第181話 思わぬ援軍
敵は砦を囲むように陣形を組んでいた。パーシルの巨人兵も、先ほどはバラバラに砦を攻撃してきていたが、五人一組で連携して進軍してきている。個々の戦闘力が高い敵が、組織的な攻撃をしてくるのは脅威であった。
スフィルドはすぐに先ほどとは攻撃の質が違うことに気がついた。アースロッドもそれは感じていて、兵たちに注意を促す。
「来るぞ・・皆、連携を忘れるな、この攻撃を凌げば活路を見出せる」
兵たちは王のその撃に声を出して答える。
空の敵は、飛兵隊とスフィルド、パーシルの巨人兵は紋次郎とアースロッド、それ以外の敵を近衛兵と砦の兵で迎え撃つ。
巨人兵、二体による攻撃が紋次郎を襲う。巨体から繰り出される強力で早いハンマーのような武器による攻撃が、紋次郎の頬をかする。小さな傷だが、そこから赤い血がゆっくり流れ出す。
痛みを気にする余裕はなく、紋次郎はすぐに巨人兵に反撃する。剣で一体を斬りつけ、もう一体は至近距離から単体用の爆裂魔法をお見舞いする。斬られた巨人兵はその場で崩れ落ち、魔法を受けた巨人兵は後ろに吹き飛ばされる。
紋次郎が二体の巨人兵と対峙している時、アースロッドは三体の巨人兵に囲まれていた。後ろからつかみ掛かってきた巨人兵を避けると、前にいる敵を、剣撃の技で攻撃する。それを受けた巨人兵は、巨大な爪で切り裂かれたような傷を受けて、後ろへ倒れこむ。続けて、後ろからつかみ掛かってきた敵を、疾風の速さの連続の突き技で、一瞬で穴だらけにした。
だが、そんなアースロッドも三体目の巨人兵の動きには対応できていなかった。巨人兵の持つ、巨大な矛がアースロッドの体を切り裂くために、水平に薙ぎ払われた。その矛がアースロッドの体に到達する寸前、矛は高い金属音を鳴らして、弾き返される。
アースロッドの動きを見ていた紋次郎が、危険を察知してその矛を弾き返したのである。矛を弾き返された巨人兵を、アースロッドは、剣に炎の力を宿わせて斬り裂いた。そして紋次郎を見ると、小さく頷いて礼を伝えた。
最初の一組目を片付けた紋次郎とアースロッドであったが、休んでいる余裕はなかった。見ると今度は二組十体の巨人兵が、紋次郎とアースロッドを囲むように近づいてきていた。
砦の城壁に、パーシルの巨人兵が到達したタイミングで、空からは黒い大きな影がいくつも近づいてきていた。それを見たスフィルドは眉を細める。
「一人なら問題ないけど・・・」
スフィルドは思わずそう呟いていた。飛来してきているのはおそらく黒飛龍・・それが厄介な数やってきている。黒飛龍など、スフィルド一人なら何体来ようが恐る敵ではないのだが、仲間の飛兵隊を守りながらとなると話が違う。
スフィルドは周りの味方に支援を行いながら、黒飛龍を一体ずつ片付けていく。だが、さすがに全ては対応できず、味方に少しずつ被害が出始めていた。
攻撃しようと、長い槍を構える飛兵隊の一人が、黒飛龍の黒い炎に無残に焼かれる。城壁では、壁を四足歩行で、まるで平面のように登ってくるトカゲの姿をした敵の兵が、城壁を防御する近衛兵たちに襲いかかる。
味方の被害が、最初の攻撃とは比較にならないくらい大きい。このままでは壊滅するのも時間の問題かと思われた。
しかし、敵の攻勢はこれだけではなかった。押し寄せてくる敵影の後ろから、パーシルの巨人兵よりも遥かに大きな影が近づいていた。歩くたびにその周辺に地響きというより、もはや地震と言った方が近い表現だと思う巨大な揺れが、紋次郎たちのいる砦へと向かってくる。さすがにその気配に気づき、紋次郎たちはその巨大な姿を直視する。
「パーシルの魔神兵・・・あんなものまで・・」
