第180話 巨人兵
その巨体からは想像できないよう高い跳躍で、砦の直ぐ近くに一人の巨人兵は着地する。砦の兵が矢や手槍で攻撃するが、固く強固な巨人兵の肌を傷つけることはできない。
兵たちの武器の攻撃が通用しないよを見て、紋次郎は炎の閃光の魔法を唱えて攻撃した。しかし、強力な魔法攻撃が直撃したにもかかわらず、巨人兵は平然と砦をよじ登ってくる。
「パーシルの巨人兵に攻撃魔法は効果が薄いです。もとより高い魔法耐性に加えて、彼らは対魔法防具を装備しています。それに加えて再生力を持っているので、連続攻撃で少しずつダメージを蓄積させていくのも難しいかもしれません」
スフィルドの説明に、どう対処すればいいのか迷っていると、巨人兵が砦の城壁に手をかけてきた。それを見た紋次郎はとっさに動く。剣を構えて巨神兵の元へ跳躍した。
紋次郎はすでにターボを発動していた。空中で体をうねらせながら巨人兵に斬りかかった。紋次郎の一撃目の攻撃は、巨人兵の胸を横に切り裂く。巨人兵は想像もしていなかった衝撃を胸に受けて、思わず体を退け反らした。そこへ紋次郎のさらなる剣撃が、連続で繰り出される。
一瞬で数十手に及ぶ剣撃を巨人兵は体に受けた。強兵とされるこの巨人兵が肉片へと変えられていく姿を見て、敵も味方も言葉を失っていた。
「あの者は剣も使えるのか・・・」
アースロッドは、紋次郎が剣を持っているのは、その魔法発動の効果の為だけだと思い込んでいた。しかし、蓋を開ければ、自分と同等以上のその剣の技量に、素直に驚いていた。
紋次郎が最初の巨人兵を倒すと、すぐに次の巨人兵が城壁を登ってきていた。ターボで加速した紋次郎は、すぐに巨人兵に近づき懐に入る。そして下から突き上げるように剣で切りつけた。その一撃は強固であるはずの巨人兵の体を、腹から頭にかけて切り裂いた。
もはや紋次郎の強さを疑うものはこの戦場にはいなかった。味方はその姿を頼もしく思い、敵は恐怖と戦慄を蔓延させていた。
戦況を見ていたブファメ軍の司令官は、高い戦闘力を持っている敵の存在に眉をしかめる。さすがに戦力的に負けるとは考えていなかったが、想像以上の被害を覚悟していた。
「パーシルの巨人兵の部隊の攻撃と同時に、黒飛竜を何体か空から攻撃させろ」
ブファメ軍の司令官は、隣にいた副官にそう命じた。黒飛竜は、竜種としては知能はあまり高くないが、その空での戦闘力はレベル200以上と非常に高い。
紋次郎が四人目の巨人兵を倒すと、敵の動きに変化が起こった。先ほどまで数にものを言わせて、ただひたすら突っ込んできていた敵の侵攻が止まった。敵が攻撃を諦めたとは思えない。おそらく、嵐の前の静けさであろう・・
敵の攻撃が止んで、砦では、怪我人の手当てや休息を取っていた。紋次郎もスフィルドもエネルギー補給に、水を飲んで、乾燥豆餅という保存食を食べている。そこへアースロッドが声をかけてきた。
「紋次郎どの、スフィルドどの、お主たちは途轍もなく強いの。これまで出会った者の中でも五指に入る強さじゃ」
そう言っているアースロッドも相当な実力者だと紋次郎は気がついていた。紋次郎の隣で戦う彼は、巨人兵を相手にその全てにおいて圧倒していた。さすがにその戦いぶりを見れば、紋次郎にもその強さがわかった。実はその戦闘において、アースロッドは、実力のほんの少ししか出していないかった。だが、実力を出していなかったのは手を抜いているのではなく、王の契約に縛られていたからである。魔界の国々の王は、魔界の土地を治める権利を得る為に、その能力の半分を魔界の神に預けていた。それは魔界の王である限り続き、王をやめない限りその能力は戻ってこない。
「それよりアースロッド王、どうしますか。この後、敵は本格的に攻めてくると思いますけど」
紋次郎の問いに、アースロッドは困った顔で返答する。
「うむ・・わからん・・どうすれば良いかのう・・」
何の策もないことを聞いて、紋次郎も言葉を失う。
「え・・とスフィルド、なんかいい案ないかな」
「そうですね・・私と紋次郎、それと王一人であれば、私の高速飛行で、強制離脱することは可能ですけど・・」
「ならん! それはならん・・部下達を見捨てるなどわしにはできん」
この王ならそう言うと思った。なので部下を含めて何とか助かる方法を考えないといけない。
だけど、それを考える時間など敵は与えてくれなかった。敵のすべての兵が、この砦に向かって一斉に動き始めたのだ。
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