第199話 混沌なる面接
「え・・と君は、ゴブリンに見えるけど、人語は大丈夫?」
ゴブリンの男(?)は、なんとかその言葉を理解したようで、こう答えた。
「だ・・だいじょぶ・・わかる、少し人のことば」
「あの、今回はレベル120以上の応募条件があったんだけど、君はゴブリンだよね、レベルは5、6くらいじゃないの?」
「おれ・・ゴブリンだけど、レベル120はあると思う・・すごく強い、みんなすごく強いって言ってる」
「いや・・強いって言ってもね・・」
「おれ・・オークより強い・・多分120以上だと思う」
オークでもレベル10前後くらいである。さすがに無理あるかなと思っていたんだけど、健気に自分をアピール姿を見ていると、不合格にするのが可哀想になってきた。
「え・・と、君を雇うとしたら、ダンジョンモンスターとしてお願いすることになると思う。だから給与も、求人に書いてたものとは違う感じになるけど、それでもいいかい?」
「おう。俺、ダンジョンモンスターでかんばる。強いから、冒険者殺しまくる」
うん。まあ、ダンジョンの一階層とかのモンスターで使ってみような。そう思って、ゴブリンに面接の合格を告げると、嬉しそうに帰って行った。
「おい、アホ主・・あれを合格にしてどうする。運営の人手が足らないんだぞ。ゴブリンなんか雇ってどうするんだよ」
「まあ、なんか可哀想で・・給与は3食と月、100ゴルドくらいの給与で考えてるから・・」
「たく・・・次はちゃんと面接しろよ」
ポーズの意見はもっともである、俺は落ち着いて、次の人を部屋に呼ぶようにファミュに伝えた。
次の人は人間ではあるのだけど、どう見てもホームレスの人だった。ボロボロの服に、ボサボサの髪、だらしなく伸ばしたヒゲがまたその生活を物語っていた。
「え・・と、君は冒険者かなんかですか・・」
「・・・僕は戦士です、レベルは160で、ファイヤードラゴンをソロで倒したことがあります。前からダンジョン運営に興味があって、この度、応募しました」
ホームレスがそう言うと、スフィルドが小声で俺に伝える。
「全部嘘です。レベルどころか冒険者の加護も受けてないです」
う・・ん、なるほど・・さすがにこれは・・
「とにかく何でもやります。罠の設置や、冒険者の死体運びでも、何でもやります、お願いです。雇ってください。でないと息子が・・息子が・・」
「父ちゃん!!」
そう言って部屋に子供が入ってきた。目の前のホームレスと同じように、ボロボロの服と、ボサボサの髪、顔も薄汚れていた。
「ジロー、面接会場に入っちゃダメだろ!」
「でも、父ちゃん、俺・・応援したくて、だってこれに合格したら、飯が腹一杯食えるんだろ? 俺、飯を腹一杯食うのが夢だから・・・」
まじか・・まじのやつなのか・・だが、ここは心を鬼にして、彼に不合格を言わないといけない・・・
「え・・とですね・・」
そう言おうとした時、部屋に、今度はボロボロの服を着た女性が入ってきた。
「あんた!」
「お前! どうして、ジローをちゃんと見てないんだ」
「だって・・この面接に落ちたらもう・・私たち、死ぬしかないじゃない・・もう三日も何も食べてないし・・誰も助けてもくれないわ・・あ・・最後においしいもの・・食べたかったわ・・・」
「あー! こんちくしょー! 合格です、しかも飯も食わせます。ソォード、何か作ってあげて」
ホームレスの親子は、嬉しそうにソォードについていく。
「おい・・いい加減にしろよアホ主・・何の為の面接だ・・何でも合格にしてんじゃねえぞ!」
ポーズの言う通りだけど・・さすがにあれは不合格にできない。気を取り直して、次の人を呼んだ。
「俺はビュルド。アサシンで・・レベルは140だ」
おっ、何かまともそうな人だ、どうもレベルも嘘では無いようなので期待が持てる。
「こちらに応募した動機は何ですか」
そう聞くと、彼は冷たい目でこう言ってきた。
「人を多く殺せそうだからだ・・俺は毎日人を殺したいんだ。飯を食うより人を殺すのが好きなんだ」
あ・・やばい人だ・・これはさすがに不合格にするしか無いかな・・・でも待てよ、ダンジョンでヒューマンタイプのモンスターとかいるよな・・運営で雇うのは難しいけど、モンスターとしてならいいのかな・・と考えたけど・・そういえばダンジョン法で冒険者が冒険者攻撃してはいけないんじゃなかったけ・・気になってリンスに確認したら、アサシンは特殊ジョブで、申請すれば、モンスター登録が可能だそうだ。
「それじゃ、モンスターとしてなら雇うけど、それでいい?」
「人が殺せるなら、それでよかろう」
合格を告げると、アサシンは、愛用の得物を怪しい目で眺めながら部屋を出て行った。その直後に、ポーズの怒声が飛んでくる。
「こらー! ボケ主! 何殺人鬼雇ってんだよ! 全員合格にする気じゃねえだろうな!」
「何言ってんだポーズ。使えなさそうな人は、ちゃんと不合格にするよ」
たく・・とブツブツ言ってるポーズをとりあえず置いておいて、次の人を呼んだ。次の人は、足元もおぼつかない、ヨボヨボのおばあちゃんであった。
「え・・と、あなたはどうしてここに応募したんですか」
俺がそう聞くと、おばあちゃんは、うんうんと頷いてこう答える。
「ワシは甘い物が好きじゃ、歯が弱いから硬い物は嫌いじゃ」
どうやらうまく伝わらなかったようである、仕方ないのでもう一度、大きな声でゆっくり聞く。
「あ・な・たは、ど・う・し・て・ここに、応募・した・ん・で・すか!」
おばあちゃんはうんうんと頷きながら、こう答える。
「爺さんは10年前に死んでもうたよ。あんちゃんは爺さんの知り合いか?」
ダメだ、どうやら耳が遠いようだ。対話ができないんじゃ、さすがに難しいよな・・これはさすがに不合格と言おうとしたら、なぜかポーズがこう言葉を発する。
「合格だ、ばーちゃん。仕事内容は、お茶汲みと掃除だ。よろしくな」
「まあ、まあ、それじゃ、よろしくお願いしますね」
あっ、それは聞こえてるのね。
「てか、なんだよポーズ! 人に散々文句言っといて」
「仕方ねーだろ! 俺はその・・・」
「何だよ」
「ばーちゃん子なんだよ・・」
もう言葉にならない。それにしてもやばいな、このままいくと全員合格にしてしまいそうな勢いだ。
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