スフィルドは巨大な敵を目の当たりにして、思わずその名を口にする。パーシルの巨人兵の完全上位互換とも言える存在であった。それが今、城壁のすぐ近くまで迫っていた。
砦の城壁の壁より大きなその巨体が、砦のすぐ前にたどり着いた。スフィルドは黒飛龍に囲まれ、紋次郎とアースロッドは巨人兵と対峙していた。もはやこの巨大な破壊と殺戮の象徴を止める術は無く、絶望的な状況に思われた。
魔神兵の両腕が真上に振り上げられられる。頭上で組んだ両腕に、黄色いオーラが纏わり付く。それは今から繰り出される攻撃を強化する為の闘気であった。その巨大な拳と、オーラの強さを見ると、その一撃で砦の大部分を破壊するくらいの威力は軽くあるように見える。
そして、闘気を纏った魔神兵のその両腕が振り下ろされる。誰もが、無断に破壊される城壁の姿を想像したが、破壊されたのは魔神兵の腕の方であった。光の線が、魔神兵の腕に直撃したように見えた。実際には、信じられない高速で、頭上から飛来した何者かに、強化された腕ごと吹き飛ばされていた。
その驚異的なスピードで飛来してきた者は、城壁の一番高い高台の上に一度着地すると、もう一度跳躍して、魔神兵の体へと必殺の攻撃を繰り出した。魔神兵は無残にも粉々に粉砕されて吹き飛ばされる。
巨大な敵を軽く葬った者は、紋次郎の隣に飛んできて、頭を下げて紋次郎との主従関係を示した。
「マスター。ご無事で何よりです」
そう声をかけられた紋次郎は、少し前に逸れた仲間の姿を見て返事を返す。
「アテナ! どうして君がここに・・」
「私だけではありません。頭上をご覧ください」
紋次郎が上を見ると、上空で、攻撃態勢を取っている、知った三つの顔を見つけた。
「リリス! アスターシア! カリス!」
やっと紋次郎を見つけたと思ったら、なぜかどこかの軍と戦争みたいなことをしている。しかもどう見ても劣勢に見えた。これでは話にもならないのでとりあえず敵の軍を倒そうと話がまとまった四人であった。
「
アスターシアが唱えた、最強の支援魔法がリリスに付与される。今まで感じたことのない感覚に、夜の女神は快感にも似た感覚を感じていた。
今のこの私ならどんなこともできそう・・リリスは理想の魔法を唱え始めた。今までの自分には手の届かなかったその理想的魔法・・・優雅で美しく、そして破壊的な最強の魔法を・・・
「
ブファメの軍の中心の空間が歪んでいく。その歪みはどんどん大きくなり、やがてポリゴンが分裂するように空間が大粒な塊へと変化していく。その空間の粒は、少しづつ膨張していき、やがて大きく爆発する。一つの粒が爆発すると、周りの粒も連鎖して誘爆する。それは広範囲に広がり、膨大な数の敵が一瞬で消滅した。
カリスは自らの体に、人造闘気を発生させていた。それは青いオーラとなって、彼女の体を包み込む。高圧縮されたその闘気は、今にも爆発しそうなほど抑え込まれていた。カリスは空中から地上に向かって急降下する。そして敵の集まる場所の真ん中に、驚異的な勢いで地面に着地した。
巨大な隕石が落ちたような衝撃が、カリスの落ちた場所から広がっていく。着地した瞬間に、カリスの周り30mほどの敵はその熱と爆風で蒸発した。さらに100m以内の敵は体を原子分解され、500m以内の敵は、高熱の衝撃波で体をバラバラに粉砕されて焼かれた。
どこからともなく現れた援軍の驚異的な力を見て、アースロッドは言葉を失っていた。状況から見て、紋次郎の仲間のようだが一体何者なんだ・・アースロッドが疑問に思っている最中も、頼もしい援軍は敵軍を打ち減らしていっていた。
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