第172話 城からの援軍

リネイの主城、謁見室にて、アースロッドは、アトラの軍が敵の一部を壊滅させたことによって、ブファメの軍が一時撤退したとの報告を受けていた。


「それは良い知らせじゃ、さすがはアトラじゃな。それで我が軍は今はどうしてるのじゃ」


「はっ。ドナウの街で待機しております。アトラ様が、この先の行動のご指示を仰いでいますがいかがいたしましょうか」

「そうじゃな・・ユルダ、どうすれば良いかの?」

そう話を振られたユルダは上の空で何かを考えているようである。アースロッドがもう一度声をかける。

「ユルダ、どうしたのじゃ」

その声でハッと我に返ったユルダは、慌てて返事をする。

「これは失礼いたしました・・我が軍がブファメの軍を撤退させましたか・・それはそれは良いことで・・・」

「それでこの先、どうすればいいか聞いておるのじゃが・・一度城に戻した方が良いかの?」

「いえ・・とりあえず街で待機させておきましょう。ブファメの軍はまたすぐに攻めてくるでしょうから・・」


「そうじゃな、そうしよう」

「それとアトラ殿に援軍を送ってはいかがでしょうか、もう少し戦力があれば、アトラ殿の力でブファメの軍を全滅してくれるかもしれません」

「なんと援軍をか・・・しかしこれ以上、城の兵を送れば、この城がもぬけの殻になってしまうぞ」

「アトラ殿がブファメの軍を倒してくれればそんな心配も無用でしょう」


「・・・それもそうじゃな、よし、ではアトラに二万の兵を送るように手配してくれ」

「はっ、ではそのように・・」


頭を下げてそう言ったユルダの顔は不敵な笑みを浮かべていた。



ドナウの街の周りは高い城壁で囲まれていた。アトラはそこへ兵を配置して、最悪ここで防衛戦ができるように準備をしていた。なるべく街に被害を出さないように野戦をした方が良いのだが、数では敵の方が遥かに多く、まともに戦えば勝てる見込みは低いと考えていた。


「すまぬな紋次郎、こんな戦争に巻き込んでしまって・・」


神妙な顔でアトラは紋次郎にそう謝罪する。

「いや、俺が自分で勝手に絡んできただけだから、アトラは気にすることないよ」


紋次郎はなぜかアトラと行動を共にしていた。包囲殲滅の危機を救い、このまま去ってもいいと思うのだが、紋次郎のお人好しさがここで出ているようである。


街の一角に作られたアトラの軍の司令部に、伝令が飛び込んでくる。


「アトラ様、城より二万の援軍が到着いたしました」

それを聞いたアトラは心底驚いていた。援軍は嬉しいのだが、二万の兵がこちらに来れば、城の守備兵は五千ほどしかいなくなる。それでは城の守りが手薄になるではないか・・


伝令は続けて指示を伝えてきた。

「そのままドナウの街で待機して、ブファメの軍が攻めてきたら、それを全滅させよとのことです」


「簡単に言うな・・・」


援軍を合わせてもこちらの兵力は7万ほど・・それに対してブファメの軍は10万を超える。防衛するのも難しい状況で、敵を全滅しろとは無茶を言う・・


アトラに司令部の一室を借りて、俺とスフィルドはここで泊まることになった。女性と同室ってのに少し抵抗があったけど、さすがに部屋の数に余裕があるようには見えなかったので、一人一室くれとは言えなかった。


「スフィルド、ごめんね・・変なことになって」

スフィルドは表情を変えずに、淡々とそれに対して話を返してくる。

「いえ、私は紋次郎の素の姿を見たいのです。私のことなど気にせず、自分の思うように行動してください」


その言葉に救われる。自分でも今何をやってるのかわからなくなってたので、素直に思うように行動しようと思った。


そのあと、アトラから食事も振る舞われた。黒いパンのようなものと、豆のようなスープ、それと硬い肉の塊などで、豪華とは言えない質素なものであったけど、アトラの気遣いが嬉しかった。


食事後にアトラから自室に呼ばれた。部屋に入ると、アトラは熱い炭豆茶のような飲み物を出してくれた。アトラは俺の話を聞きたくて呼んだようだ。その希望に応えるように、俺は元の世界の話を始めた。今まで聞いたことのないような話に、アトラは驚きながら俺の話にどっぷりとはまっていく。


「それでそのテレビとはどのようなものなのだ」

「色々な映像が映るんだ。それは物語だったり、事件や事故の報告だったり・・」

「ほうほう・・そうか・・」


アトラは遅くまで俺を返してくれなかった。飲み物を4杯ほど飲み干したくらいでやっと解放されて、俺はフラフラになりながら部屋に戻った。スフィルドはそんな俺の帰りを待っててくれた。それぞれ、ゴワゴワのベットに入る。寝心地の良い環境ではなかったが、すぐに眠りについた。


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