第209話 猫の王様

次に見つけたのは、ティカンターと呼ばれる魔獣系のモンスターだった。だけど、魔獣をテイムすることはできないし、説得するにも言葉が通じない。これは普通に退治して先に進むかなと思っていると、俺を心配してか、一緒についてきていたケルベロスのダッシュが、トコトコとティカンターに近づくと、一声唸る。それを聞いたティカンターは震えながらその場に跪く。どうやらこちらに服従の意思を示しているようである。


俺はダッシュの首元を撫でながらこう言葉をかける。

「ダッシュ。説得してくれたのか、ありがとう」


ダッシュは俺の言うことが、どうも理解出来るようである。ティカンターにこちらの意思を伝えると、どうやら通訳してくれたみたいだ。黙って俺たちに従うようについてきた。


俺たちはもっと強力なモンスターを求めて、ダンジョンのさらに奥へ向かう。


そして、そのレアなモンスターに出会った。


「すごい・・ケットシーですよ・・」

それは騎士風の服を着た猫であった。しかも、アスターシアが驚きで説明する。

「しかもあれは普通のケットシーじゃありませんわ。目の色が青いですし、毛の色が金色です。おそらくロイヤル・ケットシーじゃないかと思いますわ」


「紋次郎様、ケットシーは人語を解します、どうぞ説得してください」

「あ・・うん」

どうも猫を見ると、ニャン太を思い出すので心が痛い・・だけど、これも仕事である、俺はケットシーに話しかけた。


「どうも、コンバンワ」

「・・・なんだ、人間。僕に何かようなのか、暇で仕方ないなら、殺してあげようか?」

それを聞いた俺は、何か無性に腹立った。ニャン太は俺にそんなことは言わない。気がつくと、ケットシーを捕まえて、その尻を何度も叩いていた。

「人間! 痛い、痛いよ! やめてくれよ!」

そう叫ぶが、腹が立ってる俺は、こう説教しながら、さらに強く叩く。

「そんな可愛い姿で、殺すとか簡単に言っちゃダメだ! 悪い子にはこうだ!」


ロイヤル・ケットシーのレベルは180くらいはある。それが何の抵抗もできずに尻を叩かれるこの状況に、理解ができない恐怖を感じているようであった。


ケットシーが泣き出すと、俺は尻を叩くのをやめた。

「痛いだろ・・・殺したらもっと痛いんだぞ・・だからそんな悪い事言っちゃダメだよ」

「ゴメンなさい・・もう言いません・・・」

十分反省しているので、俺はケットシーを許してあげた。そして本題に入る。

「どうかな、君も反省しているみたいだから、うちに来て働かないか?」

「はい。なんでも言う事聞きます。僕を好きにしてください」

どうも恐怖で支配してしまったようである。


仲間になったケットシーに、このダンジョンのモンスターの話を聞くと、さらに奥に、強力な魔神が住んでると情報を得た。そいつは乱暴な奴で、ケットシーたちはそいつに虐められているそうだ。


「それじゃ、それも捕獲しようか」

簡単にそう言うと、俺たちはケットシーの案内で、その場所へと向かった。


魔神がいたのは、広いフロアーであった。そのフロアーには魔神だけではなく、多くのモンスターがたむろしていた。

「・・・なんだケットシー・・その人間たちは何者だ・・・」

ケットシーは魔神が怖いのか、すぐに俺の後ろに隠れる。


「君に話があってきた。君の名を聞いていいかな」

「ふっ・・聞いて驚け、俺はアレイス・・戦いの魔神だ・・どうした、我が名を聞いて恐怖で震えておるのか」


「リンス、知ってる?」

「申し訳ありません・・ちょっと聞いたことがないです」

「私も知りませんわ」

「私も知らぬぞ」

「僕も知らないな・・」

「そうですね、私も知りません・・」

「リュヴァ・・知らない」

ここにいる全員が知らないので、おそらくマニアックな魔神のようである。だけど、かなりの強い闘気を持っているので、実力はそこそこありそうであった。

「レベル220ってとこでしょうか・・」

「そのレベルだと、超級階層のボスか、地獄級階層の雑魚に丁度いいね」


自分を無視されているのが気に入らないのか、自分を知らないと言われたのが気に入らないのか、どうもアレイスはお怒りのようである。

「どうやら人間、死にたいようだな・・・この俺を雑魚呼ばわりするとは・・」


「まあ、いいや、君は戦いの魔神なんだよね」

「ふっ、だからそう言っているだろ」

「だったら、戦いで負けたら屈辱だよね」

「ははははっ、ありえん! この俺が戦いで負けるなど、考えられんことだ」

「だったら、勝負して、俺が勝ったら、うちのスタッフになってくれるか」

「ふっ、いいだろう。スタッフでも下僕でもなんでもなってやる」


勝負は圧倒的であった。紋次郎は剣を使うこともなく、素手で勝負する。魔神は強力な攻撃魔法なども使用したが、紋次郎は簡単にそれを弾き返し、拳で腹を集中的に殴る。かなりのダメージを受けたのか、最後はフラフラと崩れ落ちていった。


「信じられん強さだ・・・俺の負けだ・・」

約束通り、魔神アレイスにはうちのスタッフになってもらった。後、おまけではないんだけど、そこにいたモンスターたちが、俺の戦いに感服したのか、一緒にスタッフになってくれると言ってくれた。まとめて20体ほど高レベルのモンスターを確保できたので、これはかなりの棚ぼたである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る