくぶつかり、光の閃光が走る。ドワーフの斧は、障壁によって弾き返されたが、障壁も赤く光り、その効果を弱めていた。


そこへ、このパーティーのリーダーらしい男のヒューマンが、その騎士の風貌に見あった、赤いランスで、竜女に攻撃を加える。障壁は粉々に砕け散り、そのランスの槍先は、竜女の体を貫く。甲高い悲鳴をあげて、竜女が悶える。その竜女の悲鳴は、微動の衝撃波であった。四人の冒険者は耳を塞ぎ、その声の攻撃から身を守ろうとする。


「ゾーサ、竜女は氷結魔法に弱い・・」

黒魔導士には珍しい、白いローブを羽織ったエルフの女が、すぐにその声に反応する。彼女の降った杖から、光り輝く氷の粒が無数に渦となって竜女に襲いかかる。竜女はその魔法を受けると、明らかに体が固まり、その動きが鈍くなる。


そこへ、ドワーフの戦士と、ヒューマンの騎士が走り寄って攻撃を加えた。竜女は強烈なランスの攻撃と、激しい斧の攻撃で粉砕され、断末魔をあげてその場に崩れ落ちた。


竜女はやはりこのフロアーのボスのようで、部屋の真ん中の魔法陣に、金色の宝箱が現れる。その宝箱に、四人の冒険者は笑顔で集まる。


「早く開けてよ、マジュック!」

マジュックと呼ばれた騎士は、こう答える。

「慌てんなよ。祈りながらゆっくり開くぞ。さぁ、来いよフィフス級以上の魔法装備!」


開いた宝箱の中には、ブルーメタリックの鎧が入っていた。強力そうなその装備を見て、マジュックたちは感嘆の声を漏らす。

「グロリア! 鑑定だ」

「任せて」

そう言うと、グロリアは鑑識眼の魔法を唱える。そして、その鎧の性能を見て、喜んでみんなに伝えた。

「すごい・・レーヴェン級のミスリルアーマーよこれ」

「やった大当たりだ!」


三階層のボス報酬で、レーヴェン級の装備が出る確率は激低である。まさに大当たりと言っていいほどの報酬であった。


それを見ていた紋次郎たちは複雑な表情で見ていた。

「おいおい、いきなりレーヴェン級が出ちゃったぞ」

ポーズが言うように、三階層で出る報酬にしては良すぎるように思う。

「だから言ったでしょ、三階層の報酬で、底確率でもレーヴェン級はやりすぎだって」

デナトスにそう言われるが、俺はこれでいいと思っていた。やっぱり、この想像を超えるドロップがあるって現実が重要だと思うんだよな。たまたま一発目で出ちゃったけど、普通はそんなに簡単に出ないような設定になってるし、みんなを説得して、夢のドロップはそのままにすることにした。


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