第168話 魔界の国家

赤い空の下、少し小高い丘の上に立つ、お世辞にも立派とは言えない城の中、30畳ほどの広さの謁見室にて、その城で一番マシな作りの椅子に座る一人の男がいた。おそこらくこの城の城主と思われる。頭部に二本の角が生えていることを見ると人間ではないようであった。そこへ慌てた様子の、猫の顔をした人型の魔物が急ぎ入ってくる。

「アースロッド様! ブファメの軍勢によってアルバメラの砦が落とされました!」


「なんじゃと! もうそこまで敵が迫っているってことではないか! どうするんじゃユルダ、このままではこの国が滅んでしまうではないか、父上から受け継いだ大事な国じゃ、潰すわけにはいかんのじゃ」

「ご安心くださいアースロッド様、今、城の兵を集めております。準備が出来次第、敵を殲滅する為に出発いたします」

それを聞いたアースロッドは、嬉しそうな顔でユルダと呼ばれた猫の魔物を褒める。

「そうかそうか、それは準備の良いことじゃ、さすがはこの国の宰相じゃな。だが・・城の兵を出すと言ったが、この城の守りはどうなるんじゃ?」

「アースロッド様、今、城の守りのことなど考えている場合ではないでしょう。敵は直ぐ近くまで来ているんですよ!」

「お・・そうじゃな、いや・・戦略もなにも知らぬ我じゃが、敵を迎え撃つなら城に立てこもった方が良いかな・・と」

「なにを言っているのですかアースロッド様! こんなボロ城、立てこもったところで、数時持てば良い方でしょう。ここは出撃するしかないのですよ!」

「おっ・・そうじゃな・・そうしてくれ」


ユルダはアースロッドに挨拶すると、謁見室から出て行く。部屋を出ると、ユルダは直ぐに外で待っていた犬の魔物に声をかけられる。


「どうでしたユルダ様」

「ふっ、あのバカ息子を言いくるめることなど、飯を食うより簡単なことだ」

「それでは、策通り、この城の兵を出兵させて、不利な戦いで全滅させる手はずはうまくいきそうですね」

「声が大きいぞイズム」

「はっ、申し訳ありません。ですがこれでブファメと内通して、国を売り、バカ息子を亡き者にした後に、ここの領主となる手はず、うまくいきそうでございますね」


「まあ、そうだな・・だがまだ安心はできぬぞ、あのバカ息子・・頭の中みは小さな木の実ほどしかないが、こと戦いとなると魔界に名を轟かすほどの武神、あれを殺すまでは気をぬくことはできぬ」


「そうでございましたね・・」

「まあ良い、お前は出兵の準備を進めろ、ワシはブファメと最後の詰めを話し合う」

「はっ。」


そう言うとユルダは、廊下を歩き、自らの部屋へと歩いて向かう。その顔は何かをやり遂げようとしている自信がにじみ出ていた。


紋次郎は今、空を飛んでいた。地表が見えないくらいの高いところを、スフィルドと手を繋いだだけの状態で高速で飛行していた。高いところは苦手ではないと思っていたが、これはかなり怖い・・・あれだったら、行きと同じように鳥の姿で掴んで運んで欲しいと思ったのだけど、なぜかスフィルドは、人型の姿で紋次郎と手を繋いで飛ぶことを選んだ。さすがに恐怖が限界を迎えたので、勇気を出してスフィルドにお願いする。


「スフィルド・・ごめん・・もう少し低いところをゆっくり飛んでくれるかい」

それを聞いた彼女は、どうしてそんなことを言うのだろうと不思議そうな顔をしたけど、お願いを聞いてくれて、高度を下げていってくれた。


高度がどんどん下がると、下の方に地表が見えてくる。地面が見えてくると、リアルな高さを感じて、これはこれで怖くなってくる。俺はもう一度スフィルドにお願いする。


「ちょっとあれだね・・空ばかり飛んでて疲れてきたかな・・スフィルド、ちょっと下に降りて歩いて移動しないかい」


特に不快な顔もせずに頷いた彼女は、そのままどんどん高度を下げていって地面に降りたった。


久方の地面に安心感を感じてほっとしていると、少し先に街のようなものを見つけて驚く。


「魔界に街がある・・・」


その呟きに、スフィルドが話をしてくれる。

「魔界にだって街も国もありますよ」


そうなんだ・・どうしてだろう・・何かの偏見だろうか、魔界は不毛の地というイメージしかなかったので、その事実は新鮮な情報に感じる。


俺たちが降り立った小高い丘の上から、魔界の街を少し見ていると、その街に向かって、かなりの数の人が移動しているのが見える。

「あれは魔界の人たち・・なんか集団で移動してるけど何だろう・・」

「おそらく魔界の国の軍隊でしょう。どこかで戦争でもあるのでしょうか・・」

彼女は少し悲しそう顔でそう話す。


そうか・・国があるのなら、そういった争いもあるんだ・・なんか嫌だな・・そう思いながら俺は移動している軍隊を少しの間見つめていた。






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